11 すれちがう心 1
麻子は翔にああいわれたものの、すぐに真司に電話できなかった。学校で真司と顔を合わせても、前のように話しかけてこない。麻子には避けられているように思えた。
はるかとも仲直りできないし、その上、真司とまでこんなふうになるなんて……全部、自分の本当の気持ちをいわなかったバツね……。
夜、寝る前に、いつもそのことが麻子に浮かんできて、考え出すと涙が止まらなくなるのだった。
仲が良かった人と気まずくなる。こんな思い、もう2度としたくなかった。
せめて、真司とは、もう一度やり直したかった。1番さみしかった時に、自分を理解してくれた人だ。
真司なら、ちゃんと話したら分かってくれるはず。
と麻子は思うのだけれど、受話器を持っただけで、緊張しすぎて、頭の中が真っ白になって、言葉が思い浮かばなくなる。
電話番号だけ回して、真司の家の電話が、プルルルルル……と鳴る前に切ってしまう。
そんな日が1週間も続いた。
ああ、わたしって、どうしてこんなに臆病なんだろう……。
麻子はつくづく自分が情けなくなった。
一方、真司はあの日以来、
麻子が好きな人は鈴木なんだ。
と、すっかり誤解して、ムシャクシャした気分を引きずっていた。
冷静になって考えてみると、自分は麻子に本当の気持ちを伝えた訳でもないし、麻子は、東京で翔と一緒だったし、麻子がか翔を好きだったとしても、不思議ではないと思えるのだが、そんな考えすぐにどこかへ飛んで行ってしまい、イライラしたり、悲しくなったり、心の平静をちっとも保てない。
麻子の前では、もうこれ以上、感情を表に出さないようにするのが精一杯だった。
俺は、どうして、この感情だけは隠そうとするのだろう……?
真司は自分でもよく分からなかった。
とにかく、こんな感情に振り回されていたら、ホームズさんにちっとも近づけやしない。
ホームズさんといえば、どんな謎でも、ほとんど明快にするけど、あれだけ嫌がらせをしていた女子たちが、どうして、麻子たちに急にやさしくなったんだろう?
その謎はひょんなことから解けた。
7月も間近のある昼休み、その日は風がなく、明け方まで雨だったせいで、どこにいても蒸し暑かった。
公平が「暑い!」を連発するものだから、真司は、体育館裏の桜の大木に登ろうと誘った。そして、2人は木陰で快く過ごしていたのだが……。
そんな時、クラスの女子たちがこの桜の木の下に3人でやってきて、話し始めた。
「何か、最近の桜小路さんって鼻につくわね。自分が気に入らないっていうだけで、私たちを騙して、二宮さんや江波さんにあんな酷いことをさせて、その上、まだツンとしているなんて、信じられない」
「そうそう、そこなのよね。その神経が分からない。私たちに一言くらい謝ったっていいのにね」
「そうよ、そうよ」
「でも、あの時の鈴木君、何だかカッコ良かったわよね~。誰も悪者にならせやしないぞ!っていうあの見事な解決の仕方!」
「何か、ジーンときたね。鈴木君って、心が広いね~」
女子たちがうっとりした目でつぶやいている。
そうか、鈴木が……
真司は翔への自分の感情を一瞬忘れて感心したが、麻子の心の闇を取り除いてやることができなかった自分と比較して、何だか面白くなかった。
「でも、桜小路さんって、鈴木君がかばっていたけど、あんなことがあったから好きになれない」
女子たちがそこまで話すと、チャイムが鳴った。
「複雑な心境ってやつ……」
公平が、真司の心を見透かしたようにぼそっといった。
「うるせー」
真司の機嫌がますます悪くなった。
読んでいただき、ありがとうございます。
麻子が誤解を解くために、真司に電話をかけようとしますが、この物語の時代は、携帯もスマホも中学生に普及していません。
前作長編「シャーロック・ホームズ未来からの依頼人ー麻子と真司の時空旅行ー」では、真司がMDウォークマンを使っています。
そういう時代です。




