7 保育園にて 3
待ち合わせをしたシーサイド保育園の隣の児童公園に真司と麻子が着くと、その街に住んでいるはるかと翔がすでに来ていた。真司は翔の顔を見るなり、また、胸がザワついた。
俺って、こんなに感情的だった? それに鈴木が悪い訳でもないのに、俺の気持ちは、どうして、こんなにユラユラ揺れるんだ?
翔が挑戦するような目で、ニヤッと真司の方を見ている。
また、アイツ、あんな目で俺を見ている。やっぱり、嫌なヤツだ。
「仁川君、ちゃんと時間どうりに来たのね。良かった」
「何だよ、江波まで……」
真司がふくれっ面になる。その顔を見たはるかは、一瞬、ドキッとする。
かわいい! やだ、わたしったら、何考えてんの……。
先生に言われたとうりに、4人で保育園の事務室に行くと、園長先生に、2階の園舎に連れて行かれた。
「君たちは、2人一組になって、3歳児と5歳児のどちらかを見てもらうわね。ペアは、君たちで話し合って決め……」
と、園長先生が言いかけると、
「ママ~」
と、大きな声で、3歳児くらいの女の子が、麻子にいきなり飛びついてきた。女の子は、肩くらいまでの髪をうさぎのように上の方で2つにくくり、ピンク色のキティちゃんのトレーナーにズボンをはいている。
「キテちゃんみて~! かわいいでしょ、ママ」
女の子は、麻子のジャージを引っ張って、同意を求める。
「うん、かわいい」
麻子はいきなり「ママ」と呼ばれて少し驚いたが、リョウに接するように、女の子と視線が合うようにかがんでやさしくいった。
安心した女の子は麻子から離れると、今度は、翔のジャージを引っ張って、
「パパもレナのキテちゃん、かわいい?」
と、訊いた。
「うん」
翔も少し照れながら、麻子がしたように女の子と視線が合うようにかがんで、やさしくいった。
その女の子は、麻子と翔にぴったり寄り添っている。
何だよ、このスリーショットは。
真司が心の中でぼやく。麻子と翔は、?マークの目でお互いを見る。
「レナちゃん、この子たちは、1週間、レナちゃんたちと遊んでくれる、港町中学校から来てくれた先生ですよ」
園長先生が少し悲しそうな表情で、レナに説明する。
「いや~、レナのパパとママ!」
レナが2人から離れない。
「仕方ないわね。二宮さんと鈴木君は、3歳児クラスに行ってもらえる? そして、江波さんと仁川君は、5歳児クラスに」
園長先生がジャージの刺繍の名字を見て言う。麻子と翔はレナに引っ張られて、3歳児クラスに行ってしまった。
「あの子、どうしていきなり、二宮さんと鈴木君のことをあんな風に呼んだのですか?」
はるかが園長先生に訊ねた。
「レナちゃんのご両親は、去年の暮れに、交通事故で亡くなってしまったの。今はレナちゃんのおばあさんが育てているんだけど、保育園で、気に入った人を見ると、自分のお父さんとお母さんにしてしまうのよ」
「かわいそう……」
はるかがつぶやく。真司もそう思ったが、気になることが他にあったので、そのことを口にした。
「でも、あんなにべったりで、俺たちがいなくなったらどうするんですか?」
「大丈夫。切り替えが早いから、あの子たちで10人目なの」
「えっ?」
「レナちゃんは、中学生や高校生が好きみたいなの。まあ、ご両親が若かったから仕方ないけど……」
「若いって、いくつくらいだったのですか?」
「お二人とも、二十歳よ」
「ええ! ということは、17歳くらいで産んだんだ」
真司とはるかは、悲鳴を上げた。
「それで、時々、園児たちの歳の離れたお兄さんやお姉さんが迎えに来ると、その子たちに片っ端からそう呼んでいるの。だから、自分の中で、分かっていっているんだと思うわ」
真司は、あんな小さい子どもがこんなに大きな傷を抱えているのに、さっきの麻子たちのスリーショットにぼやいた自分が恥ずかしくなった。
園長先生は、麻子たちをすみれ組の担任の宇野先生に紹介すると、真司たちをさくら組に連れて行った。
みんな3歳児と違ってしっかりした顔つきで、特に男の子はわんぱくぶりを発揮している。園長先生は、担任の来栖先生に引き継ぐと、事務室に戻った。