この声はだれ?
沙月は、樹と出会う前と出会ってからの日々を思い出す。
何も不自由はしてないが、何かが足りない日々に何の疑問も持たず
いつものように苦手な食事から始まり、好きな本を読む日々
でも、そこには人との交流が不足していた
当たり前になりすぎていて、詰まりかかってる自分の気持ちに蓋をし
いつの間にか流れないことに慣れてしまっていた。
藤の可愛さや、ルリの怒ると怖いところ、樹のやさしくて陽だまりのような温かさと少しの不憫さに包まれるととても幸せな気分になる。
諦めていた何か取り戻せるような関係を手放すことはできない……。
本より楽しいことが、できつつある自分に驚いていると、珍しく本を開かずに
もの思いにふける
そんな関係を手放さないためにも、解決しないといけないことがある
『鼓動』の変更点、特異点はどこなのか?タランチュラはどうして行動を変えたのか?わからないことだらけなので一度整理してみることにした
『鼓動』は本来、侑斗は薬漬けにされる未来じゃなかった
あのあと続きがあり、担任の先生のロボットが来て助け出してくれて、
健と兄に再会できる
そんな希望にあふれる話なのに……。
普段は動かずに、ただただキューブの守り手をしているらしいタランチュラは
意識的に行動しているように見えた。
キューブより蜘蛛のほうが、主役かのように……。
私にしか見えない黒い蝶が何を意味するのか、ただ私の言葉が力を放つのを見た
のは確かだ。
息詰まる考えを胸にとどめてどうにか答えを探そうとするがむずかしい。
どうしたものかと、ベッドに寝転ぶ
タブレットに入っている宿題はただの一度も電源をつけていないことに目をつぶって罪悪感を
逃がす。
お母さんとお父さんは、今日はデートの日だから。
遅くまで留守なので考える時間はまだまだたくさんある
スマホの通知音が鳴る
「明日、予定あるか? ボスも入れて会議があるらしい」
「大丈夫です! 予定ないので」指を動かす
綿あめのような白い髪を思い出すと顎を置いてボスの頭にグリグリしたくなる衝動に駆られる
「じゃあ、明日の14:00にVRで集合 藤が待っていて案内するからさ
そういうことだから、よろしく」
「了解!」とクマの敬礼スタンプを押す
*
*
*
あぁ、あいつらはいつまでも変わらない
苦しめ、苦しめそうすれば、養分として使える
__ __ __をするのにはちょうどがいいみんな__ __ みたいにいっそ
なってしまえばいいのに
だって__ __ __だけなんて不公平だろう
ザーザーと音がする
おかしいだってまだ今日はVRしていないはずなのに……。
うなる声の大きさに起こされて初めて寝ていたことに気づいた
いつからだろう
なにか、叫ぶほどの夢を見ていたのだがら、何か覚えていないと
割に合わない悪夢だ
時計を見ると、深夜二時を指している
昨日は、樹からのメールをみて、そのあとお父さんが作っていったハンバーグを食べた
以前、咀嚼が面倒で、手料理を食べなかった時の顔を思い出すと……。
そのあと、宿題も手につかずひたすらゴロゴロしていた
いつのまにか寝てしまったのだろうか。
中途半端な時間に起きていしまったので、眠ることにした
日の光を顔に差し込む。目覚めが悪い朝を迎えた…。




