4. 人魚の目的
すっきりと目が覚めたセヴァはすぐに水槽へ向かう。
ハウスの中にいるのか人魚の姿は見えない。
入れていおいた水草が減っているので食欲はありそうだ。
支度をしようとリビングへ向かうと両親と妹が先に朝食を取っていた。
「おはよう!よく眠れたようだね!
今日からやることが山積みだ!」
「パパ、今度はスーカのお山遊びもにちゃんと付き合ってよね!
お兄ちゃんばかりずるいんだから!」
セヴァが朝の挨拶を返すよりも先に割り込んできたのはスーカ、6歳の妹だ。
お山遊びというのは、砂場遊びではなく、登山をするという意味で、夏が明けて涼しくなってくるこれからが子供でも山へ入れるシーズンとなる。
スーカはセヴァとは違い、海よりも山へ行きたがる。
「絶対に連れて行くから機嫌を直してね、スーちゃん」
まだまだ赤ちゃんだと思っているのか、父はスーカにデレデレだ。
母はいつもの事と涼しい顔で食後のコーヒーを飲みながら言う。
「あなた、お山へ行くのなら一ヶ月は放置しているケース1485の処理を急がないとね。
いい加減取り掛からないと間に合わないわよ。」
「パール、手伝っておくれよ、僕にはちょっと合わない仕事なんだよぅ。」
「いやよ、私も苦手なの。
前に手伝った時本当に大変だったの。絶対にいやよ。」
プイッと食器をまとめて行ってしまった。
夫婦での会話はいつもこうだ。お互いに、子供みたいになってしまう。
「パパ、約束だからね!」
妹はしょんぼりする父へ畳み掛ける。
食事を終え、部屋に戻るとハミングのような優しい歌声が聞こえてきた。
人魚が歌っている……!昨日の叫び声とは大違いだ。
邪魔をしないように水槽の前へそっと近づくと、こちらに気づく仕草を見せるも歌うことをやめなかった。
陸と水の間にある石に腰を掛け、手ぐしでモップのような髪の毛をほぐしている。
記録を残さねばと思ったが、あまりの美声に体が動かなかった。
歌い終わった後もしばらく余韻で動けなかったほどだ。
人魚が水の上を跳ねた音で我に返る。
「おはよう!素敵な歌声だね!」
「おはよう。久しぶりに気持ちよく歌えたわ。」
心臓が一瞬止まったと思うほど驚いた。
「あっ……あっわわ、え?おしゃべりできるの???」
「ふふっ、すっごく驚くのね!
私を拾った時より驚くじゃない。おもしろい!」
「……っい、いつから!?昨日まではなんて言ってるか分からなかったのに!」
「なぜかしらね。
体をきれいにして、あなたがくれた水草を食べて、虹色の石を眺めていたら声が出るようになったのよ。
綺麗な水の中でたっぷり寝たら、気持ちが良くなって歌ってしまったわ!
ところで、王子様知らない?」
「……王子様??」
突然おしゃべりになったと思ったら王子様の話になった。
「そう。人間の世界には素敵な王子様がいるのでしょう?
姉さま達に聞いたのよ。かっこいい王子様を私のお婿さんに迎えたらどんなに素敵かしら、と思うのよ。
それで海面に近づいて探し回っていたのだけれど、ゴミを回収する宇宙人みたいなヒトしか居ないじゃない?
しびれを切らして陸に近づいたらゴミに挟まって動けなくなってしまったのよ!
本当にひどい目に遭った!
ということで、人間のあなたなら王子様を知ってるわよね?どこにいるの?」
一度に喋りきった人魚の話に唖然とする。
「……王子様??」
「話聞いてた??」
不服そうだ。
ーーーコンコンコン
「セヴァ?仕事へ行ってくるけど、大丈夫?人魚のお世話も問題ない?」
母がドア越しに声を掛けてきた。
「うん、大丈夫!問題ないよ!」
「なにかあったらすぐに連絡するのよ。
もうすぐ週末登校も始まるのだから、準備を進めておきなさいね。」
「はーい。気をつけて行ってきてね」
気も漫ろに返事をしたが、セヴァはドアを開け母ときちんと顔を合わせた。
「行ってらっしゃい。」
「ママ、人魚って言った?
何か隠してる?お兄ちゃんばっかり、ずるい!」
母の隣にいたスーカが興奮する。
「帰ってきたらスーカにも会わせてあげてちょうだい。
遅れちゃうわ、行くわよ。」
見せて、見せて!と大騒ぎするスーカを引きずるようにして行ってしまった。
部屋に戻り、人魚に話しかける。
「つまり、あの、あなたは王子様を探しに来たんですか?」
「だからそう言ってるじゃない!早く王子様のところへ連れて行って!」
「確かに、僕達の世界には王子様というか…
王子様のような方はいらっしゃるけど……
君が期待しているような人ではないと思うんだよね。
それに僕、見ての通り、まだ十歳で普通の子供なんだよ。
王子様とお友達でもないし、簡単には会えないよ。」
「……そんな。姉さまがたの話の通り陸に上がればすぐに会えると思ったのに。
なんて酷い話なの。」
人魚は大げさに、絶望した、というようにがっくりとうなだれた。




