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青いガーネットの奇跡  作者: 村松希美


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2 意外な仲間 4

 麻子とはるかが教室を出る時、西野利香とすれちがった。利香は、麻子たちを見ると不気味な笑みを浮かべた。

「何なのよ、あ~感じ悪い」

 はるかは、利香に聞こえるようにいった。麻子もそう思ったが、はるかのように口にすることができなかった。麻子がそっと後ろをふり返ると、利香は綾乃に何か耳打ちして、はるかをにらんでいた。

「はるか……」

 麻子ははるかの袖を引っ張った。

「あら、いいじゃない。向こうが感じ悪いんだから。麻子も強気で行かなくっちゃ……。それより、センター街の裏路地にパフェのおいしい喫茶店があるのよ。ちょっと、寄って行かない?」

「えっ?」

 麻子ははるかの顔を見た。放課後も女の子の友だちと一緒に過ごせるなんて、考えてもいなかった。


 何年ぶりだろう? 東京にいた時以来だ。


 麻子には、そんな日は来ないと思っていた。今思うと、いじめに遭ってから、考え方が消極的で暗くなっているような気がする。


「どうしたの?」

「あっ、うん、別に……。早く行こう!」

 麻子とはるかは下駄箱の前まで来た。はるかがスニーカーに右足を入れる。

「痛い!」

 はるかの右足に痛みが走る。スニーカーから足を抜くと、つま先に画鋲が1つ刺さり、ソックスが血で染まっていた。スニーカーの中をよく見ると、画鋲があと4つ入っていた。

「ひどい! こんなことをする人たちって……?」

 麻子は、はるかの画鋲を抜くと、持っていたバンドエイドを渡した。

「決まってるわ。二Bの女子たちとさっきの西野さんよ。麻子のスニーカーも確かめた方がいいわよ」

 麻子がスニーカーを(のぞ)くと、画鋲が5つずつ左右に入っていた。はるかの左のスニーカーからも同じ数の画鋲が出てきた。

「どうして、こんなこと……?」

「決まってるじゃない。わたしたちのことが気に入らないからよ」

「わたしたち、何も悪いことをしていないわ」

「とにかく、パフェでも食べながら、対策を練りましょ」



 はるかが案内してくれたパフェのおいしい喫茶店は、Copper Beeches(ぶな屋敷)という名前の店で、雑居ビルの3Fにあった。中に入ると、ヴァイオリンの曲が流れていた。

「ここのBGMは、CDじゃなくって、全部レコードなんだって」

「へえ、しぶいね」

 周囲を見渡すと、ゆったりしたソファーにガラスの机がおいてあり、大学生たちや背広を着たサラリーマン風の人たちがコーヒーを飲んでいた。静かさを楽しむような喫茶店だ。女学生も何人かいた。


 はるかは、出入口から離れた窓際の席に座ると、カバンを脇においた。麻子も向かいの席に着いた。

 雨はリズムを変えずに規則正しく降っている。

「こんな感じの店だけど、50年くらい昔から続いている店だから、意外と安いんだ」

「そうなの。ねえ、はるかもホームズさ……」

 麻子は「ホームズさん」と危うくいうところだった。普通、本の中の人物に「さん」をつけるのは変だ。麻子はいい換える。

「はるかも〈ホームズシリーズ〉が好きなの?」

「ううん、わたしは推理小説は読まないわ。好きなのは少女小説よ」

「でも、〈ぶな屋敷〉って……」

「うん。ここは姉さんから教えてもらったの。姉さんは大学生だから……。あずみたちともよく来るんだ。ベリーベリーパフェがおいしいよ」

 はるかが、メニューに載っていたパフェの写真を見せた。アイスクリームの間にいちごとブルーベリーとラズベリーを縞状に重ね、生クリームで装飾した上にいちごが飾られていた。その脇にチョコポッキーを2本さしてあった。麻子はいちごが大好きだったので、迷わずそれにした。ここで、ウエイターが注文票を持ってやってきたので、はるかはベリーベリーパフェを2つ注文した。


 2人は好きな食べ物などたわいもない話をしていたが、パフェがくると、はるかは麻子に気になっていたことを口にした。

「麻子って、まだ、どうしてわたしが麻子と一緒にいるのかな?って、疑問に思っているみたいね」

「どうして分かるの?」

「そんな顔をしているもん。すぐに顔に出ちゃうんだね」

「よくそういわれるの」

 麻子は真司にそのことでよくからかわれるが、その言葉の前に「真司にも」とつけられなかった。はるかのことをまだ用心していたからだ。


 わたしって、いつからこんなに人を信用できなくなったのかしら……?


