第七話
「……はぁ。死にたい」
「……は? お前、急に何言ってんだよ」
「しにたい」
「焦点あってないぞ。つーか今の沈黙なんなんだよ」
私に言われましても分かりません。少し思考をしようとしたら沈黙になってしまって口を開けなかっただけです。
もうずっと死にたい。ほんっとうに死にたい。
……いや、死にたくはないな。
くるみんと結婚して私は老衰で死ぬんだよ! 出来ればくるみんと共に!
もう悔いは残さない。
誰に迷惑もかけない。
誰かの人生に干渉しない。
私の所為で人生が変わるようなことはしない。
きっと、それが運命なのだと、想わせるほど、魅了し魅了され虜にするしかない。
それが、自分のさだめだったのだと。
それが、自分の生きる、生きていく路なのだと。
そう想わせるしかない。
私無しでは生きられない、貴女無しでは生きられない、そんな心体に、して仕舞えば良いのだ。
私の所為で、お母さんは亡くなった。
私の所為で、お父さんは母を──この世で一番愛しい人を失い、おかしくなってしまった。
きっと今頃、正気の沙汰ではいられていないだろう。最悪の場合自殺ものである。
父は母に依存していた。これ以上はないと思うほどに。
母が死んでからもそれを受け入れず母の生まれ変わりと称した私に依存するほどに。
そう考えると、私は父と似ているのかもしれない。
一つのものに執着し、それ以外には何も価値はない。
月神紫音という一人の女の子に惹かれ、執着し、彼女が死んでもなお彼女を想い続ける。月神紫音のいない人生に価値はないと思っている。
雪風胡桃という一人の女の子に惹かれ、執着し、自らの死際まで彼女を想い、死んでもなお彼女を想い続ける。彼女のいない人生に価値はないと思っている。
……思った以上に父と似ている。
月神紫音と、雪風胡桃と出会うまで、何を糧に生きていたのかと思うほどに父は、私は、何かに執着し、価値を見出している。
それを失えばきっと命など要らないと思うのだろう。
“死にたい”と願うのは、私に“生きる”ということの意味が分かっていないためなのかもしれない。
でも、誰だってそうなのではないだろうか。
“生きる”ことの意味が、“生きる”ことの価値が分かっている人間など、この世に居るのだろうか。
理論上分かっていたとしても、直感的に理解出来る人など、この世に片手で数えられるほどしか居ないのではないか。
「──……現実逃避だぁ」
「……は。…………」
「あの、月見勇吹輝の一人称って何ですか?」
「『俺』だったと思うけど」
「なるほど。口調は?」
「オレとお前を足して二で割ったくらいな感じ」
「むず。なんそれ」
「そんな感じでいいんじゃねぇか? 知らねぇけど」
「俺、お前、トモダチ」
「いや駄目だな、カタコトすぎる」
「俺の名前は月見勇吹輝! ギャルゲーの主人公をしている。今日も今日とてヒロインたちを口説くぞ!」
「………………きしょ」
「本気のやめて」
「おーなんかいい感じになってきてるんじゃね?」
「よっし、それじゃあわたっ、じゃなくて、お、俺は今から何すれば良いと思う? 海野さんっ! あれっ? 霞伊だっけ」
「テンションどうした? 霞伊でいいよ。その顔と声で『海野さん』とか言われても気持ち悪りぃだけだからな」
「酷。霞伊……は、これから何するの?」
「帰って今日の勉強の復習と明日の勉強の予習」
「……え、えっっっら……」
「……っるせぇな。文句あんのか?」
「えっ、ちょっと待って、今何時間目?」
「6時間目の終わり」
「マジか……。ちなみにですが、頭は良い方なので?」
「まあ……毎回学年3位以内には入ってる」
「凄すぎて草」
「つーかお前は高三だったんだろ? これからの勉強なんて復習程度にしかならねぇだろ」
「あそっか。んじゃあ、わ──俺が毎回学年一位を取るとしますかねぇ」
霞伊はフンと鼻で笑って言った。
「ぜってぇ負けねぇからな」
少し友情が芽生えたような気がした。
「というか、なんでここがその……ゲームの世界だって分かったんだ?」
「えっと、それは……何でだっけ。……なんか……あっ、なんか、神擬き様の声がして」
「神擬き様⁇」
「それで、くるみん──雪風胡桃ちゃんを想い続けながら死んだから、この世界に送ってくれる、みたいな……」
「……ほーん」
「妙に納得が早いな?」
「理解することを諦めただけだ」
「まあその方が早いよな」
「だよな」
「あとは、何言われたっけ…………」
《其方のしていたゲームの世界に送ってやった。ついては、其方のゲーム設定と連動させてやるが、ヒロイン達との関係値は初期化させる。まあ楽しめ》
「えっ。なんか聞こえた……」
《ふぉっふぉっふぉっ。転生する魂を転生してから一週間見守るのが妾の役目じゃからのぉ。んまぁ、一週間経っても妾は居るがの》
「なんだ? 何が聴こえてるんだ? オレにもちゃんと教えろ」
《ふん。おぬしの名は……海野霞伊、とな。何ともゲームらしい名前よのぉ》
「うわっ、聴こえた! しかも失礼なこと言われた!!」
「えっ、霞伊聴こえてんの?」
《それと、そこの海野霞伊以外に其方の転生についてを話すことを禁ずる。どうしても話さなければならない状況になれば、妾に許可をとるように》
「なんでっすか?」
《いろいろといろいろあっていろいろになるからじゃ》
「語彙力どうした」
《まあそういうことじゃ。妾は気楽に見守っとくからのぉ~──》
「どっか……行った……のか?」
「みたいだな」
「とりあえず……帰る?」
「そう……だな」
いつのまにか帰る時間だった。




