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129、過去 遠い青の記憶

ロッゾの魔女、ヴェナ・ロッゾの進行は容赦なく、加速していった。彼女が操るスクエア・ウォールは、どんな敵の攻撃も吸収し続け、瞬く間に膨れ上がり、目に見えぬ力で世界を包み込んでいった。しかし、結創造を終えたヴェルデの地球やブルの地球からの共振転創は、何故か成功しなかった。謎の力がそれを阻んでいるかのように。


ヴェナはその記憶の中で、ブルの地球から送り込まれた最強で最悪の戦士二人の姿を思い起こす。暗い影が彼女の表情を一瞬覆った。


「はあ、後回しにしてたね…今の私に、何の未練があるのか。」ヴェナの口元に、冷酷な笑みが浮かぶ。「ククク。それじゃあ、あの二人に会いに行こうか。逢って、その強大なブルの戦士の力を奪い、私のものとしよう。」


その言葉に、葵瑠衣(あおいるい)が反応した。何度もヴェナに反抗し、立ち向かってきたが、全て無駄だった。ステッラの地球で最も強力な守護者となるはずだった自分が、今や何もできない無力な存在だと感じる日々。悔しさと絶望が胸を締めつけるが、それでも涙が流れない。怒りの表情も、言葉すらもない。自分が創り出した高分子結晶能力が、どうしてヴェナには通じないのか、それさえも理解できない。


「何故だ…どうして?」葵瑠衣の心の中で、答えを求める問いが渦巻いていた。だが、彼女はその答えが自分自身に有ると気付かなかった。取りつく相手を間違えたのだ。彼女が欲しかったものはヴェナレートの中にはない。

ブルの地球に降り立ったヴェナは、その荒廃した世界を見渡す。風は冷たく、無機質な大地が広がっていた。かつての栄華は跡形もなく、今や虚無に包まれている。


「荒れてるねえ、ステッラの地球にも負けないくらいの荒み様だ。こんな何もない世界のために、どうしてあの二人は戦っているんだろう?」ヴェナの目に、今まで見たことのない感情が浮かんでいるのを葵瑠衣は感じ取る。


その時、遠くからレイの声が響いた。「ついに、ここに来たね、ユウ。」


ユウはその声に静かに答える。「ああ、凄まじい変わりようだ。あれが、あのラナイの戦士ヴェナレートとは、とても思えない。」


ヴェナの姿は、美しく屹立していたかつてのものとはまるで違っていた。今やその姿は、巨大で醜悪な悪鬼のように変わり果て、周囲を深紅の沼に沈み込ませるような圧倒的な存在感を放っていた。地面が揺れるようなその威圧感に、ユウは覚悟を決める。


「もはや彼女の存在は、この世界にとって害悪でしかない。打ち滅ぼすしかない。」ユウの言葉に、レイは少し微笑んで答える。


「ユウは、あの女に興味があったんでしょう?本当にそれでいいの?」


ユウの胸に、過去の記憶が一瞬よぎった。長い戦争を共に戦い抜き、安定した世界を創るために手を取り合ったヴェナレート。だが、その信頼はもう無くなっていた。


「もともと異性として興味があったわけじゃない。でも…まあ、いいや。」ユウは言葉を途中で止め、そのまま黙り込む。二人の間に、重い沈黙が流れた。


レイが、ふと話を切り出す。「ユウ、私の考えた作戦はね、移動しながら私たちのサイクル・リングで仮想のパールムを創って、あの女の魔力を吸収させる。隙を見て、サイクル・リングの高次元移送能力を使って、あの魔女の力を高次元へ流し、奪うんだ。」


ユウはその作戦を静かに受け止めた。レイらしい、正攻法の戦い方だと感じた。サイクル・リングの力は世代を重ねるごとに強力になり、あの魔女の力を飲み込むことができるだろう。しかし、ユウはその計画に不安を抱えながらも口を開く。


「でも、移動しながら仮想パールムを創るって、その間ずっと僕たちは彼女から逃げ続けるのか?簡単に隙なんて作れるわけがないし、もし失敗すれば、僕たちの力を吸収して彼女はもっと強力になって、全ての地球を滅ぼしてしまう。」


レイはその指摘を不満そうに受け止めるが、冷静に答える。「私が仮想パールムを創りながらあの女から逃げ続ける。ユウは、一定の距離を保ちながら、隙を見つけてサイクル・リングをあの女に向ければいい。」


ユウは溜息をつき、再度問いかける。「レイはどれくらいの時間、ヴェナから逃げ続けるつもりでいるの?」


レイは静かに上を見上げ、考える。「そうだね、7日から10日くらいかな。それだけあれば、あの魔女も隙を見せるよ。」


ユウはその答えを深く考えながら、また一度、重い息を吐いた。「レイ、無理しすぎだ。今、僕のセンサーが反応してる。他の地球の戦士たちが、10人近くブルの地球に来ている。魔女との決着を見守っているんだろう。最後には、疲れ切ったレイと、サイクル・リングを使えない僕に対して、あの連中はどうすると思う?」


