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210、未来 世界を創る戦いⅡ

零とベルティーナが降り立った真っ白な大地は、激しく荒れ狂っていた。数百メートルにも及ぶ灰色の噴煙が空高く立ち昇り、巨大な白い竜巻が何本も渦巻いている。二人は冷たい風に吹かれながら静かに周囲を見渡した。


零はアクア・クラインの十四個の輝石を身体の周囲に静かに展開した。輝石は澄んだ紺碧の光を放ちながらゆっくりと旋回している。ベルティーナはカーディナル・アイズを使い、差時間の渦を形成していく。彼女の瞳から放たれる力は幾重にも重なり、大きな竜巻となって白い世界を侵食し始める。


零は深く息を吐き、亜希から受け取った漆黒の声の力を輝石に注ぎ込んだ。すると輝石は驚異的な勢いで数を増やし、やがて無数の光の粒となって空間を埋め尽くした。


互いに背を合わせながら、二人は次々と生まれる白い存在に対処していく。シニスのダークは白い焔の中から、人間の形をした空虚なものを次々と生み出していた。しかし、零とベルティーナはその姿が完成する前に破壊していった。


「これではきりがありません。地球全体で生み出される存在を一つずつ消していたら、永遠に終わらないでしょう」

ベルティーナが疲れた声で零に告げる。


「ダークが単体となって現れるのを待ちたいところだけど、このままでは私たちが先に力尽きてしまう」

零は冷静に答え、輝石の軌道を調整し、円錐状にまとめて上空へと向けた。


「私も同じことを考えていました。このシニスの世界に穴を開けるのですね」

ベルティーナはすぐに零の意図を理解し、差時間の渦を幾層にも重ねて天空へ向ける。そして無数の輝石が、そのエネルギーと共に差時間の膜を貫き、巨大なエネルギーの柱となって上空へと突き進んだ。


凝縮された力が白い世界を切り裂き、天空に巨大な亀裂が生まれた。その裂け目から赤と青が混じった光が溢れ、シニスの不存在を覆う殻が崩れていった。


「穴を開けましたが、次はどうします?」

ベルティーナが問いかける。


「この世界をさらに分断するため、まずこの穴を一周させてシニスを輪切りにする。それを繰り返す」


それはかつて親しかった者たちを切り裂くという意味でもあったが、世界を再生するには避けられないことだった。


宇宙から見る地球は、真っ白な球体に細かな線が刻まれたような姿となっていた。徐々にシニスの世界が引き裂かれ、地表が震え、白い焔は次々と天空へ舞い上がっていく。


ダークは再び群体として結集し、空高く浮かび上がっていく。やがて地表にはかつての地球を思わせる茶褐色の大地と緑色の植物が混沌と混じり合った姿が現れた。


零とベルティーナは混沌とした大地から静かに浮かび上がった。その上空では巨大なダークの群体が待ち受けている。


「この階層まで降りてきたダーク、愚かな判断をしたな。対等以上の戦いを見せてやろう」

零はかつてのレイとしての闘志を胸に、再び心を燃え上がらせる。


数億にまで分裂したアクア・クラインの輝石が一斉に襲いかかり、ダークの集合体の一部を削り取っていく。ベルティーナもまたカーディナル・アイズの差時間の刃を放ち、ダークの体を砂のように切り崩した。


次第にダークはさらに上空へと追い詰められ、地球を離れていった。零とベルティーナもそれを追い、大気圏を超え真空の宇宙空間へと飛び出した。


宇宙空間ではベルティーナの真空の瞳が二人を守り、零は輝石の攻撃に集中した。ダークの群体は人の形を成し、その巨大な掌は地球を包むほどの大きさになった。


巨大化したダークはプラスの電荷を吸収し、残ったマイナスの電荷が激しい嵐となって零とベルティーナへと襲いかかった。


ベルティーナのカーディナル・アイズが、巨大なダークを包み込み、激しく押し寄せるマイナスの電荷を押し返した。輻射によりダークの巨大な輪郭が霞み始め、その姿は徐々に不明瞭になっていく。


