変身するための、縛り
紅茶をすするルリに、進めるように窘められる。不本意だと思ったが、言われてみればそれもそうだと飲み込む。
「食べながらでいいから、聞いてくれ」と六つの目がこっちを一斉に向けられる
「は~い」とクリームパンのような手を勢いよく挙げる小鬼の姿に癒されている少女が、静かに頷く。自分の言うことは終わったとまた本に目を滑らせる男
「次に、魔法使いのステッキの使い方を教えると、バディと二人一組でないと
変身できないという縛りがあるから注意すること。本の中からステッキを出現させるには、藤、俺にとったらルリしかできないことだ」とルリの事を見ながら、頭を軽く横に揺さぶると肩をすくめる。
なにかを物思いにふけり、振り返る顔覗かせているように見えた。
やれやれという感情を表現したいのか、大げさにしている。
「藤と沙月は、いつも一緒だもんね~」と生クリームがついてる手で握って来ようとしたので、拭いてあげる。拭かれた手をじっと見ると、「へへへ」といいもう一度握る。
「魔法のステッキは、落とすと大変だから、絶対返してね!」と小さい指を一本上にさしながら両目を瞑って、ウィンクもどきをする。
「初めて、出会ったときに藤が本を落としていたよね」というと、
「へへん、藤が落とすのは仕方ないから、落とさないように拾ってよね」とどうだ
「仕方ないですね~ドジですね」というルリに「仕方なくないだろう」とすかさず突っ込む樹に
「そうかな、そうかな~」と褒められている気分になっている藤を添えてと
頭の中でナレーションをしてみる沙月。
実は、この少女は説明を受けるのに 、飽き始めているのだ。
「他に、注意することはある?」と、言いながら、頭の中であちこっちに意識を忍ばせているので落ち着かないでいるのを、態度で伝わっているかのように
真剣な顔で「真面目な話、やばいと思ったら、逃げることだけを考えること」と いい
「そんなに危険なんですか?」とその勢いに飲まれるかのように口をつく沙月
「基本は危険じゃないけど、何が出るか僕たちにもわからないことがありますからね」と言葉を紡ぐルリと不安そうな藤を見て、
「全力で逃げることを約束します!」と、思ったより大きな声が出た自分に驚きながら、小鬼の男の子を安心させるように、角を触らないように頭を撫でる。
「よかった。安心だな」という樹は朗らかな顔をして、頷いている。
心底安心しているかのように見えた。
「今日の授業は終わり」と少し疲労したのか、はたまた、沙月の集中力が切れたのがバレたのかわからないが…。少女は、胸の中で撫でおろした。
心の中で、目まぐるしく色濃く変わっていく世界に味わい尽くしたいという思いと
このままの関係が続いてほしい。安心と不安が同時に存在する感覚にくすぐったさを感じている。
沙月が少し遅くなり自宅に帰ると、お父さんがお玉をもって立っている。
「沙月、最近帰りが遅くないか?」とそれだけ言うとくるっとむきかえり
ずんずんと歩いて部屋に戻る。
これは、まずいと経験値から導き出すと、沙月は急いでついていく。
「お母さんも心配しているんだ。せめて、連絡はよこしなさい」
私のお父さんは、普段は明るくて、陽だまりのような人だが、
怒ると、口数が減り蝋人形と話している気分になる。こんな時のお父さんは
沙月はひとりおいて行かれているような気持になって嫌なのだ。
口を無理やり開けるのは鉛のように重さがかかる。
「最近、仲良くなった友達がいて…。今までとは違う感じで、時間忘れちゃって…。心配させてごめんなさい」というと鼻がツーンとして、うまくしゃべれない。
「仲がいい友達が出来てお父さんもうれしい。でも沙月はまだ、高校生だ。
危ないこともある。連絡をくるのをただ待ち続けるのは辛い。
わかるか?」というと静かにうなずく沙月。
「じゃあ、この話はここで終わり。わかったのならそれでいいよ」というと
カレーを置く、その湯気がくすぐってきているかのようで安心する。
いつも通りの温かい表情をしたお父さんがそこには、いた。
部屋に戻ると、沙月は息を漏らす。
布団に潜り込むと、枕につたう涙に煩わしさを感じながら、眠る
ジリジリと肌が焼ける海で自分と、男の子しかいなくて、まるで二人しかいないみたいに波の音だけが響き渡る
「大丈夫?俺がいるから…」と手をつなぎながら一緒に歩く
顔が見えない少年と。
皮膚の突っ張りを感じ、手で触るとかカピカピした顔に起こされた。どんな夢を見ていたか思い出せないけど、なんだか落ち着いた気分になっている。
今日の事を、樹に思い切って話すことにした。なぜか話してもいいと思った。
友達と言えるかわからないけど、口に出すと、とてもよく馴染んだことにじんわりと心が溶かされた。
ゆっくりと画面に触ると、ピンクのラブリーな画面がチカチカしている。
通話をするのは、とてもハードルが高く感じ緊張するので文字を打つ
私が、今日のやり取りを教えたところ、
「確かにな~女の子だから、余計に。送るの遅くなったからか……。
俺の時から、匿名性を保つために、行っていたけどボスに、何とかならないか聞いてみる」と
すぐに返信がきた。
沙月は、少し、不機嫌になられるのではないかと不安だったが思っていたのより
さっぱりとした返答がきて、ほっと胸をなでおろす。
「ありがとうございます」と返して、すぐに既読がついた。
樹からきたかわいいくまちゃんのグッとマークのスタンプが文面に合わず浮いている。普段使わないのか三回連続で同じスタンプが送られてくる。ふっと、力が抜ける。楽しさと温かさを感じた。
次の日、スマホをいじっているとピンポーンとチャイムが鳴る。




