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128、過去 ユウとヴェナレート

ユウがブロンヅオの地球に足を踏み入れた瞬間、陰鬱な気持ちが胸に広がった。眼前に広がるのは、かつて活気に満ちていたはずの世界。しかし今では、すべてが無力に沈黙し、魔女ヴェナレートの力によって奪われ尽くされた。荒廃した景色と静寂に包まれた地上には、かつての戦いの面影すらも残っていない。


「何故、あの人が魔女になったんだろう?」ユウの心に浮かんだ疑問が、ますます深く沈んでいった。あのヴェナレートこそが、励起導破戦争を終わらせ、未来へと道を開く者だと信じていたのに。ラナイの国に、レイと共に訪れた本当の目的は、彼女のことを知るためだった。だが、王族も、妹のベルティーナさえも、ヴェナレートの名を口にすることはなかった。


それでも、意外にも異性嫌いで知られるベルティーナが自分に話しかけてきたことには驚いた。あの冷徹な姫が、自分と口をきくなんて、ユウにとっては予想外の出来事だった。


ユウの思いはふと過去へとさかのぼった。ヴェルデの地球での激闘を思い出す。あの時、ヴェナレートが身に纏っていたのは、戦士としての誇りを感じさせる勇壮な鎧だった。彼女が指揮を取るラナイの軍の兵たちは、まさに鉄壁のように一糸乱れぬ戦術を展開し、ユウとレイの二人を追い詰めた。ヴェナレートが指示を出す度、兵たちは無駄のない動きで攻撃を繰り返し、その隙のない防御にユウたちは苦しんでいた。何度も剣を振り上げたが、そのたびにラナイの兵士たちは、彼女の元に戻り、戦い続けていた。


ユウはその状況を見て、レイに引くことを提案した。「このままだと消耗するのは僕たちの方だ」と。


レイは不承に顔をしかめた。「私はまだ戦えるよ。」


だが、ユウは冷静に答える。「確かに君ならまだ戦えるかもしれない。でも、この先を見据えるなら今は引くべきだ。」


「敵の中核、ラナイの第一王女は、まだ本当の力を使っていない。」ユウはその戦闘の本質を見抜いていた。「多分、彼女は自分の力が味方を傷つけることを恐れているんだ。」


レイはしばらく黙っていたが、ユウの言葉に不満を抱きつつも納得したようだった。「ラナイの王女の本来の力、か…」


「そう。」ユウはその力について詳しく説明した。「彼女は、偶然生まれた先祖返りの力、『共振転創(きょうしんてんそう)』が使えるんだ。」


レイはその言葉に首をかしげた。「共振転創?」


「かつて生起創造(せいきそうぞう)が行われていた時代の転創方法だよ。」ユウは静かに語り始めた。「自分と共鳴するものとの中間に擬似重心を置いて、仮想物を作り、その共鳴先と入れ替えることができる。しかも、同じ地球だけでなく、他の地球にあるものとも転創できるんだ。」


レイは目の前の戦場を見渡しながら言った。「もし彼女がその力を使う気になったら、私たちは太刀打ちできない。」


ユウは頷きながらも、冷静に続けた。「だが、彼女は一人で戦うよりも兵たちと協力して戦うことに価値を見出している。彼女にとって勝利は目的ではないんだ。」


「でもユウなら、同じことができるんじゃないの?」レイが問いかける。


ユウは苦い顔をして答えた。「研究すれば、同じ地球内でなら僕にもできるかもしれない。ただ、他の地球から転創するには大掛かりな仕掛けが必要だろう。」


その時、ユウはふとヴェナレートの視線を感じ取った。彼女が静かに、そして冷徹にユウを見つめているのに気づく。


レイはその視線に気づかないふりをして言った。「もし、あの女がユウに共振転創をしようとしたら、私は絶対に許さない。因果の果てまで追いかけて、必ず殺す。」その声には強い決意が込められていた。


ユウはその言葉に深い感慨を覚えたが、心のどこかで、この戦いが彼らをどう変えるのか、まだ分からないことに不安を感じていた。


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