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先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~  作者: 熊八
第六章 初代様

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第99話 バカンス

 大衆(たいしゅう)浴場(よくじょう)の開業から二か月ほどが経過した元日(がんじつ)

 例年と同様に一族全員で食堂に集合していて、豪華(ごうか)な昼食を楽しんでいた。

 その時、領主であり一族の長でもあるエストが、(となり)に座る私にある意外な提案を始めた。

「おじい様、長期(ちょうき)休暇(きゅうか)取得(しゅとく)して、バカンスとしゃれこむ気はありませんか?」

 私は、突然(とつぜん)何を言っているのだろうと思ってしまい、少し首を(かし)げながら応じる。

長期(ちょうき)休暇(きゅうか)ですか? でしたら、毎年里帰りさせてもらっていますので、特に新しくは必要ないですよ?」

 そんな私の様子に対し、エストは軽く首を()って否定し、バカンスの内容を語り始めた。

「いえ……。そういうことではなくてですね。おじい様の郷土(きょうど)(あい)は良く理解していますが、たまには、どこか他の場所に観光(かんこう)旅行(りょこう)をしてみてはいかがですか?」

観光(かんこう)旅行(りょこう)ですか?」

「ええ。おじい様は少し、働きすぎだと思うのですよ……」

 そのようなエストの発言に対し、ネリアが大きく(うなず)きを()り返しながらそれを肯定(こうてい)する。

「わたくしもそう思いますわ。工房長のお仕事に領主業務のお手伝い、高等学校の先生。(ひか)えめに申し上げましても働きすぎですよ」

 さらに次は、メイも(うなず)きながら働きすぎだと主張する。

「それに加えて、最近では、大衆(たいしゅう)浴場(よくじょう)の建設を主導したり、お風呂(ふろ)専門の工房を作ったりもしていますわ」

 家族たちはみんな(うなず)いてくれている。

指折(ゆびお)(かぞ)えてみれば、確かに少し働きすぎだったかもしれませんね)

 私もその主張に納得(なっとく)したので、エストの提案(ていあん)素直(すなお)に受け取ることにする。

「分かりました。ただ、二週間後にはネリアの結婚式もありますし、工房長や校長の仕事の引継(ひきつ)ぎも必要になってきます。ですから、行先(いきさき)などはこれからゆっくりと決めていきますね」

 私がそのように応じると、エストは一つだけ注文を加えてきた。

「ええ。それで(かま)いません。ですが、できれば、これまでに行ったことのない(めずら)しい場所にしてもらいたいですね」

「それはなぜですか?」

 エストはクスリと笑ってから、その答えを教えてくれる。

「もちろん、おじい様の土産話(みやげばなし)を楽しみにしているからですよ?」

 食堂に、家族全員の優しい笑いが巻き起こった。

 それから、二週間後にネリアの結婚式を無事に()ませ、それからさらに二か月ほどをかけて工房長や校長の仕事の引継(ひきつ)ぎも行った。

 ヒデオ工房では、自他ともに認める一番(ばん)弟子(でし)になっていたワントを副工房長に任命していて、工房の運営のほとんどを(まか)せることになった。

 私はそのまま工房長の席も(ゆず)ってしまって、技術(ぎじゅつ)開発(かいはつ)顧問(こもん)としてのみ運営にかかわろうとしていたのだが、ワント本人を(ふく)弟子(でし)たちの猛反発(もうはんぱつ)にあってしまい、断念(だんねん)せざるを得なかった。

「お願いします、初代様! どうか、我々を見捨(みす)てないでください!!」

 必死な顔をしてそのようにお願いされてしまっては、無理に工房長を引退するわけにもいかなかったのだ。

 だが、高等学校の校長先生の席は後進に(ゆず)ることができた。元々、私の校長(こうちょう)就任(しゅうにん)()にこれは一時的な措置(そち)であると説明していたため、特に反対されることもなかった。

 ただ、特別(とくべつ)臨時(りんじ)講師(こうし)という名誉(めいよ)(しょく)は、辞退(じたい)することができなかった。

「これからも年に一度ほどは、特別授業をお願いしますね」

 そのように、にこやかな笑顔(えがお)()かべた先生たちに押し切られてしまったからだ。

 そうやって、いろいろと仕事の引継(ひきつ)ぎ作業を行った後に、自室でゆっくりと観光(かんこう)旅行(りょこう)行先(いきさき)を考えていた。

「これまでに行ったことのない場所、というのが、ちょっと難しいですね……」

 愛用の本棚(ほんだな)から王国の地図を引っ張り出してきて、各地の町の名前を(なが)めながら考えを(めぐ)らせていた。

 元々旅がしてみたかった私は、傭兵時代に商人の護衛(ごえい)依頼(いらい)積極的(せっきょくてき)に受けていた。そのため、たいていの場所には行ったことがあったのだ。

(めずら)しい場所となると、やはり、南側ですかね。こことは少し風土(ふうど)(ちが)いますし……」

 そのように(つぶや)きながら南側の地図を見ていると、ある一つの島に目が()まった。

「そうだ。何も王国に限らなくてもいいじゃないですか」

 そうやって決まった観光先(かんこうさき)を報告するため、私はエストの執務室(しつむしつ)(たず)ねた。

「島アルクの里の島ですか?」

 エストは、少し意外なその場所に(おどろ)いていたが、すぐに納得(なっとく)してくれたようだ。

結局(けっきょく)、アルク族の里に行ってしまうなんて、おじい様らしいですね。でも、そこが一番(いちばん)(こころ)(やす)らぐ場所なのだろうとも理解できます。それに、確かに(めずら)しい場所でもありますね。どんな生活をしているのかなんて、誰にも聞いたことがありませんから」

 そして、ウンウンと(うなず)いてから許可を出してくれる。

「アルク族のみなさんはとても(おだ)やかで(こころ)(やさ)しいので、危険もないでしょう。ですから、もちろん許可します。土産話(みやげばなし)を待っていますので、のんびりと長期(ちょうき)休暇(きゅうか)を楽しんできてくださいね」

 そうやって諸々(もろもろ)の準備を(ととの)えた私は、二月が終わりを迎える(ころ)、王国南西部にある島に向けて出発したのだった。

 そこに運命的な出会いが待っているとは、(つゆ)ほども知らずに。


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