第十二話
「──もー。呼んだらすぐ降りてきてっていつも言ってるでしょー?」
「あっ、ご、ごめんなさい」
「急にお泊まりしたいなんて言ってくるし……」
「すみません……」
「まあいいわ。早くお風呂入りなさい」
「はぁい」
それからは特に何もなかった。いや、考えなかった、の方が正しいかもしれない。目に入ってくる情報全てをただの事実として客観視していた。普通に脱衣所まで行き、着替えを棚に置き、服を脱ぎ、洗濯物かごに入れる。お風呂の戸を開け、いつもと同じように洗い始める。どこの家庭に行ってもシャンプー、リンス、ボディソープなどは揃っている。また、それぞれが分かりやすい。感想としては、まあなんか、でけぇなぁということだけをここに記しておこうと思う。それ以外はもう記憶しない。してない。
湯船に浸かりしばらくぼーっとしてから、お風呂を後にする。お風呂から上がり、タオルで身体を拭き、服を着る。何事もないまま、脱衣所から出る。
「あ、お風呂出たー? 霞伊くん呼んどいてー」
という月見母の声が聞こえたので、また二階へ上がって行く。階段を上がる私の足音を聞きつけたのか、霞伊はさほど驚いた様子はなく、
「──おー。おかえり」
と、未だ制服の姿のまま言ってきた。
「ただいま。……次霞伊、お風呂だって」
「おう。……んじゃ、行ってくるわ」
いつのまにか持っていた着替えを脇に抱え、私とは違い軽々と階段を降りていく。……そういえば私、自分の分しか着替え出していなかったような。ということは部屋の主人がいない間に引き出しを探っていたのか? なんか気持ち悪。……とか言ったらもう帰るとか言ってくるしもうまじでなんか気持ち悪。ごめんて。でもさぁ、だってさぁ。私としてはそんなこと言うつもりはないんだよ? 違うんだよ。私は、ただただ、霞伊と親睦を深めようとしているだけで。誤解なんですよ。ちゃいますねん。本当に。ああああああああああ!
「あ゛ー゛ー゛ー゛……」
まいっか。あと私がすることは、夕飯を食べる、寝る! 以上だから、まあこの寝る時に霞伊と話すことでも考えとくか。まずまあ私はとりあえずこの世界で月見勇吹輝として生きていくじゃん? まあとりあえずトイレ、お風呂、着替えという性別の関門は潜ったじゃん? じゃあもう問題なしじゃん。あとは……どうやって胡桃ちゃんとお近づきになるか? そんなん考えてもしょうがないやんけ。そういえば霞伊がジュンブラ体験イベがあるって言ってたっけ。あ、でも行ける確率がゼロに近いからその話は無しになったんだわ。
◇
「──あ」
その頃霞伊はお風呂に浸かっていた。他人の家の風呂で寛げるほど霞伊の神経は図太くなかった。
なのでささっと入ってささっと洗ってささっと出るつもりだったのだが、お風呂に浸かって考え事をしているうちに、結構時間が経っていたらしい。
何を考えていたかといえば、この夜に勇吹輝と話す内容について。奇しくも今二人は同じようなことを考えていた。……もっとも、勇吹輝については考えているとは言い難しものであったが。
霞伊は一つ思い出したこと、そして一つ考えついたことがあった。まあこれについては早急に伝えねばならないことではないので、寝る時でいいか、と考えていたところだった。
そこまで考えたところで、霞伊は湯船からゆっくりと立ち上がった。
◇
「──勇吹輝ー! ごはーん!」
「っ、はーい!」
っし、今回は返せたぞ、偉いぞ、私! 霞伊はもうお風呂上がったんかな?
私は部屋の電気を消して、階段を降りる。
「まったく、部屋に籠らないでって言ってるじゃない。ほんと、いつもいつも……」
「すみません……」
どう返せばいいか分からないので、とりあえず謝っておく。
「ま、いいけど……。霞伊くん、遠慮せずに食べてね?」
「あ、はい」
「じゃあ……合掌。いただきます」
「「いただきます」」「い、いただきます」
月見母が号令をかけ、私たちもあとに続いた。……私は反応が少し遅れたのでなんかぎこちなくなったけど。
何はともあれ、今日の晩ご飯はハンバーグ! これは美味いぞ……。目から美味いと感じているからな……。んふふ……じゅるり。
では、実食。
──ぱくっ。
「──‼︎」
こ、こ、これは…………! 噛んだ瞬間に肉汁がじゅわぁっと広がって、口の中でとろけるような感覚……! これは美味すぎるぞ……っ!
美味すぎて箸が止まらない。
「ん……。めっちゃうまい……」
と、隣に座っている霞伊も溢していた。
◇
あっという間に食べ終わって、歯磨きもして、また部屋に籠ることになった。表面上では親に「おやすみなさい」と告げている。まあお泊まり会なのでちょっと夜更かししても怒られないだろう。たぶん。友達いたことないから分かんないけど。まあ早く寝なさいと言われるくらいでしょう。知らんけど。
「──じゃあ、明日からの私の生活について話そうか」
「すごく意味の分からん話し始めだな。まあいいけど」
「いや、私考えたんだけどね? あ、俺考えたんだけども、思ったより問題ないんじゃないかなぁと思って」
「……? というと?」
「いやぁ、性別面で言えば大体の関門は潜り抜けたかなぁみたいな。トイレとかーお風呂とかー着替えとかさー? んで、残りの問題としては胡桃ちゃんの話だけど、まあこれについては為せることなくね? って結論に至った。どう?」
「……んーまあお前にしてはよく考えた方なんじゃねぇか?」
「え、酷い! そんな私がいつも何も考えていないかのような言い方! そうだけど!」
「そうなんかい」
「んで? 霞伊は? なんか考えた?」
「ああ。一つ、思い出したことと、もう一つ、考えたことがある」




