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164、未来 励起導破戦争Ⅰ~レイとユウの物語

励起導破戦争(れいきどうはせんそう)に参加した37の地球は次々と決着がつき、折角手に入れたパールムを奪われ、また奪った側も多すぎる存在力を持て余していた。最終的に残った世界は10余りとなり、さらに戦火を潜り抜け、最後に生き残ったのは私のヴェルデの地球と、ユウと零のブルの地球だけだった……」


ベルティーナはそこで言葉を切り、深く息を吐いた。まるで長い戦争の歴史の重みが彼女の肩を押しつぶしているかのようだった。


「本来、知成力(ちせいりょく)だけでは制御できない存在力をどうにか操っていたのは、ラナイの一族とブルの戦士たちだけだった。ラナイ一族は自らの肉体をあえて固定せず、幾つもの可能性の中に存在力を分散させてきた。一方、ブルの戦士たちは戦争初期にシルヴァーヌ家に生まれた天才科学者によって開発された”サイクル・リング”を用いていた。この者こそ、ユウの祖先だ。


サイクル・リングは存在力を高次元へ流し、保存する装置。ブルの戦士たちはこれを駆使し、幾つもの世界からパールムを奪い、力を鍛え続けた。そして彼らは単に自分たちの世界を創造することを超えて、対立するすべての世界を滅ぼしてきた。


だが、強すぎる力は諸刃の剣だった。パールムの力を集積させたサイクル・リングを扱える戦士は次第に減り、ついにはほとんどいなくなった。貪欲に力を求めた彼らは、自らの不幸を招いたのだ。その果てに、ブルの地球の人々はほぼ死に絶えてしまった……」


ベルティーナの瞳には、悲哀の色が浮かんでいた。


「最後に残った二つの世界の戦争は熾烈を極めた。強大な戦力を持つヴェルデの地球に対し、サイクル・リングを扱えるブルの地球には、もはや二人の戦士しかいなかった。その二人が――レイとユウ」


ベルティーナは少し目を伏せた。


「ユウはとても優しい戦士だった。そして、心の弱い戦士だった。彼は戦争を好まなかった。自分の世界には守るべき人がほとんどいない。そんな世界のために戦う意味を見出せなかった。けれど、戦士として生きる宿命をレイに見いだされ、彼は剣を取った」


ベルティーナの声がわずかに震えた。


「戦うことを強いたのはレイだった。だが、彼女はそんなユウを何よりも守ろうとした。何度も窮地に陥ったユウを助け、励まし、自らは幾度も血を流しながら、それでもユウの盾となり続けた。レイのユウへの想いは、愛情などという単純な言葉では語れないほど、強く、深く、激しいものだった。


けれど――ユウはただ守られるばかりの自分に、次第に自責の念を募らせていった。そして、彼の心には”反跳の溝”が生まれた……」


ベルティーナはゆっくりと目を閉じる。


「私は、最低の薄鈍者の兄と共に、この戦争をどうにか生き延びてきた。そして、数回しか会ったことのないユウに惹かれていた。だからこそ、ユウと戦うことが嫌だった。……もう、これ以上、存在力を制御できないことも分かっていた。蕩尽なこととは理解していたが、それでも私は兄のバーナティーを説得し、戦争を終わらせようとした。


だが、兄は私の進言を無視し、ユウとレイに戦いを挑んだ。もし、二人が相手ならば、兄はきっと無様に敗れたに違いない。それが、私には何よりも恐ろしかった。私たちの世界が結創造を崩されることが」


ベルティーナは微かに唇を噛む。


「あれだけ無分別な男……今思えば、兄バーナティーはフィーネの塵楳(じんばい)にとって、絶好の標的だったのだろう。だから私は、兄に内緒でこの地球のフライ・バーニアでユウと会うことを画策した。いえ……本当は、ただユウに逢いたかったのです」


彼女は目を細め、遠い記憶を辿るように静かに続けた。


「そして、私はユウに自分の願いを話した。彼は、それを約束してくれた」


柔らかく風が吹き抜ける。


「ユウはヴェルデの地球に渡り、レイに黙って、たったひとりで兄バーナティーと戦った。本来、ユウひとりでは勝てる相手ではなかった。けれど、ユウは策を巡らせ、殺すことなく兄を倒した」


ベルティーナは少し寂しそうに微笑んだ。


「結果的に、励起導破戦争はユウがたったひとりで終わらせた。……そこまでは、まだ良かった」


けれど――


「最後の戦いを、乾坤一擲の戦いを、共にできなかったレイは絶望した。打ち拉がれ、自らの存在意義を失ってしまった。戦争が終わり、ユウが待つ場所へ行くことすらできなかった」


ベルティーナの表情に影が落ちる。


「そうなったのは、私の責任。……私が、二人を引き裂いたのだから」


彼女の声は、ひどくかすれていた。


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