12 孤独 1
7月に入ると急に気温が高くなり、晴れの日が何日も続いた。気温は毎日30℃を越えている。
期末テストを全科目終了した7月のある日、はるかはある決心を胸に、真司を体育館裏の桜の大木の下に呼び出した。
「江波、用事って何だ?」
真司が不審そうな顔をする。
仁川君って、女子で麻子だけを名前で呼ぶんだ……
はるかは、告白しようと決心して改めて、真司の気持ちに気づく。
でも、自分の気持ちだけは伝えて吹っ切るのよ。そして、麻子と仲直りしよう。
はるかが心の中でつぶやき、深呼吸する。
期末テストを終えた麻子は、真司もはるかも失って、再びひとりぼっちになって、しゃきんとしない自分にカツを入れようと、この桜の木下にやって来た。
麻子の目に、真司とはるかの姿が映る。
ズキン!
と、麻子の胸が痛む。そして、はるかの声がする。
「わたし、ずっと前から、仁川君のことが好きだったの……」
イヤ~! もうはるかとは友だちに戻れない。
麻子は一瞬そう思った。麻子ははるかの気持ちを察して、真司とはるかが仲良くなるように協力していたのに、いざ、その場に出くわすと、耐えられなくなって、はるかの言葉を最後まで聞かずに、走り出した。
入学式の時に、たくさんの花を咲かせ、大地にどっしりと根を下ろして、自分を元気づけてくれたこの桜の大木にカツを入れてもらうどころか、心が打ち砕かれてしまった。
はるかと真司は、麻子がいたことには少しも気づいていなかった。
「えっ?」
真司が大きな目で、はるかを見つめ返す。不意に告白されて、明らかに驚いている目だった。
「小学校の時の陸上競技会で、わたしが一番落ち込んでいる時に、仁川君、『江波ってすごいな』ってほめてくれたんだよ。覚えてる?」
「ごめん、悪いけど、覚えてないや」
「そう、やっばりね……」
はるかの瞳が一瞬くもる。
「そうだと思ってたんだ。でも、わたし、その言葉で随分救われたの。そのことを仁川君に伝えたくって……」
江波が俺のことを好きなのかなって何となく分かってたけど、困ったな、俺は麻子が……。麻子、だからなのか……あいつは、江波の気持ち、知っていたから、だから、それで……
真司は、はるかに告白されているのに、浮かんでくるのは、麻子のことばかりだった。我に返ると、はるかが少しさみしそうな笑顔で、真司を見つめていた。
「いや、そうか……。でも、ごめん。俺、他に好きな子がいるんだ」
「麻子でしょ?」
はるかはそう口にした途端、何かが吹っ切れたような気がした。
真司は、こっくりうなづいた。
麻子は炎天下を夢中で走り続けた。
気がつくと、グラウンドの外れの古い体育倉庫のそばまで来ていた。近くにできているトタンばりの屋根の短い蔭に入り、麻子は、ひざを組んで座り込む。
はるかに協力しようなんていい格好していたけど、心の中ではわたし、真司との関係に自信があったからなんだ。真司とは、ホームズさんやタイムマシンの秘密を共有していたし……わたしって、嫌な子! 真司とは決定的にケンカしてしまったし、はるかが告白するところを見て、心に余裕がなくなって、一瞬でもはるかを嫌いだと思った……
麻子は、自分の親切心が偽りのように思えた。心が通い合ったと思っていた真司とはるかを失って、自分の嫌なところも見えてきて、麻子の心はもうボロボロだった。