レイはその言葉に無言で頷く。彼の言うことが、全て正しいことを理解していた。


そして、二人は作戦を実行することを決意する。ユウとレイは互いに離れ、魔女ヴェナを身体の隅から攻撃し始める。レイのアクア・クラインの輝石と、ユウのクリスタル・ソオドのアーク・ブレイザーで、ヴェナの存在を少しずつ削り取っていく。最初、ヴェナはその攻撃をただくすぐったいと感じただけだったが、攻撃が深くなるにつれて、無視できない痛みが身体に広がっていった。


ヴェナは怒りを込めてスクエア・ウォールを展開し、二人を同時に薙ぎ払う。その瞬間、ユウとレイは素早く距離を取る。互いに引き離されながらも、ヴェナの存在の中核にまで迫り、やがて完全に彼女の存在の外へと逃れた。最初に退いたレイは、どんどん遠ざかり、アクア・クラインの輝石もその姿を消していった。



レイの姿が消え、荒れ果てた大地に立つユウ。風に舞う砂埃が、彼の周りに一層の孤独を引き立てていた。空は鉛色に曇り、遠くには死に絶えた草木の影が寂しく揺れる。瓦礫が散らばり、空気は重く、緊張感が漂う中、ただ一人、ユウは立ち続けていた。


魔女ヴェナは、静かにその場に佇むユウを見つめていた。荒れた大地が彼女の足元でひび割れ、その裂け目からはまるで世界が崩壊していくかのような音が響く。ヴェナはゆっくりと、その膨れ上がった存在感は、かつてのラナイの王女ヴェナレートの姿に収束させた。


ヴェナレートは静かに腰を鎮め、ユウに向かって歩を進める。その動きは、まるで空間そのものを支配するように重く、どこか冷徹な美しさを感じさせた。彼女の目には、かつての情熱が見えない。まるでその心の中に渦巻く感情さえも、今やヴェナのものではなくなっているかのようだ。


「ブルの戦士ユウ・シルヴァーヌ、つがいの側らに見捨てられたか?ならば私の元へ来るが良い。おまえは私の側らにいれば良い」

その言葉に、ユウはわずかな反応も見せず、ただ静かに見つめてくるだけだった。その時、ユウの背後から数本の縦線が不気味に浮かび上がり、その隙間からレイが現れる。


「まさか、共振転創(きょうしんてんそう)! 何故おまえ達が?」

ヴェナが驚きの声を上げた瞬間、レイはその身体を14個の輝石で包み込む。輝石はひとひらの光を放ちながら、ヴェナの存在を抑え込んでいく。クライン・ボトルの結界。

魔女の姿は徐々にその形を失い、もはや戻れなくなった。


「おまえに出来ることが私達に出来ないと思ったか! 私がユウを見捨てるだと? 人の心をそんなに軽く考えるから、魔女などに成り下がるのだ」

レイの声は冷徹で、怒りを感じさせる。その瞳は鋭く、まるで全てを見透かすかのようだった。


そして、ユウの両腕には、エネルギーを蓄積したアーク・ブレイザーを構成するクリスタル・ソオドが現れる。刀身は冷たく輝き、両腕を包むようにその力を高めていく。


「僕は貴女の誇り高い精神に憧れ、尊敬していた。こんな事になって本当に残念だ。ラナイの戦士ヴェナレート」

ユウの声には、過去への敬意がこもっていた。しかしその瞳の奥には、かつての仲間に対する切ない思いがあふれ出していた。


「――ああ、私の可愛い妹、ベルティーナ。貴女はきっとこの男を愛してしまう。それは、おまえに更なる苦しみを与え続けるだろう。」

ヴェナレートは内心でそう呟く。彼女の思考は、もはやユウやレイとの戦いに留まらず、遠くで苦しんでいるベルティーナの顔へと向かっていた。


その瞬間、クライン・ボトルの結界が解かれ、ヴェナの姿が巨大になっていく。ユウはその前にスクエア・リムを放つ。ヴェナの姿は、次第に消え去り、風の中に溶けるように消失した。


そして、静寂が訪れた。葵瑠衣も解放され、異様な速さで近づいてきた。その姿にユウは、一瞬目を奪われたが、すぐに冷静さを取り戻す。葵瑠衣は、その知力と力強さを見せつけるように、ユウに近づく。


一瞬、ユウの目には葵瑠衣が抱える想いが見えた。彼女が抱えた渇望、そして彼の力に対する無言の呼びかけ。それはまるで、過去に引き寄せられるような深い影だった。


「強大なロッゾの魔女を倒したあなたに惹かれた。あなたの知識、力を私のものにしたい。ステッラの地球で目覚めてからも、ずっとそのことばかり考えていた。」

葵瑠衣の声は、どこか切実で、抑えきれない感情が滲んでいた。しかしその瞳には、冷徹な意志も宿っていた。


その後、数年が過ぎた。ブルの地球に潜んだ葵瑠衣はずっとチャンスを待っていた。そしてその時は来た。開放された彼の意志は真っすぐにクァンタム・セルの窓に、瑠衣の故郷ステッラの地球に力強く向かっていく。葵瑠衣はその強い意志に取り憑いた。


「これは完璧じゃない。あの魔女を打ち滅ぼした存在の一部が足りない。でもそれもきっと自分のものにしてみせる。」

葵瑠衣は、固く誓った。その誓いは、彼女の身体と心を完全に支配し、次の世界への扉を開くための力となるだろう。


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