2 意外な仲間 2
二年B組の教室に入ると、麻子は異様な視線を感じた。女子たちが、麻子の方をじろじろ見ながら、耳打ちしている。漏れた声が聞こえてきた。
「あの子なの、二宮麻子って」
「ええ、そうよ。かわいいだけが取り柄のね。勉強も運動も他はてんでダメなのよ」
綾乃の声がした。
早速、桜小路さんがやってるわ。でも、桜小路さんのいっていることは本当のことだけど、何もみんなに触れ回ることないじゃない。わたしだって、努力はしているのに。でも、できないものはできないのよ。
麻子は、綾乃たちの顔を見るのも嫌だったので、うつむいて、はるかの後をとぼとぼと歩いた。
「二宮さん、気にしない、気にしない」
「えっ?」
麻子ははるかを見た。はるかは、綾乃がいう麻子の陰口を真に受けていないようだ。麻子は不思議に思った。
去年は、初め、少し仲良くなりかけていた女の子がいたが、その子は、綾乃からの陰口を聞いて、麻子から離れてしまった。麻子は、はるかに訊ねた。
「江波さん、どうして、わたしと一緒にいてくれるの?」
「だって、友だちじゃない。それより、わたしたち、隣同士に座ろう」
ついさっき、知り合ったばかりなのに、江波さんは、もうわたしのことを友だちだといっている。どうして?
はるかは、麻子の手を引っ張り、窓際の前から二番目の席に着いた。
「本当は後ろの席に着きたかったんだけど、みんなが狙っている席だし、必要以上ににらまれるのも良くないでしょ」
「わたしのために気を遣ってくれているの?」
「二宮さんだけのためじゃないわ。自分のためでもあるの」
麻子は、はるかの行為が嬉しかったが、訳の分からない罪悪感が出てきた。
「わたしと一緒にいたら、江波さんまで、みんなから、変な目で見られるかも知れないわよ」
「何いってるのよ、麻子。そんなの百も承知よ。あら、わたし、今、二宮さんのことを呼びつけにしちゃったね。これからも、麻子って呼んでいい?」
「いいけど……」
「わたしのことも、はるかって呼んでいいから……」
「えっ、ええ」
麻子は、はるかがどうして、友だちでいてくれるのか謎だった。
ここで、担任の上田先生が、男子生徒を連れて入ってきた。
「きゃ、ピカリンだ! あれ、転校生?」
はるかが、麻子に小声でいった。上田先生は、社会科の50歳くらいの先生で、頭がハゲていて、日光や蛍光灯が頭に反射して、ピカピカ光るので、そういうあだ名がついた。授業がおもしろいので、みんなは親しみを込めて、そう呼んでいる。だから、本人も気にしていないようだ。
みんなが席に着いた。麻子は、教室を見渡したが、真司の姿が見当たらなかった。
「え~っ、HRを始める」
上田先生が出席簿を持つといった。
ガラガラ…… その時、前の戸が開いた。
「セーフ!」
真司が大声で叫んだ。
「こら、仁川、何がセーフだ。わしが目に入らんのか? 遅刻だぞ、遅刻!」
「あれっ、ピ、いや、上田先生、来てたんですか? 俺、時計塔で時間見てきたから、てっきり、セーフだと思って……」
「残念だったな。あの時計は、5分遅れているんだよ。春休みに入って、狂ったようだ」
「直さないんですか?」
「近々直すだろう。そんなことより、仁川、いくら成績が良くったって、新学期早々、遅刻するなんて、内申点に響くぞ」
「えっ、マジ?」
みんなが、一斉に笑った。ここ数年、麻子が受けたことがない……。真司の周囲には、いつも温かい風が吹いているようだ。
「ハハハ、冗談だが、遅刻は良くないぞ」
真司が、廊下側の後ろから二番目の席に着く時、麻子の方を見て、目くばせした。麻子もニッコリ微笑んだが、ゾクッとするような視線を感じた。綾乃たちの視線だ。
その様子に気づいたのか、はるかが、麻子にそっと耳打ちする。
「負けちゃダメよ、綾乃たちに……」
はるかは、わたしの人間関係を全部知っているのかな? クラスは違っていたのに……。わたしって、そんなに目を引くのかな。嫌だな……。




