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第八話

「──それで、これからどうすんだ?」

「どうする、とは」

「家。分かってんのか?」

「……あ」

 わすれてた。かんがえてなかった。

「記憶に御座いません、ってか」

「申し訳ない」

「仕方ねえな。オレが送ってやるよ」

「……彼氏ヅラしてんじゃねえよ」

「してねぇよ!!」

「ふふっ、はははっ」

「何で笑ってんだよ」

「面白かったから。お前なんかツンデレだな。おもしろ」

「送ってやんねぇぞ」

「え、それなら私は貴方をストーカーして貴方の家に泊まるよ」

「真顔で怖えーこと言うな」

「さぁ、私を送ってくれたまえよ」

「上から目線すぎるだろ。送ってもらう側のくせして」

「何のことかな? ……あ。あと、さっき言われたとおり、誰にもこのこと言わないでよ」

「わーってるよ。……親御さんには、説明しないのか?」

「一旦どんな人かを確認してからにしようかと……。月見(つきみ)勇吹輝(いぶき)がどうやって接してたのかも分かんないし」

「だよな」

「…………」

「…………」

 さっきまで苦痛に感じていた沈黙も、今なら心地よい。心の内を初めて話した相手だからなのだろうか。だが相手はそんなこと思っていなかったようで。

「……あー、えっと……調子どうだ?」

「え、普通だけど。あーでもテンションは高めだよ。あーでも今からのことを考えると胃が痛くなる」

「今からのこと? ってなんだ?」

「トイレとか。お風呂とか。色々。そういうやつ」

「あー……。そうか。前世は、女だったんだっけか」

「そーだよ! やばい、どうしよう!! さっき考えるの置いといたせいでギリギリになって思い出しちゃったよ!!!!」

「大丈夫じゃなさそうだな……」

「スマホで調べればいっか」

「……まあ、それでいいならいいんじゃね」

「大丈夫じゃなかったら連絡するので」

「えー……」

「“えー”とはなんだ“えー”とは」

「…………じゃな」

「帰らないで帰らないで! 待って、連絡手段だけ教えて」

「え? LINEで良いだろ」

「え……あ、そか。地理に弱いから分からなかった」

「絶対に地理は関係無いだろ」

「機械系に弱いって意味だよ」

「どういうこと?」

「そういうこと」

「日本語喋ってくれよ、せめて」

「喋っているつもりでした。コミュ障は怖いものですね。脳と口が連動しません」

「親御さんの前でそんなこと言ったら一瞬でアウトだな」

「うぐ……。…………そもそもそんなに前世でも親と仲良く会話とかしたことないから分かんない……」

「……おら、ここだぞ」

「……ねえ、急遽うちに泊まらない?」

「は。……無理だよ」

「なんでよぉ……。今日だけ、今日の一回だけで良いから……ね……?」

「薬物みたいに言うな」

「何で無理なの……?」

「許可取ってねぇし……」

「今日だけ……! 今日だけでいいから……! ね?」

「チッ、仕方ねぇな。一応親に聞いてみるよ」

「メシアよ!」

「っるせえ、お前は黙っとけ」

 霞伊(かい)……。

 こいつマジでツンデレなだけでは? 可愛いやつめ。まあくるみんには敵わないけど。

 友達想いすぎるよ……。可愛いやつめ。まあくるみんには敵わないけど。

「……いいんだとよ」

「マジで!?」

「チッ、本当に今日だけだからな」

「全然全然! いいよ! ありがとう……っ」

 こいつ、舌打ちが癖なのではと思うほどに舌打ちしてくる。感謝だけども、そこが永遠にひっかかるんだよな。

「…………いいって。顔上げろ」

「はい」

「……普通そこはそんな素直に上げないんじゃないのか?」

「そうなん?」

「そうなんすよ」

「ほえぇぇ」

「なんだよほえぇって」

「え? 知らないの? 驚きや感心、納得を表す感動詞だよ」

「それは『へぇ』の話だろ」

「よくご存知で。それの亜種だよ」

「……知らねぇよ。聞いたこともねぇよ」

「……ねぇ、ところで。いつ家に入れば?」

「それのが知らねぇよ! てめぇで考えやがれ」

「酷い! ここまで私のこと連れてきたくせに!」

「正確には連れて来させたんだろうが」

「よし、入るよ? 入っていいんだよね? ここ私の家で合ってるんだよね? 不法侵入にはならないよね?」

「ならねぇよ……。落ち着け。とりあえず。一人称も戻ってるぞ」

「こう考えると英語っていいよね。“俺”も“私”もなく“I”でいいんだもん」

「そうだな? まあそうなのかもな? まあどうでもいいから早く入ろうぜ?」

「おうよ」

 私は恐る恐る月見勇吹輝の家の玄関のドアノブに手をかけ──一気に引いた──!

「(…………おい、早く『ただいま』とか言えよ)」

「(──! そ、そか、そうだよな)」

 考えの範疇(はんちゅう)外だった。

 私は大きく息を吸う。

 …………。

 ふぅ。

「……た、ただいまー」

「──おかえりー」

 お、おぉ、まだ見ぬ月見母の(Voice)……。

「お邪魔しまーす」

 霞伊が何事もなかったように言う。

「あらー霞伊くん? もー勇吹輝ってば、お泊まりする予定があるならもっと早くに言いなさいっていつも言ってるでしょー?」

「ご、ごめんなさい」

 とりあえず怒られたので謝っておく。そして私は混乱し出す。

「(ど、どうやってあがれば……!? え、まず靴脱ぐよね? で、でもそれからどこに行けば? え、え? どうする? どうすればいい? 何すれば正解?)」

「(お前今まではどうやって過ごしてたんだよ……。とりあえず靴脱げ。そこにたぶん仕舞えばいいから)」

「(お前、詳しいな。ちょっときもい)」

「帰ります」

「(だーーーーっ!!!! だめだめだめだめ! ここに! いて! お願い! だから! ほんとに!)」

「はぁ…………」

 本気で呆れられた。

「──もー、立ち話もほどほどにねー?」

 おそらく台所と思われる場所から声がした。

「「……はーい」」

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