分離不安
健を部屋に残し、ルルアとリアルと廊下を歩く
「分離不安症の症状と似てるね」とリアルから奪ったであろう飴をガジガジしながら食べるルルアは、俺を見ながら言う
「分離不安?何のことだ」と言いながら見る俺は何のことを言っているのかわからなかった、思わず立ち止まると
「あの、一緒にベッドに寝るくらいにひと時も目を離さない隊長は、異常ですよ」と目を細めた鋭い目で見てくるこの男がこんな真剣な顔を見るのは、久しぶりのことだった
「あの子じゃないんだから……まぁ、ルルアには関係ないけどね
視野が狭くなると、足元すくわれることになりかねないよ」
「お前が、すぐに体を開いて標本をつくろうとするからだろう」と声を出しながら俺の喉が、きゅっと閉まる音がしたように錯覚がおこる
体の中が凍えてしまいそうになるくらい冷たくなったのを隠すようにまた、歩き出す、歩いている足がジリジリと痛み出すようだった
リアルの手がそっと、俺の腕に触れる
「そんなことより、リアルのことも見ってください!リアルも寂しいです」と言いい、もう片方の腕には
「グヘへ、ルルアのことも忘れないでくださいよ」と先ほどと変わっていつも通りの、顔をと声をしていることに、ほっとしている
深く追い込んでこないのが、心地いい
あいつも、俺たちと一緒にいったらよく笑ってくれたのだろうか?
眩しいくらい明るい、あの笑顔にもう一度会いたい——
新しい物好きで、いつも後ろを、追いかけてくる「にちゃ」とかわいく言ってくる弟はもういない
柔くて、もちもちの弟はもういない
もしかしたら、弟が今頃は、健位の年齢だろうか
健を、弟のことを重ねって、いなくならないでほしい一目でも離したら、消えてしまいそうで……
考え込んでいたら、扉の前でしな垂れかかるように、赤ワインを持ちながら立っているベニーが
「遅いわよ、もう二本も飲んじゃったじゃない、あと何やっているの?」と頬が赤い顔と、目を細めながら信じられないという顔をしている
俺も、思わず笑ってしまい「あぁ、」とせき込む
会議に集中することができずに、上の空でいると
「今日は、たいした内容じゃなかったわね、う~んおいしいこのワイン最高」
「どれでも、味の違いが判らない癖に」と眼鏡がきらんと光るリアルに
「何ですって」と騒ぐベニーのやり取りに意識がはっきりしてくる
俺は、早く部屋に戻り、健がいるかどうかを確認したくて、仕方がなくなる衝動に駆られる
——これが、ルルアが言う「分離不安」なのかもしれない……




