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第三話 Secret revealed

 俺とハナには共通点がある。それは、()()()であるということだ。



 俺たちを含む、三十人ほどの子供たちは研究所で産まれ、研究所で育った。

 そこでの暮らしはなかなかにいいもので、衣食住はもちろん、欲しいと言ったものは何でも与えられた。強いて言うなれば、産みの親からの愛情を一切受けれなかったことぐらいだ。それでも母親代わりのような人もいて、その生活に満足していた。


 ハナと初めて出会ったのは十三の頃。当時ハナは十二歳だった。周りの同い年の子と比べると小柄で、色褪せた絹のような淡い白髪が印象的だった。


 「おはよう!俺の名前は照橋久遠。久遠でいいよ!君の名前は?」

 「お、おはよう。私はお母さんがロシア系で名前を付けてもらってないの」

 「そうなんだ…」

 

 彼女は別の施設で生まれ育ったらしく、環境も劣悪だったそうだ。それを聞いたとき、俺がなんとかしなきゃと思った。


 「ねぇ、何読んでるの?」

 「お花の図鑑」

 「花が好きなの?」

 「うん」

 「じゃあさ、『ハナ』ていうのはどう?」

 彼女はポカンとした表情をしている。

 「君の名前だよ。花が好きだからハナ。ちょっと安直すぎるかな?」

 「ううん、嬉しい。私の名前はハナ。お花が大好きだから」


 ハナが初めて笑った。それは夢かと思うほど淡く、今にも消えてしまいそうだった。でも、そのかみしめるような優しい笑顔は一生忘れることはないだろう。


 二人はより一層仲良くなった。一緒に遊んで、一緒に勉強して、一緒に笑い合った。しかし、そんな幸せも終わりを迎える時が来た。



 二年ほどたったある日、ある実験が行われた。簡潔に言ってしまえば人間を不老にする実験だ。そんなもの成功するはずもなく、次々と仲間が死んでいった。俺たちは意図的に作られたモルモットでしかなかったのだ。この実験も終盤に差し掛かり、残るは俺とハナだけになった。

 ここからはあまり覚えていない。ただ、耐えきれないほどの苦痛と、ハナの悲痛な叫び声だけが耳に残っている。


 俺たちは生き延びてしまった。とは言え、実験は失敗に終わる。俺は見た目だけ老いることのない半端ものになった。それでも上流階層の人間はそれで満足したらしく、この薬が流通することとなり、ある意味では成功だったのかもしれない。

 問題はハナだ。不老()()になってしまったのだ。理不尽にも、この禁忌を犯した代償を、その身一つで背負うことになった。理由はあまりわかっていないが、恐らく十二年間投与されていた薬の影響でこうなってしまったらしい。


 当然これで終わるはずがない。人間というのは強欲だ。やはり完璧な不老を求めた。不老不死ができるなら、不老のみも可能だろうといった判断らしい。

 それからは、実験という名の拷問が続いた。不死身故、何をしても死ぬことがない。扱いも段々ぞんざいになっていった。そこで行動に出ることにした。


 「ハナ、起きてるか?」

 「うん、起きてる」

 「今からお前を逃がす。もう手筈は整ってるから。一人でも元気でな」

 「嫌だ!久遠も一緒じゃなきゃ嫌。今までも久遠がいたから耐えられた、私一人でなんて生きていけない。それに、私がいなくなったら今度は久遠が…」

 「それに関しては問題ないよ。俺は死んじゃうし」

 「でも…」

 「大丈夫。必ずまた会いに行く。それまでの辛抱だから」

 

 「約束だからね、私待ってるから」


 そうして、何とかハナを逃がすことができた。あとは()()に乗るだけだ。一応当てがある。この実験に疑念を抱いていた研究員の人だ。ハナを逃がす時もその人の助けを借りた。確証があるわけじゃないが、必ず逢いに行く。そう約束したから。


 「これがタイムマシンだ。例にもれず失敗作なのだがね」

 殺風景な部屋に大きな銀色のカプセルのようなものが鎮座している。これがタイムマシンか…

 「本当にこれを使うのかい?未来への一方通行のうえに、▲■■■◆年後にしか飛ぶことができない。命の保証もできないぞ」

 ゆっくりと大きく頷く。

 「わかった。準備をするから待っててくれ」


 多分、二度とこの研究所に戻ってくることはないだろう。あんなに酷い目にあったというのに、少し名残惜しい気がする。最後に広場に行こう。あそこには花壇がある。


 『ユーフォルビア』前にハナと見つけた花だ。花言葉は、「君にまた会いたい」「デリケートな美」繊細で美しく、白くて小さな花を咲かせる。この花はハナとよく似ている。

 これを持っていこう。君とまた会うためのお守りとして。そして、これを持って現れたらロマンチックだと思ったから。ユーフォルビアと期待をポケットにしまい、あの部屋に戻る。


 「準備できたぞ」

 「よろしくお願いします」

 「確認だ。今から▲■■■◆年後のここに飛ばされる。その時に、ここや()()がどうなっているかわからんぞ」

 「はい」

 「じゃあ達者でな。無事に会えることを祈ってるよ」


 特にこれといった感覚はない。小林(こばやし)さんが言うには、凍っていた時間が解凍されるようなイメージらしい。


 次の瞬間、無限に続く花畑で目を覚ます。

 「え?死んだ…」

 しばらく絶望し、冷静さを取り戻す。体中が痛いけど、感覚はあるみたいだし、生きてる。つまり成功したのだ。未来はこんなことになってるのか。周りを見渡すと、不自然に花がへこんでいる場所がある。

 近づくとそこにはハナがいた。あの日と全く変わらない姿で寝ていた。


 「おはよう!」

 目を覚まして周りをきょろきょろしている。寝起きのハナも変わってない。

 「おーい。起きた?」

 何て言うべきかな?「久しぶり」とか?「お待たせ!」でいいかな?と何を言うかでウキウキしているのも束の間。



 「えっと、どなたでしょうか?」



 一瞬、理解ができなかった。でもすぐにわかった。あまりにも時間が経ちすぎたんだ。待たせすぎてしまった。俺の考えが甘かった。もう過去には戻れない。

 「俺の名前は照橋久遠。久遠でいいよ!君の名前は?」

 もうすべて覚えていないんだ。今は平静を装うことすらも苦しい。


 「ごめん。名前聞いちゃいけなかった?」

 「あっ、忘れてた」


 「私の名前は、ハナ。理由はお花が好きだから。これからよろしくね!」


 ああ…俺が付けた名前だ。


 「こちらこそよろしく!」


 ハナは申し訳程度に会釈をする。


 すべて俺の責任だ。どれだけの間ハナを独りにしていたのだろう。とても辛かったはずだ。『必ず会いに行く』と言った言葉を信じてどれだけ苦しんだのだろう。それと比べて俺は、さっきまでくだらないことを考えていた。もう二度と独りにしない…したくない。俺も不老不死だったらこんな思いさせずに済んだのかな。ごめんな。


 ハナからしたら残り少ない時間だけど、その間だけでも、ずっとそばにいてやろう。俺のことを覚えていようが、覚えてなかろうがハナはハナだ。最期まで一緒にこの世界で過ごそう。


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