表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/13

第十一話

「──えー。それでは、これからの計画を立てたいと思います。えいえーい?」

「おー」

「声が小さい!」

「…………」

 『付き合ってやったのに』とジト目で見られた。

「……はい、それでは始めていきましょう」

 私は勝手に──まあ私が勇吹輝(いぶき)なのでいいと思うのだが──勇吹輝の引き出しをあけ、ルーズリーフを取り出した。

 見出しに〈これからの計画〉と書く。

「えーっと、まず今日が6月15日で、と」

 6月15日と書く。

 そして、三つ点を書き、説明書きを加える。

 えー、霞伊(かい)とお泊まり、と。

「まずはお風呂でしょうか、それともご飯でしょうか」

「どっちでもいいだろ」

「……そっすね」

 夕飯、入浴、と追加する。

「寝るのはどこ?」

「……ここでいいんじゃね? 二階だし、何かと都合がいいだろ」

「……何かと、とは」

「リビングと離れてるから話しやすい、とか?」

「なるほど」

 就寝(勇吹輝の部屋で)、と……。

「じゃあ話すのはこの時でいいね」

「そうだな」

「じゃあ着替えをまず準備しておこう。というか私はこの部屋を探検することにする」

「そうか。んじゃオレの着替えも取っといてくれ」

「は? 嫌だけど」

「は? なんでだよ」

「は? だって男物だよ?」

「は? だからなんだよ」

「は? 私触りたくないに決まってんじゃん」

「は? お前は今からそれを着るんだが?」

「は? 知っているが?」

「……ごめん、オレはお前が何を言っているのか理解が及ばないよ」

「手伝えってことだよ!」

「なら初めっからそう言え!」

「ヒドイ! そんなに責めなくたっていいじゃない!」

「あ゛ー! お前マジでめんどくせぇな!」

「…………。よし。真面目にいこう」

「……ああ。まあ、お前から始めたことだけどな」

「……。うん。まあ。うん。そう。だね」

「………………」

「………………」

 私達は無言で簞笥(たんす)へ向かう。

 なんでだろう。

 私達よく叫んだり無言になったりするなぁ。

 …………。ほとんど私のせいか。じゃあ仕方ない。

 簞笥を片っ端から開けていく。

 この部屋の簞笥は、三段が二つ。

 右側の一番上には、夏物のトップスが入っていた。

 真ん中には、夏物のボトムス。

 一番下には、夏物の家着と、下着、靴下が入っている。

 一旦霞伊と顔を見合わせる。

「…………」

「…………」

 目的のものは発見したが、左側の簞笥も開けることにする。

 おおかた予想はできる。どうせ冬物のもんが入ってんだろ?

 そんなことを考えながら、左側の簞笥を開けていく。

 一番上には、冬物のトップス。そしてセーター。

 真ん中には、冬物のボトムス。

 一番下には、冬物の家着、そして上着が入っていた。

 ほれ見ろ。私天才。

「え。これ取ればいい、んだよね」

「……そうなんじゃねぇか? そこについてはオレも何とも言えん。そんなプライベートまで把握してねぇわ」

「まあだよね。してたらきもいもん」

「……やっぱ帰ろうかな」

「?」

 私は霞伊の腕を握りしめる。

 強く。とぉっても強く。

「帰さないよ?」

「お前、思ったより力強くね? 痛えんだけど。痛えんだけど! 痛い! 痛い痛い!」

「…………」

「……え? どうして放してくれないの? 怖い」

「いやだってまだ帰ろうとしてるよねぇ!?」

「…………ツッコもうかツッコもうか悩んだんだけどさ。ちょっといい?」

「…………どうぞ」

「そのちょっとおかしなイントネーションなんなん?」

「はい?」

「『帰さないよ?』って普通言う時は“え”と“い”が下がるんだよ。でもお前はなんていうかいろいろ反対な発音なんだよ! “え”であがってまた“な”であがってんだよ」

「えぇ? そうかなぁ?」

「そうなんだ! 『帰ろうとしてるよねぇ!?』もだよ! 普通“してるよ”で一旦下がって“ねぇ”で上がるんだ! でもお前はずっと上がってんだよ! 一旦下がって、がないんだ!」

「君は何をそんなに必死なんだ?」

「オレの方が分かんねぇよ!」

 かわいそうに……。馬鹿なことで必死になっちゃって……。

 と、

「──おーい、二人ともー! お風呂沸けたわよー! 先に入っちゃってー!」

 そんな母の声が響いた。

「……だってよ」

「……返事とかしなくていいのか?」

「返事とは」

「まあもう遅いしいいだろ」

「確かに」

「んで?」

「はい?」

「どっちから風呂入るんだ?」

「え、同時」

「ばっ、入んねぇつってんだろ!」

「なっ、ひ、酷い! やっぱり私なんて遊びだったのね!」

「何の話だよ。気持ち悪りぃ」

「んじゃ諦め〜。じゃんけんで決めよ」

「切り替え早すぎて草」

「それがーいちばんだいじー」

「……じゃあ、じゃんけんで負けた方が先な」

「うい」

「「最初はグー、じゃんけん、ぽん!」」

 私はグー、霞伊はパーだった。

「くぅ……っ。私は今後一生グーなんか出してやらないんだから……っ!」

「オレがチョキ出してたら何で言ってたんだよ……」

「“一生この拳を愛す”」

「手のひらころっころだな」

「んじゃまあお風呂入ってきますわ」

 私はさっき出した着替えを手に取り立ち上がる。

「がんば」

「ん」

 私は霞伊に背を向け、一人歩いていく。

 それはさながら、戦場へ赴く武士の如く。

 私は階段を一段一段丁寧に踏みしめながら降りていく。

「……、……っ……、…………」

 一旦真剣に考えよう。

 私は前世が女で、今、現世では男。

 しかも、他の人間の魂を押し除け、入ってきた私。

 まあもともと、この『月見勇吹輝』は私のゲームアカウントの『主人公』だそうなので、押し除けるというのには語弊があるかもしれない。

 その『主人公』は『私』なので、『月見勇吹輝』イコール『私』と言っても過言ではないだろう。

 そもそもこれはなんのためなのだろう。

 私はどうして転生してきたんだろう。

 なんであのまま死ねなかったんだろう。

 悔いがあったから? 私の執着心ゆえ?

 どうして。なんで。そもそも。どうして、なんで、そもそも、どうしてなんでそもそも──


 ──ああ。やっぱり、深く考えるのはやめにしよう。


 考えたって答えは出てこないしそもそもない。良いことなど一つもないのだ。

 そうだ。

 そうか。

 私はいつも、考えすぎていたんだ。

 いつも自分のせいだと。

 もっと気楽で良いんだ。

 もっと、もっと、気楽に考えていけば良いんだ。

 きっとそれが、今は一番良い選択肢。

 階段の最後の一段をすとん、と降りた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