127、過去 同行彷徨
王と女王、王子の三人によるラナイの盾による強制転創は、予想を超えてヴェナレートの力の抵抗を受けた。転創が始まった瞬間、周囲の空気はひどく歪み、風が暴風のように吹き荒れる。ヴェナレートの体がその力に引き寄せられる感覚を感じながらも、彼女は必死に自らの存在を保とうとした。しかし、元々本人の意思に基づかない転創は、想像以上に膨大な知成力を消費するものだった。
ヴェナレートがクァンタム・セルの窓に飛ばされる瞬間、三つのラナイの盾はその形を保つことなく、完全に破壊されていった。盾の破片が空中に散り、輝く金属片が宙を舞う。その衝撃波が周囲の空気を揺さぶり、まるで大地が揺れ動くような感覚を与えた。残ったラナイの盾は、ヴェナレート自身のものと、ベルティーナのものだけとなった。
ラナイの盾は、持ち主の意思がなければ他の者には使えない。しかし、ヴェナレートの盾は無力化され、そのまま無用のものとなった。
強制転創を受けたヴェナレートは、自我が崩壊し、思考が止まってしまった。体は無理に引き裂かれ、異次元へと引き込まれていく。しかし、その中でひとつだけ消えずに残ったもの、それはラナイ王家への深い憎悪だった。
**『世界が私の敵だ。ならば世界の全てを滅ぼす。そして私が世界に変わる存在になる』**
ヴェナレートの力は、クァンタム・セルの窓を抜けてフライ・バーニアに送られる際、次第に戻り始めていた。ステッラの地球で、彼女にとり憑いていて眠っていた葵瑠衣が目を覚ましヴェナレートはその力を飲み込んだ。
だが、その手前で、彼女の行為を阻む者の存在があった。強い思念がヴェナレートに直接届く。
**『止めて!その娘を還して。この娘は私に変わって、この星の守護者となる大切な存在』**
その思念を発した者は、嵐のような大気を操り、ヴェナレートの転創を妨害した。フライ・バーニアの北、ラクベルからロッゾの地球への道が新たに開かれようとしている。
ヴェナレートは冷笑を浮かべ、心の中で呟いた。
**「弱々しい力だな。私を破る者が現れたらいつでもこんなもの還してやる」**
**『瑠衣・・!』**
アルファの思いが深い哀しみの中に沈んでいく。
そして、再びヴェナレートはクァンタム・セルの窓からロッゾの地球へ向けて量子の海を渡っていく。
**ロッゾの地球**。
その地に降り立ったヴェナレートを待っていたのは、赤い巨大な揺らぎが星全体を覆う光景だった。揺らぎの中では、人々の姿が現れては消えていく。対消滅のように消えかけたロッゾの地球の人々の存在が、かすかに脈を打つように感じられた。この地球は誕生から不安定であり、ただ生き続けることが難しい場所だったが、それでも何かが残っていた。
ヴェナレートはその光景を見渡し、静かに笑った。
**「ハハハハハ・・・まだ搾り取れる。失われていくこの地球の者達の無念が私と共鳴する」**
左手に仮想物を創り出し、ヴェナレートはロッゾの世界から共鳴するものを次々と転創していく。それらを右手で取り込み、自身の体内に強大な力を溜め込んでいく。力が増す度に、彼女の憎しみも深く増大していく。それを繰り返しながら、ヴェナレートの記憶と人格は、かつてのラナイの戦士だった頃のものとはかけ離れた歪んだものへと変貌していった。
しかし、ヴェナレートに身体を奪われ、ロッゾの地球に連れてこられた葵瑠衣は、最後まで自我を失わずに抗い続けた。彼女の心の中でヴェナレートへの憎しみが大きく膨らみ、次第にそれはヴェナレートを侵食していった。
葵瑠衣は知成力を全て駆使し、ヴェナレートに立ち向かう。彼女は少しずつヴェナレートの身体を奪っていくが、葵瑠衣の高分子決勝能力は、ロッゾの魔女には通じない。それでも彼女は、ただひたすら憎しみをヴェナレートにぶつけ続ける。ヴェナレートが共振転創したものを使い、微弱な力でヴェナレートを削り続けるが、その力には限界があった。
**「ああ、あんたは私の中に取り込めなかったけどね。でもいいよ、あんたのその憎しみの感情は私を更に強くしてくれる。あんたは私を否定しながら、私と一緒に世界を滅ぼしながら彷徨うんだ」**
ヴェナレートはロッゾの地球を白く塗りつぶし、そこに残った全ての存在力を奪った。それは、パールム20個分に相当する存在力だった。それから更に他の地球に自分自身を共振転創させ、幾つもの地球の人々と戦い、その力を吸収していく。
そして、いつの頃からか、ヴェナレートは「ロッゾの魔女、ヴェナ・ロッゾ」として知られるようになった。