第一話
私・月神里楽の家は父子家庭である。母は私が生まれる時に亡くなった。我ながら高校生とは思えない日常を過ごしていると自負している。
学校が終われば、すぐにバイトへ向かう。
うちの高校はバイトは基本禁止だが、家庭の事情により特別に許可を貰っている。
放課後などに友達と遊ぶ時間などないため、ほとんど友達がいない。勿論の事、部活にも所属していない。
友人がいないのは寂しいと思ったことがないと言えば嘘になるが、こんな生活を何年も続ければ慣れたものである。
多少の奨学金は貰えど、大学受験のためにお金がどうしてもいるし、今のままでは足りなさ過ぎる。
早朝からバイト。そのまま学校へ向かい、そのまま深夜までバイトだ。23時までバイトをし、家に帰ってから就寝するまでに1時間かかる。食事を済ませ、入浴をし、食器、風呂を洗う。トイレ、部屋の掃除は毎週日曜日のお昼にやっている。0時に就寝し、4時に起きる。身支度、食事を済ませてから5時のバイトへ向かう。
「はぁ……」
バイトへ行く途中、ふと自分の人生を振り返り、変わらない毎日にうんざりして、溜め息を吐く。
あー……。ゲームしたい。
『A.S.C.T.GIRLS トキメキ☆ダイアリー』のくるみんを愛でたい〜~っ! A.S.C.T.とは、All Season Climate Time の略だ。どの季節でも、どの気候でも、どの時間でも、女の子といちゃいちゃ出来るということだ!
ああ、電車で愛でとこ。
んふふふ。何時もながらきゅわゆいなあ。にひ、えへへ。アプリを開くと出てくる、設定した推しキャラによる出迎えについニヤニヤする。
──えっ!?
そして次に出てきたゲーム内お知らせに驚愕し、戦慄する。それはそうだ。
だって──明後日からくるみちゃんのイベント、だと……!? つ、つまり……ガチャが来るってコト……だよね……?
よっしゃ、バイトの合間にガチャチケ集めよ。他のキャラのストーリー垂れ流しとこ。
──嗚呼、雪風様、胡桃様。私の救世主よ。どうか、私に運をくだされ。くるみんを……どうか、どうか……出させてください……! くるみんを出すためにくるみんに縋るのはおかしいと言う意見はあえて無視する里楽です。 明後日まで私は徳を積みに積みます!
《──お次は、迫田駅、迫田駅──お次は、迫田駅、迫田駅──》
えっ、やばっ。次の駅降りるとこだっ。くるみちゃんを愛でていると、私が降りる駅が次に迫っていた。
降りる準備降りる準備──っと。まあでも、早朝過ぎるので席を立っておく、とかそういうことはしなくていいから少し楽だ。
徳を積むとは言ったけど、何しよーかな。
ふむ。
まあ私にとっていつも通りの日常が徳になるかもしれない。
《──間もなく、迫田駅に到着致します──出口は左側です──お降りの際は、足元にご注意ください──間もなく、迫田駅に到着致します──出口は左側です──お降りの際は、足元にご注意ください──》
よっし、今日も一日頑張ろう!
……眠い。
くるみちゅわんを愛でに愛でれば徳になるカナ?
などと馬鹿なことを考えながら歩いていると、私が早朝と深夜に働かせてもらっている、年中無休の素晴らしい場所──コンビニに着いた。
「──店長、おはようございます」
「んー? おーおはよう、里楽ちゃん」
「ちょっと……レジで寝るのはダメですよ。いくらお客さんがほとんど来ないからって」
「んもー。里楽ちゃんってば厳しいなあ。……まあ、よく似てるよね、紫音に」
ふっ、と目を細め、懐かしむように、店長の美緒さん──私のお母さん・月神紫音のお姉さん、つまり私の叔母さんだ──が言う。
「私は、お母さんに会ったことがない、というか、お母さんの記憶がないので……寂しくなるのでその話はやめてください」
「あっはあ。……ふふ、あたしがお母さんになってあげようか?」
「もう。大丈夫ですってば。そちらにもそちらの家庭がありますし。迷惑かけれません」
「もぉ、子供は迷惑なんてかけてなんぼでしょうがぁ」
「まあある意味ここで働いている時点で迷惑かけてるのかもですね」
「んまあ、でも、里楽ちゃんも5月に18歳になったしぃ。ちゃあんとお給料あげれていいねぇ」
「あーそんなこともありましたね」
「そんなことって……まだ一ヶ月前の話だけど?」
「そうですっけ? 随分前のような気がしました」
「…………。働きすぎは良くないよ? あたしのとこ以外にも放課後バイトに行ってるんでしょう? 咲庵さんから聞いたよ」
「……あぁもう。お父さんったら余計なことを」
「ほとんど顔を合わせてくれないから、嫌われてるんじゃないかって心配してたよ~?」
「まさか。感謝しかしてないですよ。私のためにずっと働いてくれてるんですから。普通、妻が亡くなったらもう少し自暴自棄になります」
「……まるでなったことがあるような言い方……もしやタイムリーパー?」
「そんなわけないじゃないですか。私のせいだーとかで私のこと見殺しにする可能性だってあったかもしれないですし。感謝してもしきれません。…………例え、私にある母の面影を追いかけているだけだとしても」
最後に小声で言った言葉は聞こえなかったのか、美緒さんは感動したかのように瞳を潤ませ、口元に手を当てる。
「ちゃんとお父さんの目を見てそれ言ってあげて。それこそ自暴自棄になったかのように泣き崩れるから」
「……なんか嫌ですね」
商品参列の確認をしながら会話をする。私が一日で一番話すのは美緒さんと言っても過言ではない。




