side story ドキドキサマーデート 5
3時を過ぎて、風が出てきたので、麻子はリョウを連れて、桜広場に向かった。元気でキカン坊のリョウでは、家の中だけでは狭すぎたからだ。
リョウは目を皿のようにして道を眺め、棒きれを見つけて、放り投げて、
「あさねえちゃん、こっち!」
と、麻子の手をしっかりと握りしめて、棒の先が向いている方に歩き出した。そして、また、棒きれを拾って、放り投げた。棒の先が逆を示すと、リョウはまた、麻子の手を引っ張って、引き返した。
麻子は、こういうリョウの遊びなんだと快くつき合った。
真司のことが気になったが、その事を考えていると、リョウが落ち着かなくなるので、できるだけ考えないようにした。
「着いたよ」
乗用車の男性が、真司に声をかけた。真司は丁寧にお礼をいって、麻子の家に向かおうとしたが、桜広場を見たら、オレンジ色のスカートをはいて、両肩に短い三つ編みを垂らした麻子が知らない幼い男の子と遊んでいる。
真司の今までの麻子への心配を思うと、
(何でだよ!)
と文句をいいたくなったが、麻子が元気なことに安心し、心が和むと、麻子にも行けなかった理由があったんだと思えるようになった。
真司は、麻子に気づかれないように、背後から近づいた。心配させた罰に、脅かしてやろうと、知らない男の子との遊びに夢中になっている麻子の両眼を、背後からそっと抑えた。
「誰?」
麻子の身体が堅くなった。真司にも分かるくらいだった。
「いわれた通りにしろ!」
真司は声音を変えて、後ろからぼそっといった。
「真司ね!」
と、麻子はすぐに気がつき、真司の手を振りほどいて、真司に向かって、満面の笑みを浮かべた。
真司の大好きな笑顔で、2人が温かい雰囲気に浸っていると、リョウが隙間から割り込んできて、真司をおもいっきりにらんだ。
「ぼくのあさねえちゃんだぞ!」
と、幼いなりににらみを利かした。
麻子と真司は、どうしよう?と、目で会話していると、
「麻子ちゃん!、リョウ!」
と、遠野のおばさんの声がした。
リョウは麻子から離れて、恋しそうに、遠のおばさんのところへかけ出した。
「今まで、リョウと遊んでくれてありがとう。麻子ちゃんにも用事があったのに」
遠野のおばさんはリョウの手を引くと、夕飯のしたくがあるのか、そそくさと帰って行った。
真司は、救世主の遠野のおばさんをありがたく見送った。
無事に事は収まったのに、麻子と2人になると、真司は急に疲れが出てきた。春や秋などの快い季節では走っても疲れない距離でも、猛暑の中を5、6Km走ったから、海水浴をした後のような気だるさがおそってきた。
「あのベンチに座ろう」
真司は麻子を促した。出会えて嬉しいはずなのに、ベンチに座ると2人は、しばらく、無口になった。
真司は映画館での出来事を、麻子はリョウに振り回されたことを思い出していた。
太陽の光が、白からオレンジ色にうっすらと色づきかけた時に、真司がいった。
「俺たちのデート、冴えてなかったな」
「そうね。でも、いろいろあったけど、最後はこうして会えたんだし。神様に見捨てられていた訳じゃなかったわ」
「神様か。そこまで大袈裟に考えなくてもいいけど。これからだってまた何回でも……」
「でも、こうして会えたんだから、せめて、この空が天然プラネタリウムだったら良かったのに」
麻子は残念そうに空を見上げた。
「麻子は知らないのか~?、昼間でも、星の光は届いてるんだぞ。太陽の光で分からないだけで」
「あら、真司って、ロマンチックなことをいうのね」
真司は、「初デートだからな」って、心の中でつぶやいたが、口にはしなかった。
真司は、急に眠さが襲ってきた。
「ちょっと、いいか?」
真司はいうなり、麻子の肩に頭をもたせかけた。そのまま眠りの森へ……。
麻子は、まだ真司から何も聞いていなかったが、真司の寝顔を見て、わたしを心配してくれていたんだと思うと、胸がいっぱいになった。そして、何時間でも、真司に肩を貸してあげようと思った。
夕日が西から差してきて、麻子と真司の影も、桜の木とともに、長く東に伸びていった。
ー完ー
読んでいただき、ありがとうございます。
「ドキドキサマーデート」、如何でしたか?
真司と麻子の(デートらしい)初デートですが、中々会えなかったですね。人生には、こういうこともあるので、スムーズにデートできる方たちは幸せですよ。
さて、麻子と真司の物語長編、短編、ショートショートの投稿は、これで、ひとまず終わりです。
関連作品を記しておきます。時系列で。
①「シャーロック・ホームズ未来からの依頼人ー麻子と真司の時空旅行ー」長編 投稿済み
②「青いガーネット」クリスマス短編 投稿済み
③「悪魔の足」バレンタイン短編 投稿済み
④「青いガーネットの奇跡」長編 投稿済み
⑤「ドキドキサマーデート」短編 投稿済み
⑥「麻子と真司の物語」ショートショート集
不定期投稿 連載中
こちらの作品もよろしくお願いいたします。




