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先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~  作者: 熊八
第四章 ガイン村

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第60話 エルクの横顔

 俺の名前はエルク。今年で三十九歳になるガイン村の領主だ。

 若い頃はいろいろとやんちゃもしていたが、さすがにこの年になると、かなり落ち着いてきたと思う。

 今でこそ、エルク・ウル・ガインなどという(えら)そうな名前がついているが、元は名前もないような辺境の村で生まれた、ただのエルクだった。

 そして、俺は幼馴染(おさななじみ)のルースにずっと恋をしていた。きっかけが何だったかなんて、もう覚えてもいない。

 それこそ、物心(ものごころ)がついた時には、もうルースの事が好きだった。

 だから、俺は積極的にルースとかかわろうとして、いつも遊びに(さそ)っていたものだ。

 同じ里で生まれた幼馴染(おさななじみ)たちは、そんな俺の恋心を知っていて、なるべくルースと二人きりになるように仕向(しむ)けられていた(ふし)があるぐらいだ。

 でも、肝心(かんじん)のルースだけが、俺の恋心に全く気づいてもいなかった。

 恋というものに無頓着(むとんちゃく)だったんだろうな。それでもかまわなかった。

 それなら、ルースは誰の事も好きにならない。だから、時間をかけてゆっくりとアピールしていけばいいと思っていた。

 それから何年かが()った時、ルースが初めて魔法を習うと、いきなり無詠唱(むえいしょう)で火種を出して村中を大騒(おおさわ)ぎにしていた。

 それを目にした俺は、内心で(あせ)りまくっていた。

 だって、そうだろう? ルースは魔導師だった。なら、いつかはこの村を出て、王国で攻撃魔法を習って活躍(かつやく)するようになるのは間違(まちが)いない。

 それから、俺は猛烈(もうれつ)に頭をひねった。ひねり続けた。そして、ある事に気づいた。

 ルースはやがて(すご)い魔導師になるだろうけれども、独りぼっちでは防御が薄くなるって事に。

 なら、俺がその防御の部分を(おぎな)ってやれば、自然とルースと二人で王国に行けるだろうと考えた。

 それからの俺は必死(ひっし)だったさ。

 自作した粗末(そまつ)な盾を背負ってひたすら走り込んだり、大人の魔物狩りに混ぜてもらったりした。

 そのかいあって、俺はルースと二人で王国へと旅立つ事に成功した。あの時はとても(うれ)しかった事を覚えている。

 そして、二人で意気揚々(いきようよう)と傭兵団に入った時、あいつに出会ったのだったな。

 そう、ヒデオだ。

 あいつは最初から優しいやつだった。

 なにせ、攻撃魔法を習うには大金(たいきん)が必要だって分かった時、あいつはさして(なや)むそぶりも見せずに、それを教えてくれるって言いだしたのだからな。

 しかも、金は(かせ)げるようになってからでいいという大盤振(おおばんぶ)()いだった。

 その後になって、友人として付き合い始めると、あいつはとてもいいやつだって事が、身に()みて分かったものだ。

 言葉遣いは丁寧(ていねい)で、いつも物腰(ものごし)(やわ)らかい。何より、誰に対しても優しい。

 だから、ルースがヒデオに()れてしまったのも、仕方(しかた)がない事だったのだろうな。

 あの頃、俺は完全に油断(ゆだん)していた。

 もう少しすれば、ルースも結婚を意識し始めるはずだ。だから、その時になれば、恋愛(れんあい)無頓着(むとんちゃく)なルースは一番身近な俺を選んでくれるはずだと、信じて(うたが)っていなかった。

 気づいた時には、もう完全に手遅(ておく)れになっていた。

 ルースはすっかりヒデオに首ったけになっていて、あの手この手で気を引こうとしていた。

 ヒデオもだんだんとルースに()かれていったのが分かってしまったので、ああ、これは勝負あったなって、俺は(あきら)めてしまっていた。

 でも、いつまで()っても求婚をしないヒデオに(ごう)()やしたルースが自分から求婚すると、あいつははっきりと言った。

 ルースを愛しているけれども、結婚はできないと。

 こいつはいったい何を言っているんだ? って正直(しょうじき)思ったさ。

 でも、その後の説明を聞いて、俺も納得(なっとく)できた。

 それからは、生まれて初めて経験した失恋(しつれん)にすっかり落ち込んでしまったルースを、ひたすら(なぐさ)め続けた。

 そうすると、いつの頃からか、ルースも俺の気持ちにやっと気づき始めてくれるようになった。

 そして、半年ほどが()った頃だったろうか。こう言ってくれた。

「もしかして、エルクは私の事が好きなの?」

 俺は(うなず)いて言ってやったさ。気づくのめっちゃおせーよって。

 そうしたら、こう言ってくれた。

「じゃあ、一生かけて私を幸せにしてくれる?」

 俺はそれを聞いた瞬間、その場に(ひざまず)いてルースの手を取っていた。

 そして、そのままの勢いで、俺と結婚してくれと言っていた。

 そうすると、ルースは少し(さみ)しそうな顔をしていたけれども、確かに(うなず)いてくれたんだ。

 ヒデオに未練(みれん)があったのだろうって気づいた。それでも、俺を選んでくれたのが、天にも(のぼ)るほど(うれ)しかったんだ。

 それから俺たちは結婚して、今では、二人の子宝(こだから)にも(めぐ)まれている。

 ヒデオの養子(ようし)になって、お貴族様にもなれた。

 振り返ってみると、俺の人生は波乱万丈(はらんばんじょう)だったけれども、後悔(こうかい)なんて全くしていない。

 むしろ、これからだって思っている。

 これから死ぬまで、ずっとルースと()()げる。そんな幸せに()ちた一生を、ルースと二人で送ってみせるさ。


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