7 保育園にて 2
翌朝、真司は、麻子と同じバスになった。
「あれ、真司じゃないの。一緒のバスなんて珍しいわね。雨でも降るんじゃない?」
麻子がオーバーなリアクションで、窓から空をうかがう。
今年の初め頃から、麻子と真司は顔を会わすと、お互いにからかうようにこういう言葉で始まるが、麻子がこうなったのは、真司の影響だ。しかし、2人とも本気でケンカしているのではなく、言葉のキャッチボールを楽しんでいるという感じだった。今までは……。
今日の真司は何かが引っかかる。
「友だちよ、真司とは……」
この言葉のせいだった。
麻子にとって、俺はただの友だちなのか? だから、こんなこといえるのか?
真司は、怒った顔になっていることに気づかない。
真司、どうして、そんな顔するの? 今の、冗談が過ぎたかしら? あのことは聞かれていないようだし……。でも、最近、何だか変。前みたいに、あんまり話しかけてこないし……そしたら、なぜ……?
「あぶれ者同士がくっついてる」
いつか、綾乃にいわれた嫌みが、不意に麻子の頭に浮かんだ。
わたしたち、クラスのあぶれ者だから、真司だって、みんなの目が気になるのかな? ううん、真司はそんな人じゃない。とにかく、謝ろう。
「ごめん、気に障った?」
麻子は、今度は心配して、真司の顔を覗き込む。
真司の胸がドキッと鳴った。こんな表情されると弱い。
「あっ、あの、わたし……」
さっきの元気はどこに行ったのか、麻子が小声で何かいいかけるが、
「俺が早いとおかしいか? 今日は、シーサイド保育園に行く日だろう。俺だってやるときはやるんだ。」
真司が元気を装おっていった。
「良かった。いつもの真司だ」
麻子は、そんな真司を察することなく、安心する。そして、最近読んだホームズのパスティーシュの話を始めた。
真司もそうだが、麻子もホームズに関する話をする時は、瞳がキラキラ輝いている。この笑顔を見ていると、真司のさっきまでのモヤモヤが収まってきて、幸せな気分になってくる。
麻子が俺のことをどう思っていようと、やっぱり、俺、麻子が好きなんだ。
真司は改めてそう思った。