 と、麻子は少し悲しくなった。これなら、友だちができなくても無理はない。でも、人を信用するのは難しい。麻子のような経験をすると、特にそうなるのかも知れなかった。真司みたいにやさしくしてくれたら、人を信用できる。でも、すべての人がそう都合よくはならない。それ以外で、どうしたら、自分から信用できるようになれるのか、麻子にはまだよく分からなかった。


「麻子は、わたしと同じ痛みが分る人だなって思ったの」

「えっ?」

「わたしもいじめられていたことがあるんだ。小学六年の時、綾乃たちにね」

「桜小路さんって……、わたしが初めてじゃなかったの? でも、はるかがどうしてまた……?」

 麻子には、はるかがいじめに遭うような子には見えなかった。


「いじめられている子がいてね、わたしがその子をかばったの。そしたら、綾乃が、『何よ、善人ぶって』っていってね、それから、わたしがその子に代わって、いじめの標的にされるようになったの」

「いじめられていた子はどうしたの? はるかがかばったのに、力になってくれなかったの?」

 麻子は身を乗り出していった。

「転校しちゃった。それから1ヶ月ほどしてね。その間は、綾乃のことを怖がっていたのか、わたしの側に来てくれなかった。でも、転校する前に、『ありがとう』っていってくれた。その時思ったのは、わたしがしたことは、やっぱり間違ってなんかいなかったんだって。だから、中学であずみたちに出会うまで、その言葉だけを支えにしてきたんだ」

 はるかは、ブルーベリーソースがかかった部分をひとさじ(すく)うと口に入れた。のど元をピクッと動かせると、はるかは続けた。


「ああいう経験をして、いじめについていろいろ考えるようになったの。中学生になって、そういう子がいたら力になろうと思って。まず、クラスを見渡したら、あずみとしおりたちがいて、意気投合しちゃって……。あずみたちも同じ痛みを知っているのよ。

 いじめられるのは、それなりに悪いところがあるからっていうけど、恨みを持っているのならともかく、第三者が『悪者成敗』を笠に着て、いじめをするのは悪くないとでもいうのかしら……?

 見た目には、『いじめられている子』の方がみじめに見えるけど、『いじめている子』の方が、人間として本当の意味で、かわいそうだと思うね。だって、いじめて楽しいというのは、醜い心だということに気づいていないってことだし、気づいても抑えることができないなんて、そういう悪い心を、自分の中で抑えられる強い心がないって、自分で自分のことを証明しているもんじゃない。つまり、自分は、弱い人間なんだってね。

 いじめられると、辛くって、悲しくって、格好悪いってイメージがあるけど、孤独の悲しみや人の痛みが分かるから、その 分だけ人間が深くなると思うんだ。

 まあ、できれば、あんまりそんな目に遭いたくないけどね。

 ほんと、そういうの見てたら、腹が立つわ」


「だから、かばったのね。それに、わたしと友だちでいてくれる」

 麻子はニッコリ微笑んだ。

「まあね。でも、正直なこというとね、わたしも麻子のこと、噂どうりの人なのかなって、思ったところがあったんだ。もっと、早く声をかけたら良かったね。麻子が苦しんでいたの知っていたのに……」

「噂って、わたしが外見だけで、男子たちの気を引こうとしているというアレ……」

 麻子は、これまでそういわれるのが嫌だったのに、今は冗談ぽく第三者のことのようにいっていられるのが不思議でならなかった。


「何だ、知ってたんだ」

「そりゃね、桜小路さんに面と向かって言われたから……」

「へえ、綾乃って、やっぱりキツいね。でも、わたしも麻子を初めて見た時、ぶりっ子なのかなって思ったの。ごめんね。ずっと観ていたんだけど、1人になっても、毎日学校に来ているんだもん。外見どうりの人じゃないなって思ったの。芯は強いんだって」

「わたしって、そんなに嫌な感じなの?」

「まあ、わたしたちの偏見よ。つまり、焼きもちね。でも、少女小説にもあったけど、容姿がいいって理由だけで、いじめられるものなのよ。何だか理不尽よね」


 麻子は、はるかはいい人だなと思った。ほとんどの人は、自分が焼きもちやいただなんていわないものだから。


 真司もいってたけど、桜小路さんが、わたしを嫌う理由って、それだけなのかな? それなら酷すぎる。


 と、麻子は思ったが、綾乃をいじめに駆り立てるものを知りたかった。


「どうして、桜小路さんって人をいじめるのかしら?」

「不幸だからじゃない。詳しいことは解らないけど、綾乃は、希望していた清蘭女子学院の入試に落ちたのよ」

 清蘭女子学院とは、シーサイドタウンの有名な私立のお嬢様学校だ。中高一貫教育で、有名大学の合格者が多くて、偏差値もかなり高い。


「受験勉強していた時もカリカリしてたからね。わたしは、そのストレスかなって思ったのよ。でも、そんなので、人に当たり散らすなんてどうかと思うわ。いい迷惑よ」

 麻子には、少し意外だった。綾乃には、何でもそろっているように思えた。はるかは続けた。


「綾乃は強いわ。だから、みんな怖くて逆らわない。でも、何かがゆがんでいるのよ。綾乃はわたしのことも良く思ってないわ。綾乃の狙いはわたしたちのどちらかを1人にすることよ。わたし、綾乃たちと一緒にいじめなんてやりたくない。麻子もそうでしょ?」

「だから、友だちでいようね、麻子。嫌がらせされても、2人なら、平気でしょう?」


「うん、とっても、心強いわ」

 麻子は心底嬉しかった。ここまでいうはるかなら、途中で裏切ったりしないだろう。


「麻子に話せて良かったわ。麻子なら、きっとそういうと思ったの。明日からがんばろうね」

読んでいただき、ありがとうございます。


今回はいじめのことがメインなので、暗くなった方もいるかも知れないですが。


まだまだ、楽しい中学生活はこれからです。



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