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40、現在  地球の枝(ガイア・ハンド)

侑斗は幼い頃の記憶を遡る。

もちろん忘れたことも多い。だが、「地球の枝」に触れた記憶は一切ない。

実際、修一や史音のような力も使えなかった。


「オマエにその記憶が無いとしたら、もしかすると前世の経験かもな」

史音が意味深に呟く。


「お前、俺の前世について何か知ってるのか?」

「知らねーよ。てか、アタシから又聞きしてどうする? ベルか修一の姉さんに直接聞けよ」


思わせぶりな態度のくせに、突き放すような言い草だ。


「それじゃあ、『地球の枝』について話すか」

史音は軽く咳払いし、語り出した。


「『地球の枝』、正確には『地球の生成樹の枝』だ。他の地球の人々が『ステッラの地球』と呼ぶ、アタシ達の地球は、他の地球に存在力を奪われて、もはや崩壊寸前だ。その点については、あの在城龍斗の言う通りだ。ただ、その現状が表面化しない理由が二つある」


史音は指を二本立てた。


「一つは、何者かが人間の知覚を阻害していて、そう見えないようにしていること。もう一つは、地球自身の自己修復能力だ。どこからか流れてくるエネルギーによって、これまで何度も地球は修復されてきた。特に四年前の再生は凄かったな。三年間も崩壊を食い止めたんだから。もしあの力が止まらなければ、世界は救われていたかもしれない」


四年前――。

侑斗は、確かに世界が再生されるのをその目で見た。


「まあ、現実に見えているものは、結局のところ幻だ。だからこそ、地球は『地球の生成樹』を作り、その枝に止まる者たちに救いを求めた。アタシ達には、この星の真実の姿が見える」


史音が修一に目配せする。

だが、それが本当の「真実」なのかは分からない。

なぜなら、一度『地球の生成樹』は枝の神子によって切り倒されているからだ。


侑斗はため息をつき、話題を変えた。


「……お前たちには、地球が滅びかかっている姿が見えているんだな?」


史音は頷き、沈痛な声で言う。


「見えているよ。今にも崩れ落ちそうな、この星の姿が。……もっとも、アタシも修一も、視点を変えてなるべく見ないようにしてるけどな」


青白く輝く室内灯の下で、史音の顔だけが妙に影を落としている。


「量子力学の概念で『状態の重なり合い』ってのがあるだろ? この地球も、滅びかけの姿と、美しく青く輝く姿が重なり合っている。でも今は、滅びかけの方に大きく偏ってる。かろうじて均衡が保たれてるけど、それが崩れたら、一瞬でこの地球は崩壊する」


史音の声が低くなる。


「形が失われる。その崩壊を食い止めるために選ばれたのが、『枝の神子』だ。在城龍斗がこの地球を救おうとしているのは必然なんだ。……アタシはアイツが大嫌いだけど、地球の枝にとまった以上、奴が行動を起こすのは当然だ。……やり方は最低だけどな」


そう言って、史音は視線を外す。


「少しだけ知ってることを話そう」


侑斗を一瞥し、史音は淡々と続ける。


「アンタがアンタになって以来、ベルはずっとアンタを見守ってきた」


「……女王ベルティーナが俺を?」


「そうだ。四年前まで、修一の姉さんがベルの結界を外すまでな」


侑斗の脳裏に蘇る。四年前まで、自分を包んでいた紅い瞳。

あれが――ベルティーナ。


「出来損ないのアンタは、死にたがりのアンタは、ベルや修一の姉さんみたいな保護者たちに守られてきたんだよ。生かされてきたんだよ」


史音は静かに言葉を止めた。


「さてと。枝の神子とアンタについての話はここまでだ。他に何か聞きたいことは?」


侑斗は迷った。

地球を守る教団を倒し、その後でこの星をどうやって救うのか――。

だが、今は目前の敵を倒すのが先決だと感じ、口をつぐんだ。


「それじゃあ、これからの行動について話そう」


史音は有機スクリーンパネルを広げる。

指先で触れると、立体的な地図が浮かび上がった。


「アタシ達は奴らの組織が使っている『太陽の鞘』を破壊するストレージ・リングの発射台を、二度と使えないように破壊する。当然、奴らはそれを予測して、アタシ達を本拠地プルームの岩戸に辿り着く前に消そうとするだろう」


ポインター・スティックでスクリーンを指しながら説明を続ける。


「奴らは『地球を守る教団』とやらの狂信者を集めて、未熟な知成力を数で補い、存在力を探知して消し去る。彼らが使うのは、物の形を嫌うシニスだ。上層大気のある空間は生物がいなくて存在力が希薄だから、そんな中で強いエネルギーを発する『太陽の鞘』は、シニスに簡単に探知される。それを利用して、ストレージ・リングを撃ち込む」


史音は指先でスクリーン上の図を拡大し、ストレージ・リングの仕組みを示した。


「元々、ストレージ・リングは医療用のがん治療に使われてた装置だ。光速に加速されたパイ中間子を飛ばし、時間操作で寿命を延ばす。だが、奴らはそれをシニスに乗せ、太陽の鞘を狙って飛ばす」


そして、ストレージ・リングが太陽の鞘に触れる瞬間を、史音はタッチペンで強調する。


「これで、簡単に太陽の鞘を破壊し、その向こうの地球ごと消し去る。この地球を守るためって言いながら、こんなに簡単に世界を滅ぼしていいはずがない」


史音の唇が固く結ばれる。


「アタシは、奴らの本拠地プルームの岩戸に乗り込んで、こんなことが二度とできないように、壊滅させる」


侑斗は息を呑む。


「それを……俺たち三人だけで?」


「そう。アタシが許せるギリギリの人数だ」


史音は有機パネルに五つの丸を描く。


「奴らが仕掛けてくる可能性のある場所が、五つある。その最初が――」


パネルの一番下に、史音は文字を記した。


「『海上』……。この幽霊船に乗っているうちに、最初の攻撃が来るだろうな」


史音はポインター・スティックを顎に当て、曖昧に締めくくった。

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