巨大なダークの眼が、まるで宇宙そのもののような深さを持って、零とベルティーナを睨みつけている。その瞳は広大なオーストラリア大陸ほどもあり、小さな二人を捉えて、二人の持つエネルギーを吸い込もうと強烈な引力を発した。


零はベルティーナに短く目配せをする。それを理解したベルティーナもまた頷き、二人は迷うことなくダークの巨大な瞳の中へと飛び込んでいった。


ダークの内部は、外観とは異なり、一様なエネルギーが満ちている世界だった。それはまるで、あらゆるものが均等に広がった、エントロピーがゼロの完全な静寂世界のようだ。長い間、地球の階層を支配したダークが、いまやその本質をさらけ出し、人の視点から認識される存在へと変貌を遂げていた。


その時、ベルティーナがかつてパリンゲネシアの階層で聞いた声が、静かに響き渡った。


「……どうやら我らは、間違いを犯したようだ。我らの親である創造者たちも、人間の本質を見誤り、経験則だけで調整しようとしたのだ」


低く震えるようなその声は、空間を微かに揺らした。


零とベルティーナはダークの内部に自らのエネルギーを注ぎ込み、不存在を実在へと変換し始める。このままダークを創る素粒子が完全に実体化すれば、ダークはただの不存在となって消滅するだろう。


「あなた方は、人間の知性を単なる確率の揺らぎとしか考えなかった。そして、あなたたちの親である創造者は、私たちの世界を意図的に歪め、戦争を引き起こし、その力を無意味に増大させてしまった。自らの階層に留まっていれば、こんな結末にはならなかっただろうに」


零の声には、微かな哀れみが混ざっていた。ダークもまた、創造者により作られた存在に過ぎないからだ。


「あなた方は銀河の変化が生み出す人間の力を軽視し、わずかな揺らぎと侮りました。創造者たちは高次元だけを整えようとし、三次元の空間と時間のベクトルを見落としたのです。初めから間違っていたのですよ」


ベルティーナの口調には、零とは違い容赦がなかった。ダーク自身も、その真実を薄々と理解していた。


「私は滅びるだろう。しかし、我が親である技術者たちは再びここを訪れ、同じ過ちを繰り返すだろう。この連鎖は永遠に続く」


ダークの言葉は、まるで呪いのように響いた。


「いいえ、それは起きない。銀河の変化の嵐はすぐそこまで迫っている。あなたたち創造者とて、その流れには抗えない。私たちは地球の大樹をすでに焼き尽くした。フライ・バーニアを破壊して、階層間の接触を永遠に絶ち、後は銀河の変化を受け入れるだけ」


零の言葉にダークは僅かに沈黙し、再び強烈な声を響かせた。


「お前たちの浅はかな行動など無意味だ。銀河の嵐はお前たちの味方ではない。その変化が望む世界を作り出す保証などどこにもない。創造者たちは銀河の嵐と激しく争い、結果としてこの星どころか近隣の恒星系さえ吹き飛ぶだろう」


ダークの言葉には嘘はなかった。その語り口は、人間そのものだった。


「人間を甘く見ないでください。私たち、いや、私たちに続く者は決して銀河の嵐と創造者を直接対峙させるような愚かな真似はしないでしょう」


ベルティーナの言葉を聞く前に、ダークはゆっくりと縮んでいき、やがて宇宙空間には零とベルティーナだけが残された。


「さらばだ、ダーク。でも消えるのは私たちも同じことね」


長い沈黙の後、ベルティーナは小さく呟いた。

零は眉をひそめて小さな溜息を漏らした。二人の力はこの戦いを通じて数千倍にまで膨れ上がり、もう普通の人間として存在することは許されない。


「それでは戻りましょう、フライ・バーニアへ。地上の人々を再び生み出すために」


ベルティーナが言うと、零は静かに頷いた。あとは亜希のエネルギーを使って人々を再構築し、その後は――。


「再生が終わったら、私たちはこの力を量子の海に返さなくてはなりません。世界は、自分を創った者と共存することはできないから」


零の言葉に、ベルティーナも静かに覚悟を決めた。神が決して人の前に姿を現さないのと同じように、世界の残酷な運命は人類が背負う永遠の呪いなのだろう。



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