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セヴァと人魚の物語  作者: 添木かもめ
2章 -過去-

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17/17

17. いろはの話

いろはの過去編です

10話ほど続きます(本編並み……w)

いろはの父スマラグと、セヴァの両親であるサムとパールは子供の頃からの大親友だった。

成人してからも同じ研究所に勤め、環境保全に携わり、未来への希望を抱く明るい若者たちであった。

サムとパールは海洋研究、スマラグは森林研究や地質学を専門としていた。


穏やかで平和な日々を送る3人であったが、スマラグが1人の女性と出会ってから、その日常は崩壊する。


スマラグはサムやパールとの交流を絶ち、すっかり疎遠になってしまったのだ。

「近い内にまたみんなで遊びに行こうよ!」

と研究所内ですれ違ったタイミングで、サムが声を掛けるが

「うん、またそのうちにね。」

と、はぐらかされる日々が続いた。


しばらくして、サムとパールの結婚が決まったと同時に、スマラグの結婚も決まったと所長から聞かされる。

「私もよく分かっていないんだ。

相手の女性を紹介された日に、子供ができたから結婚するという報告を受けたんだよ。

私も妻ももちろん大喜びして祝福したんだが、その後一度も会えていないんだ……

仕事には来ているし、元気そうにしているから、ひとまずは様子を見ることにしている。」


今までずっと一緒に過ごしてきたスマラグの、あまりにもそっけない態度にサムとパールは違和感を覚えた。

あの優しかったスマラグが、1人の女性と出会っただけで、ここまで変わってしまうだろうか。

受験も、部活の試合も、学校生活も、何だって3人で報告しあい励まし合い、成長してきた、つもりだった。

もう子供ではないし、ずっと一緒に居たから、離れたくなったのかもしれない、と寂しい気持ちで過ごしていたが……

自分の両親とも距離を置くなんて何かおかしい。

隣でぎこちなく微笑みながら、少しさみしそうにするサムを見てパールはある決心をした。


お祝いと、自分たちの結婚報告も兼ねてスマラグの家に突撃する計画を立てる。

普通に話しかけても避けられるのは分かっていた。

3人とも近所に住んでいる為、在宅している時間はわかる。

事前に約束もできないほど避けられているので、直接押しかけることに決めた。



花束とケーキを持ち、深めの帽子を被る。

緊張の面持ちでスマラグの家へ2人で向かう。


普段はおっとりしているが、いたずらは大好きなサム。

久しぶりに見るサムのワクワクとした表情を見て、パールも楽しくなってきていた。

美味しいケーキを3人で囲めば、また楽しくお喋りできるはず。

お互いに近況報告をしつつ、結婚のお祝いをしようと家へ向かう。


スマラグが住む家は一軒家で、少し前まで所長夫婦と3人で住んでいた。

独り立ちのお祝いに譲り受けたという。

子供の頃から通い慣れた、サム達も馴染みの家だ。


カメラに映らないよう帽子で顔を隠し、インターホンを鳴らす。

「宅配でーす」とサムが平然と嘘を付く。

やる時はやる男だ。


インターホンから返事はなく、少し待つと突然玄関が開けられた。

「サプラーイズ!!!!」

サムとパールはとびっきりのテンションで紙吹雪を散らした。

……出てきたのはスマラグではなく、女性だった。

結婚すると言うのだから、一緒に住んでいても不思議ではないのに。

2人は当たり前のようにスマラグが出てくると思っていた。

やらかした、と心臓がバクバクし始める。


スマラグの妻となる人は不思議な雰囲気を持つ美人で、穏やかそうな人であった。

「あら、まぁ。どちら様ですか?」

ドギマギする二人をよそに、表情を少しも崩すことなく女性は尋ねる。

「あの、私たち、スマラグの友人で……

結婚の噂を聞いたのでお祝いに来たんです。」

「……あぁ!サムさんとパールさんね!

2人ともよく似た髪色に、グリーンの美しい瞳!

スマラグからよく話を聞いているのよ!

ようこそお越しくださいました。

主人を呼んでまいりますので少々お待ち下さいね。」

とにこやかに言いスマラグを呼びに家の中へ戻っていく。


この美しい女性に何か弱みでも握られて、脅されているのではないかと密かに心配していた2人であったが、その想像は簡単に覆された。

女性に手を引かれ連れて来られたスマラグは、握られた手を凝視し、顔を赤く染めていた。

「おまたせしました。」

とにっこり微笑む女性に目が釘付けで、こちらを見向きもしない。

脅されているなんてとんでもない、スマラグはこの女性(ひと)に心酔しているように見えた。


「こら、あなたに会いに来てくださってるのよ!」

と少しむくれた様子で女性はスマラグをつつく。

ハッと我に返り

「……あ、ごめんなさい!2人とも、来てくれてありがとう。

直接報告できなくてごめんね。この方が僕の奥さんだよ!

『シルエ』さんです。」

とにこやかに紹介を受ける。

スマラグの初めて見る、デレデレとした様子に呆気に取られていた2人だったが、気を取り直してお祝いの言葉を伝えた。

そして自分達の結婚も決まったと報告する。

「いつか2人は絶対に一緒になると思っていたよ。

おめでとう、本当に、おめでとう!」

結婚報告を聞いたと同時に優しく微笑み涙を流す。



隣でにっこりと微笑むだけだったシルエは、その様子を見て

「……おめでとうございます!

親友と同じ時期に結婚なんて、運命を感じちゃうわね!

それでは、またいつか。」

久しぶりに流れた3人の穏やかな空気と会話を、あっという間に打ち切り、玄関をパタンと目の前で閉めてしまった。


スマラグは穏やかでおとなしそうに見えるが、お喋りが大好きだ。

おいしいお菓子をつまみながら、ずっと楽しそうに1人で喋り続けるのだ。

玄関で立ち話だけで終わらせるような人ではない。


手に花束とケーキを持って立ちすくむサムは呆然とし、無言で玄関を背に歩き始めた。

もう一度インターホンを押そうと構えていたパールは慌てて後を追いかける。


追いついて来たパールを見て、サムはハッとする。

「これ、渡すの忘れちゃった!」

目に涙を溜めながら言う。

「奥さん、お腹に赤ちゃんが居るんだし、体調が良くなかったのかもしれないわね。

ケーキは帰って2人で食べちゃお!花束は明日渡せば良いわ!」

内心腹が立って仕方がなかったパールは、文句を言いたい気持ちをぐっと抑え泣きそうになっている彼を励ます。

「そうだね、スマラグと会えて良かった。奥さんの顔も見られたし。」

「突然押しかけるのはどうかと思ったけど、こうでもしないと会えないんだもの。

結婚式では盛大にお祝いしてあげましょうね!」


2人でトボトボと帰りながらできるだけ明るく振る舞う。

だが、その楽しみにしていた結婚式も開かれることはなく、時は過ぎていった。


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