12 孤独 2
そんな麻子を8つの目が虎視眈々と狙っていた。
綾乃と、麻子のことを良く思っていない、大川と堀部と林というクラスの男子たちだった。
翔に図星を指されて以来、綾乃はクラスの女子たちから浮きかけていた。クラスの女子たちは翔の一言で、綾乃をいじめるようなことはなかったが、女子たちの心が自分から離れていったことを、綾乃は感じ取っていた。
腹立たしくって、悔しくって、さみしい。でも、まだ、翔のことは好きだ。綾乃の心の風穴は広がるばかりだった。
そして、その感情は、麻子に向けられるのだった。
以前のように、クラスの女子たちを煽動して、麻子への怒りをぶつけられなくなった今では、綾乃の心の中にその不満が以前よりも増して、蓄積されるのだった。
綾乃は、それを発散させる機会を狙っていた。幸い、男子たちの中に、麻子のことを良く思っていない人がいた。その気配を察すると、綾乃は、大川たちに近づいて行った。
大川たちは、力はありそうだが、陰気で気弱そうに見える。しかし、その目は、気を許せないという光り方をしていた。
大川たちは、弱い人を巧みに見抜く能力があった。麻子は、パッと見には、明るく朗らかに見えるが、実は臆病なのではないかということを察していた。
本当は弱いくせに、明るいふりをしている。
麻子の明るい部分は、演技しているように見えて、綾乃ほどではないにしろ、どうにも気に入らないのだった。
綾乃は大川たちと意気投合し、すぐに仲良くなれた。大川たちは、今までは、女子たちが麻子に嫌がらせをしていたので、自分たちは何もしないで満足だったが、女子たちがそれをやめたので、つまらなくなって、何かやりたいと思っていた。
大川たちがこんな気持ちになるのは、週に4日は夜10時まで塾に通っている勉強疲れと、変わり者と呼ばれたくない、みんなの輪から少しでもはみ出さないようにしようとする人間関係によるストレスからくるものだった。
「あんなところで、二宮、何やってんだ? あいつが笑っているのもわざとらしくてムカつくけど……」
大川たちの目に、麻子はそう映る。
「あんなところを見ると、余計にムカつくんですよ」
「私たちでカツを入れてやりましょう!」
綾乃の目が鋭く光る。クラスの女子たちの心が彼女から離れて行って、綾乃はますます鋭い目つきになる。
「桜小路さん、リキ入ってる~」
堀部が震え上がるマネをする。
「で、何するんです?」
「あの体育倉庫の入口が開いているでしょう」
3人が体育倉庫に目をやると、扉が半開きになり、南京錠がぶら下がっていた。
「あそこに、二宮を閉じ込めましょう」
「でも、こんなに暑いのに、死んじゃいません?」
「何、あまいこといってるの。二宮がいつも演技していた罪をちゃんと謝らせるのよ。何時間も閉じ込めるんじゃないわ」
「なるほど……」
3人も同意する。綾乃は大川たち3人を集めて、その手順を話した。
魂が抜けたようになった麻子の前に大川たちが立ちはだかった。
「ちょっと、来い!」
座り込んでいた麻子を大川たちは、3人がかりで無理やり立たせ、あっという間に、麻子を体育倉庫に放り込んでしまった。
綾乃が南京錠をガチッとかける。
「出してよ、ここから出して~!」
我に返った麻子は自分がおかれた状況を理解し、ドンドンと鉄の扉をたたく。
体育倉庫の中は、扉を閉められただけで、急に熱気が押し寄せてきて、今使われていない、マットや跳び箱が入っていて、石灰置き場になっているので、強烈な臭いがした。
麻子は気分が悪くなったが、怒りも込み上げてきて叫んだ。
「どうして、こんなことするのー!?」
「演技ばかりしているオマエのことが気に入らないからさ。オマエは1人でいるのが似合っているよ~」
大川は、おもしろいことでもいうような口調でいった。
「勝手に決めないでよ」
「勝手に決めるなだと? 表面だけいい子にしているオマエなんか、誰ともつき合う資格なんてないんだよ。見ていてムカつくぜ」
大川たちは、綾乃と麻子とでは、しゃべり方までちがう。麻子はそんなタイプはあんまり好きではなかったが、思っていることを正直に口にしてみた。
「そんな、わたしだって……わたしだって、そういうところを直そうと思っているわ。いつでも、正直に自分の気持ちを伝えられたら、どんなにいいかって……。でも、わたしは、心の底で憎しみ合っているケンカは大嫌いなの。そんなことをしたくないから……。本音をいわないことで、みんなが気持ち良くいられる時だってあるでしょ」
「それがうそなんだよ。みんなをだましていることになるんだ」
「そうかも知れない。でも、仲良くなりたいと思って、自分を抑えることはそんなにいけないことなの? みんなだって、そんなに正直に生きているの?」
麻子は自分でも信じられないくらい強くなっていることに気づいた。大川たちは、麻子のいうことが少しでも分かったのか、
「僕たち、もういいです」
と、綾乃にいうと、逃げて行った。
「あんたが謝るまで、私は許さないから……」
綾乃は1人になっても、何かに取り憑かれたように、その場に遺った。
どうして、わたしが桜小路さんに謝らなければならないの……?
麻子はこんなことまでされて、そんな気にはなれなかった。しかし、暑さと強烈な臭いで、麻子は今にも倒れそうだった。




