—存在しない記憶
「おにい……ちゃん、みてみてすごいでしょ。おにいちゃん、はいチョコレート
友チョコの練習したあまりだけどあげる」と黒い顔をした女の子が、笑っているのだけは声色でわかる
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ひどく懐かしい夢を見た気がする。でも、一人っ子の俺がそんな記憶を持っているわけないのに
寝る前になにか、関連するものを見たかと、考えるがなさそうだ
情報屋と会ってから、帰ってきていつも通りに、食事をして寝た
本に囲まれた部屋で、いつもの紙の香りがする……
沙月のあの不安そうな顔をどうしても忘れられない
伸びをしながら、本たちを眺める
俺が修復してきた本で、誰かの思い出に残り、心に何かを残す懸け橋になれているのだろうか。沙月ようにたった一つの本を大事に思っている人がいる
それは、以前は当たり前のことだったかもしれない
——今は、すぐインストールすることはできても、一つ一つの思いれが薄れてきているのかもしれない
そのなかで、正しい思いを残しておきたいたとえVRとして形が変わっても……
でも、おれはそもそも、どうやって魔法使いになったのか記憶がおぼろげだ
それを、前に話した時のルリの表情が悲しげで、もう同じことは聞けなかった……
ルリと俺の間だけの秘密、俺は、この記憶を取り戻さないといけない時が迫ってる気がする
でも、それを思い出したら、ルリやみんなと会えなくなる気がして怖いのだ
沙月が、どうしてもこだわる鴉の謎は深まるばかりだし、沙月や藤を守れるのも俺だけだ
そもそもこの世界に引っ張り込んだのとも同じ事なきがするからだ
(俺がルリとまだ一緒にいたいのと同じで藤と離れられなかったみたいだがな
藤はいつもどこか明るいが無理をしていたように見えていたが、沙月が来てからは、明るく、甘えん坊になっている藤を見るのも好きだ)
最近、ますます手に入りづらくなったノートに、今までのことを整理すために、書く。
鴉の部分にだけ丸を付け、情報屋にまた会ったら調べてくれるように念を押して「鴉」のことを調べてもらわなければ……
『鴉』と、『キューブ』、『観測者の天使』どこまで知ってて、何を俺たちが知らず、何が違うのか、とにかく沙月が来たことにより、目まぐるしく世界が変わっていているのは偶然なのか?
それとも、ボスがちらっと話していたことがある紅との戦いがまた、激しくなるのか……
沙月は一体……。俺たちはどこに向かおうとしているのかわからないが、結末がわかるまで、俺は魔法使いでいられるのだろうか。とめずらしく考え込んでいる自分に頭を振りながら、俺ができることを全力でやりきるだけだと、思いながら装置を見る
——現実とVRの世界の線引きが、年々薄くなってきている自分がこれでいいのかとどこかでいう自分の声がする気がした




