7 保育園にて 6
真司は格闘ごっこをやっているゴウたちに「怪獣になって」と呼ばれたが、絵本を読んでいた男の子が、
「しんじせんせい、なんか、『名探偵ドイル』の工藤はじめににてる。だから、かいじゅうなんかじゃないよ!」
と、叫んだ。真司は自分でそう思ったことなんかない。
「なんだとー、マサキ、よわっちいのに、オレにもんくつけんのかー!」
ゴウがマサキににらみを利かす。
「ゴウ、マサキのいうとうりだよ。工藤はじめににているよ……かいじゅうじゃないな」
5、6人の男の子が声をそろえていう。ゴウが渋々引き下がる。
「ねえ、しんじせんせい、すいりのやりかた、おしえて」
マサキがせがみにきた。
「オレも」
「ボクもおしえて」
『名探偵ドイル』の好きな男の子たちが数人寄ってきた。ゴウも興味があるのか、その中に入った。
最近の園児って、こんなことに興味を示すのか……?
真司は信じられないと思い、訊いてみた。
「おまえら、ドイル君、好きか?」
「うん、大好き! バスケットボール1つで、はんにん、やっつけたりしてさ~、カッコイイもん」
何だ、アクションの方か。
「ぼくはちがうよ。すいり、すいり」
マサキがいう。
このガキ、変わってる。俺がコイツくらいの時は、そんなこと考えもしなかったぞ。
「推理のどこがおもしろいんだ?」
「だって、まほうみたいだもん!」
マサキが無邪気に答える。
へえ、魔法か……
真司は、マサキの発想に感心させられた。
「じゃあ、やってみるよ。いいか、よーく聞いてろよ」
真司は、周囲を見渡す。ゴウに目が止まった。
「ゴウは、今朝、目玉焼きに、しょうゆをかけて食べたな」
「え~、どうして、わかったんた~?」
ゴウが目を白黒させる。
「どうして!」
「どうして!」
男の子たちが一斉に声を上げる。
「ゴウの白いトレーナーの襟元に、半熟卵の白身の焦げたのと、黄色いシミに混じって、しょうゆのシミがあるからさ」
真司は少し気分が良くなって、声が弾んだ。ゴウが慌てて、トレーナーを見た。
「ホントだ! しんじせんせい、すげー!」
「つぎはオレ」
「「ボクは、ボク!」」
男の子たちは、真司に自分のことを当ててもらおうと、真司の腕や足に巻きつく。真司はやれやれと思ったが、何だか楽しかった。
早く、本物の事件で、推理を的中させたいな……。
来栖先生が真司の姿を見て、はるかに話しかける。
「おもしろい子ね。仁川君って。子どもたちに推理を教えるなんて」
「推理ですか?」
はるかはきょとんとする。
そういえば、麻子、仁川君はホームズが好きだっていってたっけ。
はるかの耳に真司の声が入ってくる。
この声……。
真司は、園児たちに、工藤はじめが、悪の組織デビルギャングに妖術で、小学生にされた金田一ドイルの声で推理をしてと、難しい要求をされていた。真司は裏声で、ドイルを真似て、園児たちのことを当てて行く。
この声、間違いない!
江波って、すごいな、ちびなのにさ……
あの時の少年の声に間違いない! じゃあ、仁川君があの時の……
はるかは、嬉しいやら、いけないような、いろいろな思いが同時に混じり合って、ボーッとなった。
「どうしたの?、はるかせんせい。おみせに、おきゃくさんが、きてるよ……」
園児たちの声が、遠くの方で、はるかの頭に響いた。