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先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~  作者: 熊八
第五章 ガインの町

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第68話 エストのお嫁さん

 十八歳になったエストは、今、領主の執務室(しつむしつ)に全員集合した家族の前で、家長のエルクに向けて自分の恋人を紹介している。

「お父様、紹介します。こちらが私の恋人のローズです」

 それを受けたローズさんは、かなり恐縮(きょうしゅく)した様子(ようす)で語り始めた。

「私はローズと(もう)します。しがない商人の娘なのですが、恐れ多くも、エスト様とお付き合いさせていただいております……」

 流暢(りゅうちょう)な敬語でローズさんは自己紹介をする。この村の教育レベルは高いため、いつぞやの傭兵さんのようにかんだりはしていない。

 ローズさんは、この王国でも(めずら)しい赤髪をショートヘアにした、少し活発(かっぱつ)そうな素敵(すてき)な女性だ。

 ただ、お貴族様の跡取(あとと)り息子の恋人という立場にとても(もう)(わけ)なさそうにしていて、最後は小声になりながら自己紹介をしていた。

「お兄様、私というものがありながら、いったい、いつの間に……」

 メイが絶句(ぜっく)している。

 理想の殿方(とのがた)育成計画があるため、ブラコンは治療(ちりょう)されたと思っていたのだが、どうやら不治(ふじ)(やまい)だったようだ。

 もう十三歳になるメイなのだが、まだ、これはという殿方(とのがた)が見つかっていないらしく、例の計画は発動していない。

 話がややこしくなりそうなので、家族は全員、メイを無視して話を続ける。

「お父様、私はローズと結婚したいと思っています。婚約(こんやく)の許可をください」

 その言葉を聞いたローズさんはものすごく恐縮(きょうしゅく)した様子(ようす)になり、(ちぢ)こまってしまって語り始めた。

「あの、その、領主様……。私はただの村娘(むらむすめ)なので、私ごときが将来の領主様の奥方(おくがた)様になれるとは思っていません。ですので、できれば、エスト様をあまり(しか)らないようにしていただけないでしょうか……」

 弁明(べんめい)するローズさんを見たエルクは、微笑(ほほえ)みを浮かべて、優しい口調(くちょう)になって語り始めた。

「ローズさん、私があなたに聞きたい事は二つだけです。最初の質問なのですが、あなたはエストの事が好きですか?」

「はい……。エスト様は強いのに、とても優しい方ですから。ただ、身分が……」

 少し(ほほ)を染めながら(うつむ)いて語るローズさんを見たエルクは、さらに優しくなった微笑(ほほえ)みを浮かべながら質問を続ける。

「では、次の質問です。ローズさん、あなたは私たちのエストと、心から結婚したいと思っていますか? 身分などは考えずに、正直(しょうじき)に心の内を聞かせてください」

「はい……。身の(ほど)知らずにも、そう思っています……」

 その返答を聞いたエルクは、一つ(うなず)き、きっぱりと言い切った。

「では、何の問題もありません」

 エルクはエストとローズさんを真っすぐに見つめ、少し居住(いず)まいを正してから、一人の父親としてではなく、領主として二人に婚約(こんやく)の許可を出した。

「領主として、二人の婚約(こんやく)を許可する。おめでとう。エストと二人で、幸せな家庭を(きず)きなさい。できれば、早めに初孫(はつまご)を見せてくれるとさらに(うれ)しい」

 その様子(ようす)を見たルースは、手を口に当ててクスクスと笑いながら語り掛ける。

「あなたは相変わらず気が早いですね。エストが生まれた時もそうでした。でも、私も孫の顔が見たいわ。エスト、ローズさん。私も二人を祝福します。ご婚約(こんやく)おめでとう」

 (なや)むそぶりも見せず、あっさりと婚約(こんやく)の許可を出したエルクやルースを見たローズさんは、とても(おどろ)いたような、あるいは、困惑(こんわく)したような顔になり、確認を取り始めた。

「あの、とても(うれ)しいのですが、そんなにあっさりと許可していただいて、本当によろしいのですか?」

 エルクは私の方へ視線を向け、家族を代表して返答する。

「そこにいる、ガイン家の初代様によると、我が家は自由(じゆう)恋愛(れんあい)家訓(かくん)らしいぞ? だから、本当に何の問題もない。心から愛しあえるもの同士であれば、反対する理由がない。それに我が家の家族は、全員、他の貴族たちが(きら)いだしな」

 そこまで語ったエルクはハッとしたような表情になり、エストに少し早口で語り掛ける。

「そうだ、エスト。ローズさんのご実家(じっか)はどこだ? こうしてはおれん。母さん、早速(さっそく)、ローズさんのご両親に挨拶(あいさつ)に行くぞ!」

 その様子(ようす)を見たルースは少し(あき)れた顔になり、エルクを止める。

「あなた、だから気が早いと言われるのですよ? いくらなんでも、領主様がいきなり押しかけたらご迷惑(めいわく)でしょう。まずはローズさんのご両親に(うかが)って、都合(つごう)のいい日を教えていただきませんと」

 ここで、ルースはエストに顔を向け、確認を始めた。

「ところで、エスト。ローズさんのご両親には、もう結婚の許可はいただいているのですよね?」

 エストは、少し(しぶ)い顔になりながら返答する。

「それが、お母様。ローズのご両親には、ローズさんをくださいと(すで)にお願いはしているのです。ただ、私と結婚できると、どうしても信じていただけなくて。私の家族なら反対しないと、かなり説得を続けたのですが。それでも、領主様の許可が下りるならと言っていただけたので、これからローズと二人で婚約(こんやく)の報告に(うかが)おうかと」

 確認して良かったですわと(うなず)いてから、ルースがエルクを(しか)りつける。

「それ見た事ですか。あなた、(あわ)てて押しかけなくて、本当に良かったですね?」

 メイを(のぞ)いた家族全員に、優しい笑いが巻き起こる。

 ちなみに、メイはずっと硬直(こうちょく)したままだ。

 大好きなお兄様がお嫁さんに取られるとでも思っているのかもしれないが、さすがに、反対するような事は口走っていない。

 お兄様のためを思って(だま)っていると、信じる事にする。

 決して、脳が処理能力の限界を超えてオーバーヒートしただけだとは、思わないようにする。

 その後の会話で判明した事だが、ローズさんはエストの一つ年上で、現在十九歳らしい。

(たしか日本の古い格言で、年上の女房(にょうぼう)(かね)草鞋(わらじ)()いてでも探せ、というものがありましたね)

 エストの大金星に、私はとても(うれ)しくなる。

 それから一年の婚約(こんやく)期間の後、十九歳になったエストと二十歳になったローズさんは、つつがなく結婚した。


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