沙月の失敗とオオカミと幼女
形だけのノックオンが響く、「薬の時間です」と言いながら薬を渡さずコップだけを渡してくる
それが合図のように感じた
「今日は、検査をしますから車いすに乗せますね」と声をかけてくる
小声で「侑斗さん、静かにしてってください」と言いながら
重く閉ざされていた扉を開けると細くて長い廊下が続いていた。
ガタガタと少し荒ぽく聞こえるタイヤの音を、転がしながら他の看護師ロボットが見えると
速度を落とす
「あれ、なんで患者さんが外に出ているんですか?」女性型ロボットが言う
「緊急に検査が入ったんです」
「そんなこと聞いていなかったのですが……。」
「薬を吐き出してしまって、その検査をしなければいけない」というと
「それは大変です。早く行ってください」
スキャンをする装置が置いてある部屋の前にトイレに行くと先生がクリーンスタッフの青い制服に着替える
青い掃除のワゴンの中に僕を押し込むと、上から布で隠す
独特なく薬品のにおいを感じる
車いすをトイレのわきに置くと外に出る 先生は一体、何者なのだろうと侑斗は体を丸めながら考える
あっという間に通過し、風のにおいを感じる
顔が同じだからか、誰も警戒しないのだと侑斗は、今考えるととても不気味だ。
車に乗せられるとクリーン会社の車のワゴンに乗せられる 物で隠すとやっとゆっくりと深呼吸をする
「ここにいるとは思わないだろう……。」と、眩しく感じながら、目を開けると旧校舎の中にいた
ホコリがまっている。
「先生、どうして僕を助けてくれたんですか?」嬉しさと疑問が浮いてくる
僕の顔をまじまじ見ると、鼻を触ったりほっぺをつまんでみる
「あの~、先生聞いていますか?」と首を右に左に手で動かす、少し痛みを感じる
「あ、すいません。資料では見たことあるのですが、本物を見るのが初めてで……。」
僕は、もう一度言ってみる
「どうして、僕を助けてくれたんですか? ケン……健はどうなったんですか?」と、
健の事を思い出して、それを早く聞かないといけないことだったと
誰に責められているわけでもないのに、申し訳なく感じたのだった
「落ち着いて、話を聞いてほしい……健のことも救出に行ったが、もうそこにはいなかった」と言われ、力が肩から抜けたように地面を見る
「どうして……どうして健だけいないんだ。僕のせいだ」と思わず髪を引っ張る
抜ける毛の痛みなど気にならないほど、自分のことはどうでもよかった
さっきまで感じていた喜びと、驚きに満ちた感情は瞬く間に鎮火されていくようだった
「侑斗……。」
暗い教室の中から、聞きなれた声が響く、でもその姿は他の人と違っていてどうやら
僕と同じ奇病にかかっているかのようだ。
でも、健と最後に会った時の容姿とは違う。なぜなら、健は栗毛色の茶色い目で柔らかいトイプードルのような印象を受けたからだ
その人は、黒髪でどこかけだるそうな猫目な顔をしている
「侑斗……よかった。ごめん 何もできなくて……」その声と、言葉を聞いて兄の海だと気づいた
「どうして。海も顔が変わってるんだ……。もしかして、兄ちゃんもあの辞書を読んだの?」というと静かに頷く
「でも、僕はそんなすぐに奇病にはならなかった……。健も僕も三ヶ月くらい読んでからなったんだ
いくらなんでも早すぎる。どうしたらいいんだ。僕のせいだ……。ぼくが……。」
「海がこうなったのは、そもそも小学生のころから、みんなが疑問にも思わないことを疑問に思う
発想力や感情の起伏があったから、少しの刺激で顔が変わってしまったのだろう
あと何より、健と侑斗が連れてかれたことにより、感情が異常に動いたことからだと考えられる」
と先生は僕に言う
そんなこと冷静に分析して言う先生に、僕は少し腹が立った……。
兄ちゃんだけでも、奇病にならないように
食い止められたんじゃないかと八つ当たりだということはわかっているが思ってしまった
それを、感じ取ったのか海は、僕の肩に手を置きながら
「自分で、選んだことだ」という
*
*
*
「ねぇ、さつき 藤の知っている話と違うよね?」と沙月の腕に抱えられながら、首をかしげる
「違う、私の知っているストーリーは、ここに健もいるはずなのに……。どうして修復されたはずだよね」
「こわい……。」と沙月にぎゅっと抱き着く藤
黒い蝶が、またどこからか浮上する。ひらひらと金色の花粉を落としながら飛んでいる
それを、追っていくと……。
一人の男の人が、小さくなったキューブを拾い音を聞くかのように耳に当てている
沙月は、なんだかわからなかったが、声をかけようとすると消えていた
30歳位の、大人の色気が漂う男の人を見つけようとあたりを見回していると
「さつき、どうしたの?何を探しているの? 」といわれ
「30歳くらいの男の人いたよね?黒い蝶を追ってここにきたのに」
「沙月が急に走り出したけど、黒い蝶なんていないし男の人もいなかったよ」と言われ
どう伝えればいいかと考えていると……。
樹たちが心配して、駆け寄ってくる。ルリは逃がさないように肩を握り、樹は怪我がないかと
体を調べている
どうやら、樹たちのところに戻ってきたみたいだ
「どこにいったんですか?危ないじゃないですか……。樹だってあんなこと起こったことないですよ」とブンブン今度は振り回してくる
涙が、ツーっと流れると、痒さを感じる。私、泣いているのだと自覚するとどんどん涙があふれ出てくる
樹はそんな私を見て、ルリを引き離すとしずかに抱きしめる
「大丈夫だ。ゆっくり話してくれ、落ち着くまで待つから」と言われてなんだか落ち着きを取り戻す
「ふじもいいるよ」といいハグしてくる
ルリを見ると、仕方ないですねという顔をしている
「鼓動の世界が修復されたはずなのに、私の知っているストーリーと違うんです
侑斗と健と海が先生に助けられて、異世界に旅立つはずだったのに……。
健だけ会えなくて……。わたし、失敗しちゃった 」というと
樹は、また抱きしめる
「そっか。俺も初めてのことで分からないけど、沙月が頑張ったことだけはわかる
とりあえず、無事でよかった。
隠れ家に行って、ゆっくり話そう」というとルリとアイコンタクトをする
「肯定は、やさしさである」といい本が開く
*
*
*
「あぶない、あぶない全部修復されちゃうところだった。 沙月って子やっぱり特別なんだ
見張っとけって簡単に言うけど、大丈夫、大丈夫うまくできているよね
まだ、バレていないみたいだし……。」
と独り言をオオカミのぬいぐるみに聞かせるかのように話しかけている。
紫の髪のショートヘアで編み込みをしてピンどめもオオカミで、
紫のパーカを着ている幼女がそこにはいた。
「だいだいさ、僕の仕事だけ、重いんだけどみんなみたいに楽な仕事がよかったよ
ねぇ~あいぼう。早く帰って書類まとめなきゃだね」 といいぬいぐるみの手をあげさせる
幼女はそういうと、タブレットを取り出し、「帰還します」というと、瞬く間に消えていった




