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先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~  作者: 熊八
第六章 初代様

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第97話 合同お祝い会

 あれから(またた)く間に二週間の時が過ぎ去り、いよいよ合同お祝い会の日になった。

 会場となっている領主館の外では(すで)に祝い酒がふるまわれており、その喧騒(けんそう)がこの(やかた)の中にまで聞こえている。

 最初は身内でのお祝いということで、私の工房の弟子(でし)たちや高等学校の先生たちからのお祝いの言葉をいただく。

 ちなみに、私が断固(だんこ)として辞退(じたい)していたため、お祝いの品は誰も持ってきていない。私のお願いを(こころよ)く聞き入れていただいたお礼のためにも、一人ずつ丁寧(ていねい)祝辞(しゅくじ)をきちんと受け取る。

 もう一人の主役であるネリアの方にもお祝いを述べる列ができているが、挨拶(あいさつ)の終わった官僚(かんりょう)たちの中には、ヤケ酒としか思えないような自暴(じぼう)自棄(じき)な飲み方をしているものがかなりの人数で見えている。

 その様子(ようす)が少し不思議(ふしぎ)に見えた私は、ネリアの父親であるエストにその理由を(たず)ねてみる。

「エスト、なぜ彼らはあんなに無茶(むちゃ)な飲み方をしているのですか?」

 私の視線(しせん)の先を追いかけたエストは、少し笑い顔になりながらその真相(しんそう)を語ってくれる。

「ああ、あれですか……。失恋(しつれん)のためですので、今日だけは、大目(おおめ)に見てあげてください」

 私はその返答が少し意外に聞こえてしまい、首を(かし)げながら聞き返してしまう。

「え? ネリアはモテるとは聞いていましたが、今まで浮いた話が一つもありませんでしたよね? それなのに、あんな人数が同時に失恋(しつれん)してしまっているのですか?」

 私がそのように疑問を述べると、エストは我慢(がまん)できなくなったのか、口に手を当ててクスクスと笑い出しながらさらに真相(しんそう)を語ってくれる。

「私もほんの数日前に部下から愚痴(ぐち)として聞かされただけなのですが、ネリアはどんな身分のものに対してもとても奥ゆかしい態度(たいど)をとるでしょう?」

 その指摘(してき)に対し、私は(うなず)きを返しながら同意する。

「そうですね」

「ですので、ネリアは、あれこそが理想の姫様だとか、あれこそが理想の(よめ)だとか言われていたようで、(ひそ)かに(ねら)っていたものが多かったのだとか」

 私はなんだか余計(よけい)(なぞ)が深まったように感じてしまい、首を(かし)げながら質問を続ける。

「しかし、それであるならば、今までに誰か一人ぐらいとはお付き合いをしていたはずだと思うのですが……」

「なんでも、理想的な女性すぎたようで、直接交際を申し込むのを遠慮(えんりょ)してしまって、お互いに牽制(けんせい)しあっていたそうですよ?」

 ここまで丁寧(ていねい)に説明してもらって、私はようやく納得(なっとく)できた。

「なるほど……。高嶺(たかね)の花すぎて交際を申し込むのを躊躇(ちゅうちょ)してしまっている間に、一番の堅物(かたぶつ)だと思われてノーマークだったレオンさんに、さっさとかっさらわれてしまっていた、というわけですか」

 私が無意識(むいしき)に使ってしまっていた異世界独自の表現を聞いたエストは、そのことについて質問してきた。

「おじい様、高嶺(たかね)の花とはどういう意味になるのですか?」

 私は咄嗟(とっさ)に頭の中で言い(わけ)を考え、さも当然のことであるような表情を取り(つくろ)いながら説明する。

「あまりにも素敵(すてき)すぎて、(あこが)れてしまうだけで自分とは程遠(ほどとお)いと思ってしまう女性のことを、私の故郷ではそのように表現するのですよ」

「それはとても素敵(すてき)な表現ですね」

 お祝い会は順調に進んでいき、内輪(うちわ)でのお祝いが終了したため、領民たちにも感謝の気持ちを伝えようと外に出て顔を見せることにした。

 (とびら)を開けた私の姿を見かけた領民たちは、我先にと私に向かってお祝いの言葉を述べてくれる。

 しかし、それがだんだんと加熱していってしまい、やがて私が領民に取り囲まれそうになってしまった時点で、警備(けいび)を担当していた傭兵さんの一人が大声で怒鳴(どな)った。

「みんな落ち着け! これでは初代様が怪我(けが)をされてしまう! 本当に初代様をお祝いしたいのであれば、全員、二ベク以内には近づくな!!」

 その声を聞いた領民たちはさっと私の周囲から少し距離を取り始め、だんだんと進行方向の道沿(みちぞ)いの人込(ひとご)みが割れていく。

 私の体をこんなにたくさんの人たちが気遣(きづか)ってくれているその様子(ようす)が、とてもありがたいものに感じられて、感謝の気持ちが()み上げてくる。

 その時、少し不思議(ふしぎ)に思ってしまったことが、ふと私の口から(こぼ)れ落ちた。

「私は、これほどまでに領民たちに(した)われるほどのことを、本当にやって来たのでしょうか……」

 その(つぶや)きを聞いた周囲の警備(けいび)担当(たんとう)の傭兵さんたちが、(うなず)きながら笑顔(えがお)で口々に説明してくれる。

「もちろんですぜ」

「ああ。この町が発展(はってん)しているのも、好景気(こうけいき)がずっと続いているのも、初代様のおかげだしな」

「そのおかげで、税率が低いままで()え置かれているってのも、加えてくださいや」

 それらを私の(となり)で聞いていたエストが、さらに説明を加えて肯定(こうてい)してくれる。

元日(がんじつ)にシゲルが言っていたでしょう? おじい様は、この領地と(たみ)の宝なのです」

 そんな話を聞いた私は、できる限りの感謝の気持ちを(あらわ)したいと思い、人込(ひとご)みが割れてできた道沿(みちぞ)いに進み、領民の一人一人にお礼を述べながら町を()り歩き続けた。


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