125、過去 共振転創と成起創造
トキヤが突如としてベルティーナの前に出現したことについて、彼女は当時まだ幼かったが、ヴェナレートが言った言葉が気になって仕方なかった。
「お前を助けてくれそうな奴を転送する。」
その後、ベルティーナはヴェナレートにその言葉の真意を尋ねることに決めた。
「ああ、あれの事か」とヴェナレートは、少しばかりため息をつきながら言った。「もともと初期の創造された地球では、あの転移創造しか別の地球に移動する方法は無かったんだ。」
この頃のヴェナレートにはステッラの地球でともに戦った葵瑠衣が憑いてきたはずだが、ラナイの結界により彼女がラナイの国へ入ることは出来なかった。彼女が本格的に姉にとり憑くのは追放されロッゾの地球で魔女になってからの事だ。
この頃のベルティーナは今と同じ15歳になっていた。ヴェナレートの言葉を理解できる知識を身につけていた。彼女の心には様々な疑問が沸き起こり、それを解き明かしたいという強い欲求があった。
ヴェナレートはゆっくりと語り始めた。「大昔、成起創造が行われた時、それをやった者たちはまず私たちの地球を創るため、ステッラの地球から太陽エネルギーを、太陽の鞘を使って、ステッラの地球を構成する素粒子の三次元の情報を重力子に乗せて、高次元に向けて放ち、ステッラの地球のコピーを創った。」
ベルティーナは黙ってその話を聞きながら、記憶の中の知識をたどった。成起創造に関する話は、これまでの学びで何度も耳にしたことがあったが、姉の言葉には深みがあり、また何かが違うように感じられた。
「姉上、それは高次元に浮かぶ別の三次元の膜宇宙に、ステッラの地球のコピーを創ったということですよね?」ベルティーナは慎重に尋ねた。
ヴェナレートは肩をすくめ、少し面倒そうに答えた。「ああ、何か自分たちの地球はすでに独立した慣性系にあると思っている王や女王は、そう思いたいようだな。どこに向かって虚勢を張っているのかね。いいかい、ベルティーナ。世界はミクロの素粒子の段階から、通常の三次元世界に住む人間には捉えられない別の高次元へ広がっている。だから、重力子に乗せた元地球の情報を、太陽の鞘から蓄えたエネルギーに乗せて、人工的に大量の仮想ブレーン世界と元地球のコピーをたくさん創ったんだ。」
ベルティーナは少し驚いた。姉の話す内容は、自分が知っている文献には載っていないものだった。
「なぜ私たちの地球は仮想ブレーンの上に創られたのですか?」ベルティーナは疑問を口にした。
ヴェナレートは少し考え込み、答える。「仮に高次元に浮かぶ別の膜宇宙に、重力子に紛れたステッラの地球の情報をコピーして創ったとしても、その膜宇宙が同じ物理法則でできているかどうかも分からないし、地球が存在できる環境かどうかも分からない。だから、高次元空間に仮想膜世界を創るしかなかったんだ。私たちの地球は閉ざされた世界だ。この仮想ブレーンは、ステッラの地球以外のどことも繋がっていない。」
ベルティーナは姉の言葉を理解しようとし、心の中で持っていた知識を整理していった。その言葉一つ一つが、これまでの世界観を大きく揺るがすものだった。
「まあ、後はおまえも知っているだろうけど、エネルギーとステッラの地球の素粒子の情報だけで創られた世界は、まったく安定しなかった。」ヴェナレートは続けて語る。「恐ろしいほどの数の地球が創られたけれど、そこは希薄で虚ろな世界だった。ステッラの地球はエネルギーと質量を創ることだけでできていたわけじゃない。質量の中に潜んだ存在力がなければ、世界は安定しない。だから創造主たちは大慌てでステッラの地球から存在力を、ものの形に変えたパールムを、それぞれの世界に送った。」
ベルティーナは深く頷きながら聞いた。「それが姉上がやった共振転創ということですね?」
「その通り。」ヴェナレートは冷静に続けた。「当時はクァンタム・セルの窓なんてなかったから、ステッラの地球と共鳴できる世界にのみ、パールムを転創した。それが私がやった共振転創だよ。間もなく、彼らは元地球に高次元方向へ転送できるクァンタム・セルの窓を創った。共振できない地球に行くことも可能にするためにね。そして、少ない存在力のパールムを奪い合うこのクァンタム・ワールドを放置して、どこかに消えてしまった。」
ベルティーナはその話を初めて聞いた。彼女は姉の話を頭の中で整理しながら、次の質問を口にした。「姉上、どうして共振転創ができるのですか?」
ヴェナレートは少し困った顔をし、答えた。「・・・呪われたラナイの血のせいだね。私の細胞の中に凝縮された存在力が、同じ地球の中でも、他の地球に対しても共振するものが分かってしまう。そして、私はそれを望んだ場所に転送できる。でもこれは、ベルティーナと私だけの秘密だよ。もし父や母がそれを知ったら、全ての世界を滅ぼそうとするだろう。そんなことをしなくても、励起導破戦争はすぐに終わるさ。私が終わらせる。その後、生き残った地球たちは、パールムを奪うだけの愚かな争いの先を考え始めるだろう。」
ベルティーナは姉の言葉を深く受け止め、ラナイの中でも最大の力と知力を持つ存在である彼女を、心から尊敬し、敬仰した。
「姉上なら、ブルの世界の最後の戦士と言われる二人にも勝てますよね?」ベルティーナは憧れと尊敬の眼差しで姉を見上げた。
ヴェナレートは優しく微笑みながら、ベルティーナの頭を撫でる。「ああ、ブルの世界の餓鬼二人か。あの最強、最悪の戦士は簡単には倒せないかもしれないが、まあなんとかするさ。」
ベルティーナはその微笑みに安心感を覚え、心の中で姉と共に歩む未来に希望を抱いていた。