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239、未来 琥珀の光

──成層圏、クァンタム・セルの窓。


 果てしない光の海の中に、二つの影が立っていた。

 優香と侑斗。

 かつて世界の終焉に抗った者たち。

 今、彼らはただ静かに、目の前の奇跡を見守っていた。


 ──光の中から、誰かが歩いてくる。


 歩みはためらいがちで、それでも確かだった。

 やがて、白銀の霧を押し分けるようにして、ひとりの女性が姿を現した。


 亜希だった。


 長い黒髪を、肩のあたりでなびかせながら。

 光を受けた髪は、夜空に銀糸を織り込んだように、ほのかにきらめいていた。


 表情には、歳月が刻んだ静かな強さと、消えない迷いが同居していた。

 けれど、その瞳には確かに、かつて失われたものを取り戻そうとする意志が宿っていた。


 優香は一歩、彼女に歩み寄る。


 「──来てくれてありがとう、ごめんね。でも最後は貴女しか出来ないの」


 その声は、託すというよりも、願いをそっと手渡すような響きだった。


 亜希は立ち止まり、唇をかすかに噛んだ。


 「……でも、何をすればいいのかわからない」


 彼女は、かすれた声で言った。

 その声音には、少女の無垢さではなく、傷ついた大人のためらいが滲んでいた。


 「私……怖かった。

 誰にも必要とされないことが怖かった。

 独りになるのが……たまらなく、怖かった」


 言葉を吐き出しながら、亜希は自分自身に向き合っていた。

 虚勢も強がりもない。

 ただ素直に、胸の底をさらけ出していた。


 「だから……ここに来たの。

 私のために……貴方達や零さんやベルティーナさんのいるところに行きたくて」


 侑斗はそっと微笑み、近づき、静かに問いかけた。


 「……でも、亜希さんには、帰りたい場所があるだろう?」


 「……」


 「帰りを待っている、大切な人たちが、いるだろう?」


 亜希は目を伏せた。

 そして、ふいに、胸の奥から溢れだすものを抑えきれなかった。


 洋のこと。

 彰のこと。

 琳のこと。

 凪のこと。


 彼らと過ごした時間──

 笑い合い、支え合い、時には傷つき、それでも離れなかった絆。

 すべてが、胸を満たしていった。


 その瞬間だった。


 遥か銀河の中心──

 天の川の心臓部から、琥珀色の光が溢れた。


 亜希の周りを、やわらかな光が包み込む。

 黒髪に琥珀色の輝きが溶け込むように流れ込み、彼女を静かに抱きしめた。


 侑斗と優香は、その眩さに目を細める。

 だがすぐに、ふたりとも膝を折った。


 意識が、まるで潮が引くように遠ざかっていく。


 優香は最後に、ぼんやりと亜希の姿を見た。


 ──光の中、彼女だけが立っている。


 そして──

 意識を失い倒れた二人の間から人影が現れた。


 それは、男だった。


 亜希と同じ光を纏いながら、静かに彼女へ歩み出る。


 顔はまだ見えない。

 だが、その存在は空気を震わせるような確かさがあった。


「ようやく会えたね、亜希。ここが僕の始まりの場所で有り、時間だ」

「貴方は誰?」

「僕はブルの地球の科学者、ユウ・シルヴァーヌと言う」


 

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