第6話 魔力
スローライフでありながらも少しだけ充実した日々をすごしていくうちに二年が過ぎ、私はようやく待ち望んだ十歳になった。
ソワソワしっぱなしだった十歳の儀式もようやく終わりを迎えると、私は目の前で儀式を執り行っていた祭司長に詰め寄った。
「魔法を教えてください！！」
鼻息も荒くそう叫んだ私を見た里のみんなは、苦笑しながらも微笑ましいものを見る生暖かい目をしていた。
「まあ、落ち着くのじゃ。明日には教えるからの」
祭司長に、そう、宥められた。
明日が楽しみすぎて、ルンルン気分で寝床に収まりながらも、興奮してなかなか寝付けない夜をすごした。
そして待ち望んだ翌日。鼻歌でも歌いだしそうなぐらい上機嫌な私の対面に、祭司長がゆっくりと腰を下ろした。
「まずは魔力を感じる事からじゃ」
祭司長はそう言うと、私と両手を輪のように結んだ。
「何か感じたら教えよ」
私はゆっくりと目を閉じ、体の中に意識を集中させる。
しばらくすると、右手から何かが入ってくるような感覚があり、それが左手から出ていくようだ。
「何かが右手から入ってきて、それが左手から出ていくように思えます」
私がそう告げると、祭司長は少し微笑み、頷きながら告げた。
「それが魔力じゃ。やはりおぬしも先祖返りじゃな。里のものでも四半日ぐらいはかかるものなのじゃが」
そのまましばらくすると、流れが止まったように感じた。
「流れが止まったみたいです」
「よろしい。普通は何度かこれを繰り返すのじゃが、おぬしなら大丈夫じゃろう。手のひらを合わせて、それを一人でやってみよ」
手を合わせてやってみる。
すごく流れが悪いように感じるが、何とか流れてはいるらしい。
「ものすごく難しいですが、かろうじて流れてはいるようです」
私が正直にそう申告すると、祭司長はウンウンと何度か頷いてから教えてくれる。
「それで良い。後は自分でその感覚を磨き、もっと速く流れるように精進せよ。これが魔力制御の訓練の基本じゃ」
「はい！ ありがとうございます！！」
満面の笑顔で返答する私を、祭司長は終始、微笑みながら見ていた。
これが魔石作りに繋がり、やがては外での生活の収入源になる。
思い描いた人生設計が順調に進んでいると感じた私は、それからひたすら訓練を続けた。
テンションが上がりっぱなしの私は、寝る時間も食事の時間も惜しんで訓練に費やし、四日が経過した頃。
最初に比べると、かなりスムーズに流れるようになった気がする。確かな手ごたえを感じ、さらに訓練に熱を上げようと決意した時。
ふと気配を感じて顔を上げてみると、そこには、なんだか微笑ましいものを見るような、祭司長の生暖かい視線があった。
「祭司よ。嬉しいのは見て分かるが、やりすぎじゃ。今日はもう休め」
「えー、嫌です。もっとやります」
「そうか。素直に休むのなら、明日は魔石に魔力を込める方法を教えようと思っておったのじゃが、いらぬ世話じゃったようじゃの」
「やめます！ 今すぐやめます！ 今寝ます！！」
寝床に慌てて飛び込んだ私を見た祭司長は、カラカラと笑いながら告げた。
「では、また明日の」
