私にしか見えない、黒いアゲハ蝶を追ってたどり着くさきは?
私の目の前には夏休みに入ってから、一度も電源を入れてないタブレットが鎮座する
さすがにやらないと思いつけるとやる気がいっきに鎮火していくようだった。
天井を見上げると、いつもと変わらない部屋なのに違和感を感じることが出てきた
VRのせいなのだろうか
気合を入れてやってみるが、親睦会楽しかったな~と思い出したりして集中できそうもない
鼓動の修復へと向かうことが決定したことに、どうすればいいのだろう……。
VRの世界のほうが充実して、現実だと錯覚を起こしそうになっている
あんなに、興味がなかったVRの世界にどっぷり浸かっている
本の世界が私だけの世界だったけど、今を生きている感じがする。
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「沙月も巻き込んで悪いな……。沙月しか頭の文字が読めないから、
一番に沙月を守るから、ルリも同じ意見のようだ。申し訳ない
少しでも危ないと思ったら藤と一緒に逃げること」
「ありがとうございます」と沙月は重たい指を滑らせる
ボスが、下手したら死ぬかもと言っていたが、以前の樹の戦い方を見て冗談とは思えない・・・。
じゃあ、辞めますと言っても樹は許してくれるだろう。でも、自分の中で会えなくなるほど、
簡単に切れる糸じゃなくなっている
今、何も手につかないほど考えているのならそれが答えだろう。切らないではなく、切れないほどの
大きさになっているのだから何も知らず、忘れて、終わりにするのはイヤだ
どうなるかわからないけど……。一緒にいたい、それだけは確かな答えだった。
呼ばれていないが、訓練のためにVRの世界、お菓子の家の秘密基地に行くと
なるべく足手まといにならないように走るのだけでも早くしようと、変身は藤がいないからできないけど…。
遠くのほうから聞きなれた声がする
「あれれ、さつきどうしているの?」とお菓子の家のチョコを剥がしている藤と目が合う
剥がれたところは、すぐに修復されている。藤を見て、一気に力が抜ける
「藤、何してるの?」
「ごはんたべているの~三食、食べ放題なの」と聞き母が食事に対して口酸っぱくいってくる気持ちが少しわかった気がする。
自主練をしに来たことを藤に言うと、食べるのをやめて「えらいねー 藤も手伝う」
チョコまみれの手で、本を触ろうとするので思わず、持っていたハンカチで手をふいてあげる
魔法のステッキを取り出し沙月を変身させる
隠れて、藤との二人の自主練が始まった
なぜか気恥ずかしさがあるからか、樹たちには言えないでいる
安全地帯の隠れ家で練習しているため見つかってはしまうと思うが、違うところでやって
足手まといになってしまったら、元もこうもない……。
岩を蹴って、普段より飛ぶ練習や、藤を抱えて走る速度を試してみる 藤に早くするには
今より早くする魔法がないかというと
「あるよ~でも、ものすごい疲れるの。足にきらきらを つけるの」と言うが、できればやりたくないと顔が物語っている
練習をしてると突然赤ライトが回り出す「緊急の時になるやつだ、急いで~」といいながら
扉を開けると、そこはボスの部屋だった
「沙月、どうしてもう変身しているの?あ~いいころがけだね。言わなくてもわかるボスは
いい上司」といい、バレたことに気恥ずかしさを感じていると
ルリの顔がドアップに映る。その後ろで樹が戦っているのか服が映る
「キューブ・タランチュラが突然出現しました。今、樹が戦っています。応援お願いします」といい、どうやら危険なことになっているみたいだ
いつも無傷なルリが、頬に擦り傷や腕に切り傷があった
沙月は、自分にいつもなら直接連絡がくるのに……。
何もできないけど、こんなに傷つくまで連絡がないと、信用されていないのかと思い不安になる
足手まといになりたくないなんて思ってた自分が、自意識過剰みたいで恥ずかしい
「人間って、大変。 沙月、その理由は樹たちに、直接会って聞きなよ。
早くいかないともっと後悔することになる」
「はい」といい、行こうとすると「神の御加護を」とアリアさんがおまじないとして目元にキスをしてきた
なんだかそれだけで、気持ちの切り替えができた気がする。
とにかくやるべきことを、
今できることをするだけとおまじないのおかげか前向きな思いと一緒に藤を抱いて走り出す
また、藤の本はだいぶ遠くに私たちをおろしたようだ
「もう仕方ないな~」というとさっき言ってた、緊急用、魔法を使う
顔をしわしわにしながら、「走るの早くなれ、キラキラさんよろしく」というと
藤の足に星たちが集まってくる 思ったよりスピードが出る
「藤にちゃんとつかまって、ちゃんと抱っこしてないと落ちちゃうよ~」
藤を車のハンドルのように傾けながら、急いでいく
沙月が到着すると、樹の声がとぎれとぎれになっている肩で息をしているようだった
大怪我はないみたいだとすぐに確認してほっとしていると、すかさず、タランチュラの頭を見る
Beat 鼓動と唱えると、以前と違って文字の海に潜ったような感覚に襲われる
青黒い影のある水の中をずんずんと進む
途中、わかめと触れ合ったが、それは一瞬のことだった
水の中で響き渡るくぐもった声が聞こえてくる
樹たちの戦いの音を聞いているはずなのに……。
黒いアゲハ蝶が優雅に舞っている。海の中に蝶がいることに不思議と疑問を持たずに見ていると、
さかさまに頭が落ちそうになる。
そして樹たちの戦いを見ていると、静寂が訪れ、どうやら時が止まっているようだ
私は、体から意識が抜けだしているみたいだ
体は、藤と一緒にいる 外から見るとこういう風に自分が見えるんだと思いまじまじと観察しているとくぐもった声さえも聞こえなくなった。
上が下になり、下が上になるどちらが先かわからなくなった目では、体の軸がうまく置けない
戻らないといけないけれど、進まないといけない気がする。
黒い蝶が、案内したいかのように私を待っているようだ
ついていくと、そこにはチューブに繋がれた男の人がいた
クリーム色の髪に、長いロングヘアを緩くみつあみにしている女の人と見間違えてしまうほどの
男性がいた
沙月が間違えなかったのは、その男の人が自分が大好きな「鼓動」の作者 鴉だったからだ
驚きすぎると、声もでないとはこういうことかと思っていると遅れて、いろいろ疑問がわいてきた
こぽこぽっといい声が出ない。呼吸ができているなら声も出せるのでは?と思い
イメージしながら声を出すと鈍い音がした




