第三話
お父さんは言っていた。あれはいつ頃だろうか。まだ、記憶の定着がうまく出来ないような、2、3歳の時。
──あの子のせいで、紫音は死んだんだ。つまり、あの子の中に紫音は居る。まさに一心同体。つまりあの子は紫音なんだ
──と。
控えめに言って、意味が分からない。
未だあの言葉が鮮明にフラッシュバックする瞬間がある。
信じられないと思うだろう。
2、3歳の頃の記憶だ──なんて。
ただの被害妄想だろう──なんて。
そう思うだろう。
でも、違うのだ。
確かに、信じられなかった。
だけど、この記憶は紛れもなく事実だ。
根拠は何もないけれど、本能がそう言っている。
私にそう告げている。
私は私しか信じていない。
私は私の感性だけを信じている。
他人の感性なんて知ったことではない。
「──月神さん。月神さん。大丈夫ですかー?」
「──ハイッ!? なっ、ななな何でしょう……っ」
「そんなに慌てなくていいでしょ……」
つい声が裏返ってしまい、隣の席の人に呆れられる。
「授業中に寝るなんて珍しいね。体調悪いの?」
「えっ」
今授業中? 考え込みすぎてて気付かなかった。というかいつの間に寝て? 本当に睡眠不足なのかも。
「あっ、えっ、えっ、えっと、体調、は、悪くない、と思うけどっ。あっ、あっ。昨日、寝たのが1時、で、起きたのが、4時で」
「はー? 馬鹿じゃないの? てかそれ昨日じゃないし。受験生なんだから、体調管理はちゃんとしないと。というかそんな時間まで何してたの? でそんな時間に起きて何するのさ」
「そ、れは、その……っ。……言え、ない」
「ふーん。まープライバシーの侵害だもんな。何れにせよ体調崩したら元も子もないからね。今日は帰って寝た方がいいよ」
「……え、……え……っ? 学校、早退する、って、こと、ですか……?」
「当たり前でしょ」
「そっ! ……んなこと、出来ない……よ」
「なんで?」
「受験生、だし……」
「だからこそでしょ。馬鹿なの?」
「バッ……馬鹿じゃない、もん」
「そうだね。成績は良い方だよね。毎回30位以内に名前あるもんねー。でも私生活は馬鹿の極みだね」
「…………っ」
ぐぬぬぬ。こいつなんかうざいぞ。
むむむ……はっ。……もしや、私のこと好きなのでは? なはは。そんな事あるわけないな。隣の席の人を心配しているだけだよな。なはは。自意識過剰が過ぎるわ。なっはっはっ。
なんか元気出てきた。
「有難うございます。なんか元気出た」
「お、おぅ? 急になんか饒舌だな」
「気の所為では? 授業に集中しましょう」
「あ、はい……?」
それっきり話してこなくなった隣人も、おかしなテンションになった私も、授業に集中し始める。それからは何事もなく、本日全ての授業が終わった。
「──ん〜……っ」
いつもより疲れていたので、伸びをすると、思ったよりも声が出て数人の生徒から見られた。
「……すっ、すみ、ません……」
小声で謝り、肩を縮める。バイトばかりしているせいで、業務会話以外出来なくなってしまった。
そして朝バイト、放課後バイト、夜バイト、という生活を送っているため、友達はいない。
まあ所謂、コミュ障である。
くっそ、心の中ならいくらでも喋れるのに……!
そして下校の時刻。
「──月神さん、ちゃんと帰って寝なよー」
「ひゃいっ」
「だからそんなに慌てなくていいでしょ……」
◇
「──えー。里楽ちゃん、体調悪いの? 大丈夫? やっぱ遅くまで働いて朝早くから働いてるからだよ。有給出したげるから、今日は帰って寝なさい?」
「……バイトの有給って何ですか……」
「んー。じゃあ、おばさんからの臨時収入ってコトで!」
「……分かりました。ありがとうございます」
「うむうむ。素直でよろしいっ」
もう直ぐで40になるのに若々しくて元気だなぁ、美緒さん。
さてさて、帰る許可も得られたことですし……帰って何しようかなー。
──ちゃんと帰って寝なよー
──今日は帰って寝なさい?
クラスの隣人と美緒さんの声がふと蘇る。
……はぁ、仕方ない。
とりあえずくるみんのキャラソンでも聴くか。
【♪~君に届いているかな。私はいつもあなたを想ってる~♪】
ん~~〜~っ。やっぱりいつ聴いてもいい歌だし、くるみんいい声! 結婚しよう!!
うんうん、届いてるよぉ! 私も想ってるよー!! だからやっぱり結婚しよう!!!!
それで……毎日くるみちゃんにお味噌汁を作ってもらうんだぁ……新婚旅行では、温泉に行ってぇ…………ふへへ。ふへへへへ。
毎日登校でぇと……。休日もでぇと……。
春には花見に行ってぇ……イースターもあるからばにーさん…………。
夏には海で水着…………えへへへ……一緒にお祭りでぇともしたいなぁ……浴衣くるみんかわゆい……。
秋にはハロウィンで仮装……黒猫……魔女っ娘……何のコスでもくるみんは可愛いよぉ……? うふふふ…………。
冬には雪でぇと……。くるみんの名前のとおり、雪イべだよぉ……。マフラーまいてぇ……あったかいここあをいっしょにのむの……。くるみんはにっこりわらってくれるの……あったかいね、おいしいね、っていってわらいあって……。
それでぇ……でぇとのさいごにはきっすをするんだぁ……。
へへ、えへへ、えへへへ、ふへへへへ〜……♪




