第1話 Frozen time melts away
きっと幻でも見ているのだろう。深く息を吸って、吐いて、ゆっくり目を閉じ、再び開く。しかし、そこには顔を覗き込む男がいた。
「おーい。起きた?」
どこか懐かしい匂いを漂わせ、爽やかな声と暖かい笑顔で呼びかけてくる。十五歳くらい?で清涼感溢れる、いかにも「好青年」といった具合だ。見覚えがあるような、ないような…
「えっと、どなたでしょうか?」
「…俺の名前は照橋久遠。久遠でいいよ!君の名前は?」
一瞬、彼の表情が曇ったように見えた。どうしようもないくらいに哀しい顔だ。思い当たる節はないけど、たぶん私は酷いことを言ってしまったのだろう。平静を装うとする彼の姿を見るのはとても苦しい。体のどこかが痛むような感覚だ。
「ごめん。名前聞いちゃいけなかった?」
「あっ、忘れてた」
どうしよう。自分の名前なんか覚えてない。今決めなきゃ!考えろ、考えろ、うーん。
そうだ!私の好きなものにしよう。私はお花が好き。とても綺麗で、とてもかわいい。そして、ずっとそばにいてくれるから。でも花の名前なんてわなんないな。
「私の名前は、ハナ。理由はお花が好きだから。これからよろしくね!」
「こちらこそよろしく!」
二人は軽く手を挙げて会釈をした。