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青いガーネットの奇跡  作者: 村松希美


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9 わな 1

 6月になって、空がどんより曇り、雨の日が多くなった。麻子とはるかの心は、この6月の空のようにすっきりしなかった。


 はるかの気持ちを知って以来、麻子は、いつも真司とはるかをくっつけようとする。例えば、理科の実験班。


 化学変化で、酸化銀を銀と酸素に分けるという実験をした時。

「各班から、代表者を2名出しなさい。あとで君たちは代表者に従って、この実験をして、レポートを書いてもらう。それを代表者が責任を持ってまとめて、今日中に提出してもらう」

 と相楽(さがら)先生が、酸化銀の分解式を黒板に書きながらいった。


 公平が、

「真司と二宮さんが行けば」

 と、声をかけたが、麻子が即座にいう。

「わたし、こういうの苦手なの。わたしより、はるかの方がこういうの得意よ」

「俺は、どっちでもいいけど……」

 と、真司がぶっきらぼうに答える。


 麻子のヤツ、どうしたんだ……。こんな実験の1つや2つ、俺が何とかしてやるのに……。


 麻子に勧められてはるかは悪いと思ったが、真司のこんな顔を見ていると、はるかの勝ち気なところが出てきて、

「行こう、仁川君」

 と、はるかは思わず、真司と腕を組んでしまう。

 麻子の胸がチクンと痛んだが、

「ありがとう、麻子」

 と、はるかにいわれると、麻子はそれも嬉しかった。



「麻子、おまえは残るだろう?」

 放課後、真司は麻子に声をかけた。真司の隣には、はるかがいる。

「えっ?」

「おまえ、忘れてたのか? 理科の実験レポート……公平と鈴木は、部活があるから任せるっていって、とっとと行ってしまうし……何で俺がこんなことしなくちゃならないんだよ」

 真司が理科のノートを握りしめる。


「あっ、ごめんなさい。わたしも、ちょっと用事があって、早く帰らなければならないの。だから、悪いけど、はるかと2人でお願い」

 麻子は、2人に手を合わせると、カバンを持って、慌てて教室から飛び出した。麻子は、はるかに協力するために、うそを吐いたのだった。でも、何だか心が痛い。


 「ちぇっ、何だ、あいつ……」

 真司が、麻子の席に腰をおろす。

「江波、こんなレポート、早く片づけてしまおうぜ」

 教室には、真司とはるか2人っきりだ。


 麻子……


 はるかもまた嬉しい反面、心が痛かった。      

 麻子とはるか、2人の心は、とにかく複雑ですっきりしないのだった。



 そんな2人の心を敏感に読み取っていたのは、綾乃だった。

 綾乃は、はるかはともかく、麻子を目の敵にしていたので、2人の友情の隙を敏感に感じ取っていた。


 綾乃は、最近の麻子に特にイライラしていた。どんなに嫌がらせをしても、2人一緒だと、麻子はいつも笑ってビクともしない。それが許せなかった。


 それに1番許せなかったことは、翔が麻子にやさしくすることだった。綾乃は翔に一目惚れした。


 この世にあんなカッコイイ子がいるなんて。


 綾乃が翔と出会って、最初に感じたことだった。それからずっと翔を見ているが、翔は顔だけでなく、勉強もスポーツもよくできる。おまけに綾乃好みの大人っぽい雰囲気も持ち合わせている。


 翔の大人っぽい雰囲気は、つらい思い出からにじみ出るものだったが、中学生の綾乃には、まだ、そこまで見抜くことができなかった。


 翔はとにかくカッコイイ。翔のことを考えている時だけが、綾乃は幸せだった。綾乃はますます翔を好きになり、その一方で、ますます麻子を許せなくなるのだった。


「ねえ、最近の二宮の様子、何か変じゃない?」

 利香が、窓際に腰をかけ、麻子の様子をうかがっている。


 真司が麻子とはるかのところに来ると、

「あっ、わたし、図書室に本を返すの忘れてた……」

 といって、麻子は、すぐにその場を離れた。


「本なんて、放課後でも返せるのに……二宮、去年のクリスマスイブに、仁川君に帽子をプレゼントしようとしていたよね(クリスマス短編「青いガーネット」参照)。あれ、手編みだった。でも、どうして?……それって、好きってことでしょ? なのに、どうして、あんなことするの? まさか、二宮、仁川君と江波をくっつけようとしているのかな……」


 綾乃の目が光った。

「二宮ってさ、みんなにいい顔しようとするよね」

「何か、ムカつく」

 麻子とはるか、2人の間の事情もよく知らないのに、利香が綾乃に乗せられていった。


「これは、二宮を1人にするいいチャンスよ」

 綾乃はヒソヒソ声で、利香に耳打ちする。

「おもしろそう。さっそく、みんなにも協力してもらいましょ」


 利香が、はるかの方をチラッとにらんだ。



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