口紅と天使
真っ白で真っ赤な赤子が落ちてくる。
口紅のような髪を踊らせながら、彼女は落ちてくる。
小さな翼も放り出して、ただひたすらに両手をめいいっぱいこちらに伸ばして。
それはまるで、天使のように。
・・・
「クライネ、いつまでここにいるの?」
「あとすこーしだけ…ルージュ様の御用が終わるまで……」
「あと少しで店じまいなんだけど」
「あと少しだけ」
そう言ってクライネはテーブルに突っ伏し、ボルドーの髪が垂れ落ちた。
そんなクライネを見たビジョンはお盆を置き、テーブルに広がっているクライネの髪を手に取る。
さらさらとしていて、しっかり手入れされている。
「フーン……そろそろ五月蝿くて見放されちゃったとか?」
「……た、確かにそうなのかも…」
「え、いや、今のは冗談よ」
ビジョンの冗談に震えるクライネ。
クライネの髪を手櫛で梳かしながら、ビジョンはため息を吐く。
「……あなたの髪の毛は口紅みたいね」
「…ルージュ様とおんなじこと言うんだね」
「街の人はみんなそう言ってる。それと……」
クライネはむくりと顔を上げ、ビジョンを見た。
ビジョンは窓から大聖堂を見つめている。
大聖堂は午後の陽の光の中にそびえ立ち、まるでこの世での巨大な存在価値を主張しているようだった。
「な───────」
なに、とクライネが口を開こうとしたその時。
ドアのベルが鳴った。
店に入ってきたのは、黒い革のコートを身にまとい、黒い革のブーツを履いた長身の麗人。
女性にしては重圧があり、男性にしては端麗すぎる。
その人物は結った髪を揺らし、クライネに近付いた。
「クライネ」
その人はただ、そう名前を呼ぶ。
それだけで、クライネの心臓は何度跳ねただろうか。
「ルージュ様!!!!!」
子供のように、クライネは椅子から立ち上がった。
今にも飛びつきそうな勢いだが、足踏みをするだけでその勢いを抑えている。
ルージュ様と呼ばれた御仁は、クライネはさておき、ビジョンの方に向けた。
「クライネがすまない」
かの人は、声でやっとなんとか性別が分かる。
ビジョンは「別にいいわ」と言いながら、はい、とこっそり紙袋をルージュに渡した。
「ルージュ様ルージュ様!」
「どうした」
「お菓子買って帰りましょう!せっかくビジョンちゃんのお店に来たので!」
「いや……今日はナシだな」
「ええ?!」
そう言い合いながら2人は店を出ていってしまった。
ルージュ・シュヴィンデル。女性。
長命種、年齢不詳。
オルド帝国軍初代元帥。
クライネ・オルゴール。女性。
長命種4000歳。
オルド帝国軍元帥直属補佐官。
及び聖天使、及び⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎。
「口紅の天使……」
そう呟いたビジョンはくるりと踵を返し、店の中へと戻って行った。
ビジョン・オリーブ。女性。
短命種13歳。
菓子屋「オリーブ」の店主。
・・・
「あーっ、ルージュ様!この紙袋、お菓子と紅茶が入ってますよ!」
「菓子屋のご令嬢からの贈り物だ」




