例の男
じりじりと頭が痛くなるの感じながら、喫茶店に向かうと、人が少なく大人の雰囲気が漂う
「待たせたな……」と言いながら一人で椅子に座る
「後ろを振り向くな、顔見たら、もう二度会わない、契約が切れるぞ」
「何度も言わなくったてわかるよ、もう何年の付き合いだと思ってるんだ」と俺は不安症な相手を落ち着かせるように言う
「それで、本物だったろう」と男は口を開く
「あれは、どこで手に入れたんだ……聞かない約束だったな」と首を振る俺に、
「あぁ、」と短く答えてくる
以前に、会ったときに残っていた、髪の毛を見たところ、白髪だったのを思い出す
なんだか、何もかも謎に包まれてる男に、今では、安心感を覚える
「お前の席に、新しい本を置いといた……どうするかはお前の勝手だ」といい喫茶店を出ていくベルの音がする
カバンの中に、本を入れると、なれたようにマスターに声をかけて紅茶を注文する
のどを通る、冷たさを感じながら考える
頭が、ぐらぐらと煮えるように痛い
アイスティーの氷の音が響くようだった
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樹は、毎度思う、その男は金に執着がないらしく、金を求めることはなかった
いつのときか、「ただ、お前がどうするか見てみたい」とだけ言われたことがある
そんな恐怖じみたことを言うので、最初は警戒していたが徐々に人は慣れてくるものだと思った
かれこれ、三年くらいの付き合いになるだろうか。
神に頭の中をのぞかれない術も、協力者から教わった
ボスのことを話していないのに、すごく当然だという感のように話す男に、敵に回してはいけない存在だとわかる
見張りも込めて、協力者と会っているはずだったが、しばらく連絡が取れないとなると心配するくらいには、なっている
いつも連絡は一方的に送られてくるだけで、日時と場所、たいがいはこの喫茶だが、外で会うこともある
荷物を置かれているだけで、どこかで監視しているときもあるようだ
これは、俺だけの秘密だ……
ある日突然に俺のうちに届いたスマホから、連絡がきたときはなんかのテロだと思った
沙月にも教えないほうがいいだろう
どんな危険がそこに待っているかわからないからだ
俺は外に出ると、どこからか金木製の香りがした——
季節外れの香りに頭を、ひねっていると香りは消える
気のせいかと思い、歩き出すと、バイクに乗る準備をする
「俺は、何のために……修繕をしているんだっけ」と普段疑問にも思わないことを自分に投げかけてみるが、頭痛がひどくなった気がしたので考えるのをやめた。




