1. 出会い
環境保全活動に携わるすべての方に感謝します。
地球の海がいつまでも美しくありますように。
昔々あるところに、セヴァという名の、磯遊びが大好きな十歳の少年がいました。
少年は、海洋研究者の両親に連れられ、海辺へ遊びに来ていました。
注意: ゴミ、生物の回収時、要起動!肌に付着した場合、ただちに報告!
セヴァ達が身につけている全てのスーツに注意書きされている。
海洋研究所から貸与される、このスーツを身に着けないと海へは近寄ってはいけない決まりとなっていた。
「潮が引いているこの時間だけ、採集許可を取っています。
セヴァ、夢中になりすぎて遠くまで行かないこと。良いですか?」
セヴァと同じ特殊なスーツに身を包んだ両親から、念を押される。
「もう、わかってるよ。
僕だって、入院は絶対いやだもん。
やっと夏期が終わって、外に出かけられるようになったのに。」
気をつけるようにいつも両親に念を押されているため、少ししつこい、と思ってしまう。
セヴァは両親のそばから離れ、手慣れた様子で岩の隙間を覗き込み打ち上げられた生物だったものを回収していく。
まだ命があるものは専用の機械に入れて保護する。
海洋汚染により、海に住む生物のほとんどが絶滅に瀕していた。
スーツなしで海に近づき、海水や、海洋ごみが肌に触れた場合、すぐに搬送され入院、精密検査をし、しばらくは通院が必要となる。
世間では元の綺麗な海へ戻すのはもう不可能だろうと言われていた。
これからの、この星の事を考えると、身震いがするほど怖くなる。
大人たちは手の打ちようがない、と口を揃えて言うがセヴァは諦めていなかった。
今からでもなにかできることがあるはずだと、両親にお願いし続け、採集に連れて来てもらえるようになるまで随分かかった。
少しでも危険なことがあれば、この作業はすぐに中断されるだろう。
夏期が終わったとは言ってもまだかなり暑い。
汗だくになりながら慎重に作業を進めていく。
ふと顔を上げると夕陽が海の向こうへ完全に沈みかけていた。
顔を覆うマスクの機能を停止し、一息ついた。
目の前に広がるのは、放射状の反薄明光線が空に広がる幻想的な風景であった。
汚染されているとは思えないほど、少しだけ残る夕陽に照らされた海面は美しい。
しばらく見とれていると、どこからか鳥のさえずりのような、歌のような声が聞こえてきた。
辺りを見渡すと、海に近い方の岩場周辺に波とは違う、ミストのようにキラキラ光るしぶきが舞っていた。
慎重に近寄る。
岩場の水たまりに詰まったゴミの隙間に、茶色い魚が挟まりビチビチと暴れていた。
慌ててスーツを起動し、ゴミを取り除いて魚を助け出す。
「ピーッ#$%!ˋ▲◇☆!●○✕ピッθν∆≫✶✴%+!!」
セヴァは驚いた。
今までどの図鑑でも見たことのない生物が手の上で叫んでいた。
まるで、絵本で見た人魚のような姿をしている。
しかし絵本で描かれていたように美しくはなく、海の水とゴミで汚れていて、頭にはボロボロのモップを乗せいているように見えた。
手のひらの上で叫び狂うその生物を呆然と眺めていると、突然静かになりぱったりと倒れてしまった。
慌ててそれを水の入った保護装置へ入れる。
ドキドキと胸が鳴る。
「ぼく、人魚拾っちゃったかも」
果たして人魚は手のひらに乗るサイズだっただろうか。
昔読んだ絵本を思い返しながら両親の元へ走り出した。
「父さん!母さん!」
慌てふためく息子の様子に、最初に気づいた父が急いで駆けつける。
「どうした!?海水に触れてしまったのかい!?」
慌てる父に向かって叫ぶ。
「ちがうよ!大丈夫!
それより、この子、何だと思う?」
機械のスイッチを押すと窓が透明になり中の様子が明らかになった。
茶色い、小さな鯉のような魚がモップに頭を突っ込んでいた。
水の中でふよふよと漂っている。
「セヴァ、魚を拾ったのかい?すごいじゃかいか!
僕だって生きてる魚を保護したのはいつだったか、覚えていないほど昔だよ!
大発見だね!」
「よく見て!人魚みたいなんだ!」
興奮気味の息子を見て父はハッと静かに驚く。
「パール!ちょっとこっちに来てくれ!早く、早く!」
父が母を呼ぶ。
「サム、そんなに叫んだら皆が驚くじゃないの!」
周りを見渡すと作業中だった職員は手を止め何事かと注目していた。
「あはは……大したことじゃないんだ。
邪魔してごめんなさい!僕達のことは気にしないで、すみません!」
父はちょっとしたことでいつも大騒ぎをするので、『やれやれ、またか』といった雰囲気になり注目は解かれた。
「パール、これを見てくれ」
声を落としながら母に水槽を見るように促す。
「あら、魚を保護したの!珍しいこともあるのね!」
「母さん、これ人魚だと思うんだけど」
母も先程の父と同じく静かに驚いた様子を見せる。
ほんの一瞬考え込み、2人は顔を見合わせた。
いつものにこやかな表情はなく、少し緊張しているように見える。
「セヴァ、ひとまず家に連れて帰ろう。
他の生物と同じように部屋でお世話できるかい?」
父は優しく、息子を見つめた。
「……僕がお世話してもいいの?」
初めて見る生物だったが恐ろしさは感じなかった。
一刻も早く帰宅し、この人魚をきれいな水で洗ってあげたくてソワソワする。
セヴァは両親の助けを借りながら、多数の水槽とろ過装置の管理、水草の栽培を自宅で行っている。
十歳という年齢にも関わらず大人に混ざって採集活動をしているのは、こういった努力と実力が認められたからだ。
「とりあえず、今日はこれで引き上げましょう。
セヴァ、すぐに帰りたい気持ちはわかるけれど、家に帰るのはスーツと体を洗浄して、一度研究所へ寄ってからよ」
母も優しくセヴァを見つめた。
美しく広がっていた反薄明光線も消え、黄昏時が訪れる。
人間たちの1日が始まる。




