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152、未来 知成力

量子論において、ミクロな状態は観測されることで確定する。それまでは複数の可能性が同時に存在し、揺らいでいる。これを波動関数の収縮と呼び、標準理論として広く受け入れられている。現在の科学技術でも、この解釈が前提となっている。


一方で、観測しないこと、つまり「見ないこと」がナノテクノロジーの根本原理となる。ミクロな世界の揺らぎは、やがてマクロな世界にも影響を及ぼし、人間はそれを共有している。ただし、ミクロとマクロを結びつける明確な理論はいまだ確立されていない。


生命とは何か。この問いに対する答えもまた不明瞭だ。単細胞生物から多細胞生物、そして思考する存在へ──どのようにして生命は認識能力を獲得するのか。自励発振(じれいはっしん)(自己組織化による周期的な活動)を伴う知性が、やがて世界をどのように理解するようになるのか、そのメカニズムは未解明のままだ。


さらに興味深いのは、人間同士が本当に同じ世界を見ているかどうかを確かめる手段がないという事実だ。たとえば、誰かが発した言葉を相手が正しく理解しているかどうかは、厳密には検証できない。ただ、意思疎通が成り立ち、共同作業が滞りなく進めば、そこに食い違いがあったとしても問題視されることはない。


つまり、我々の現実は、必ずしも確定したものではないのかもしれない。量子の世界と同様に、マクロな世界も常に揺らぎ、無数の可能性が同時に存在しているのだ。


地球と生命の歴史において、長い時間をかけて観測され、認識され続けた「実在」は、揺るぎない存在感を持つ。生命の維持に不可欠なものは必然的にその力を与えられ、安定している。たとえば、古典力学や相対性理論によって明らかにされた物理法則。この宇宙の巨大な階層から与えられたマクロの構造は、決して揺らぐことがない。


人間が生きるうえで経験する現実の半分は、そうした「揺るがないもの」だ。だが、残りの半分はどうか。それは、人間自身が認識し、存在を与えたもの、あるいは、他者が認識し、世界の一部として共有したものである。


人は、自分が認識したものに存在(エグジステンス)(フォース)、ものの形を創る力を注ぎ、それを世界に結びつけることができる。この能力を知成力と呼ぶ。知成力(コグニティブパワー)は、生きとし生けるものが持つ潜在的な力であり、無自覚のうちに発現する。ほとんどの人間は、誰かが生み出した「実在」を無意識のうちに受け入れ、それを疑うことなく一生を終える。また、物理的に言えば存在する力とはダーク・マターの一部と言われ観測と言う行為ではエネルギーとして測る事は出来ない。人の認識する力が唯一捉えることが出来る。知成力(コグニティブパワー)とはそれを自由に使える能力のことである。


だが、人類の歴史の中で、知成力の本質に気づいた者たちもいた。たとえば、鳳一族。彼らは、生まれながらにして知成力を強く持つよう、遺伝子の段階で操作されてきた。そして、長い歴史の中で、知成力によって作り上げた自分たちの世界に他者を取り込み、影響を拡大していった。


地球上には、鳳一族のような者たちが幾つも存在し、互いに覇権を争ってきた。知成力を制する者こそが、世界を制するのだ。


だが、それも結局は人間の尺度で見たささやかな欲望にすぎない。この星で起こる数多の現象の中では、ただの小さなさざ波にすぎなかった。そのことを、鳳ハルカは一族を離れたとき、ようやく理解した。


創造主がこの星の人間の階層を知ったのは、この星の生命がミクロの世界を認識する力を持っていたからだった。


この世界では、異なる知成力が入り乱れ、現実は常に不安定だった。だが、人々が量子の世界に触れたとき、階層構造の底が沈んだ。それによって、創造主はこの星の「人の階層」を知ることとなったのだ。


もちろん、宇宙には地球のような星が他にも無数に存在する。創造主にとって、地球は決して特別なものではなかった。


創造主たち、あるいはそれと同じような存在は、宇宙のあらゆる下層世界を探し出しては、そこから**「知成力」と「存在力」を奪ってきた。そして、それによって自らの階層世界をさらに下へと広げていった**。まさしく侵略である。


それが「生起創造」──すなわち、無数の地球のコピーを生み出し、それらを意図的に不安定な存在にすること。創造主は、こうして創られた地球達に元の星から知成力と存在力を奪わせたのだった。それが「励起導破戦争」。


存在する力は、それを創る知成力と相補的な関係にある。 つまり、この地球の人々の知成力は失われ、逆に、存在力を奪った他の地球の住人の知成力は高まっていった。


ベルティーナがこの世界に転創したとき、最初に感じた違和感。この地球の人間の知成力が極端に低いこと。それは偶然ではなく、必然だった。


創造主の目的は、知成力を奪うことで、単体では思考することのできない人類を生み出すことだった。そして、不要になった他の地球をすべて切り離す。


それこそが、創造主の計画──光層磁版図(こうそうじはんず)だった。



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