6 異変 2
麻子って、仁川君が好きだってリアクション、あれだけにしているのに、自分の気持ちに気づいていないのかな……?
体育の時間が終わり、女子の今日の片づけ当番のはるかは、体育館の隅の方に散らばっているバスケットボールを拾い集めながら、麻子の方をじっと見る。麻子も同じ当番だ。
何か元気ないな。わたしたち、悪いこと訊いたかな……。でも、ちょっとうらやましいな。
「はるか、このボールかご、倉庫にしまいましょ。次の時間に遅れるわよ」
いつの間にか、麻子は、バスケットボールを全部集めて、体育館の中央に置いているボールかごまで来ていた。
「今行く~」
はるかは残りのバスケットボールを抱えて、慌ててボールかごに投げ入れた。
「痛っ!」
麻子が指をさすっている。
「あっ、ごめん。大丈夫?」
「う、うん。でも、ちょっと痛むから、先に保健室に行ってもいいかな?」
「うん。ごめんね。後は倉庫にしまうだけだから、わたしがやっておくわよ」
「頼むわね」
麻子は、体育館を出て行った。
あ~あ、わたしの前にもあの男の子が現れたらいいのに……。
と、思いながら、はるかはうわの空で、倉庫に、直径1m、高さ1.3mの円筒形のボールかごを押し入れた。
「イテ!」
かん高い男の子の声。
この声、どこかで聞いたことがある。でも、どこで……。
中から、真司が右足を押さえながら出てきた。
「江波、気をつけろよ。いきなりだから、びっくりしたぜ」
少しガラガラした低い声。
男子って、声変わりしても、悲鳴を上げると、あんな高い声が出るんだ。
「ごめん、仁川君」
「まあ、いいけど。なあ、麻子のヤツ知らねえか?」
「麻子なら、さっき、わたしがつき指させてしまったから、保健室に行ったわよ」
「そうか、ありがとよ」
真司は、体育館を駆け足で出て行った。
江波って、すごいな……
まさか、まさかね……
「と、友だちよ、真司とは……」
真司の頭の中で、さっきから、この言葉がぐるぐる回っている。
真司には、麻子のこの言葉がはっきりと聞こえていた。真司は、制服に着替えないで、保健室の前で、ぼーっと立っていた。
俺って、何やってんだ?
我に返った真司は、更衣室に戻ろうとした。
「あっ、真司、待って!」
ふり返ると、麻子が、右の人差し指に包帯を巻いて立っていた。
「あっ、あの、さっき……」
「あっ、俺の逆転シュート、すごかっただろう?」
真司は麻子と話しをする時は、いつも真っ直ぐ目を見て話すが、今はなぜだか、視線を合わせられなかった。
「次の授業、ピカリンだぜ。麻子も急げよ……」
真司は、そのまま駆けて行った。真司の態度はいつもと変わらないが、麻子は、取り返しのつかないことをいってしまったような気がした。
その様子を、階段の陰に隠れて、翔がじっと見ていた。