表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~  作者: 熊八
第四章 ガイン村

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/158

第55話 二代目領主エルク

 それから五年ほどが経過した頃。

 三十五歳になっていたエルクに家督(かとく)を譲り、領主を引退した。私は相談役となり、領主の業務の大半はエルクが引き継いでくれていた。

 今年で九歳になっていたエストは、今、領民と共に学校で勉強している。

 私もエルク夫婦も平民上がりであるため、特に気にしていないのだが、一般的には、貴族と平民が一緒に机を並べて勉強するのはありえないのだそうだ。

 ルースの産んだ第二子は女の子で、やはり、ルースによく似たかわいい顔をしている。

 メイと名付けられ、今四歳のかわいい(さか)りだ。この子はなぜか魔道具に興味があるようで、将来が楽しみだ。

 メイはあまり里の事に興味がなさそうだったが、エストのペンダントをとても(うらや)ましがったので、以下のように説明して説得していた。

「今度の里帰りの時にひいおばあ様にお願いして作ってもらいますので、それまで我慢(がまん)してもらえませんか?」

 その説明でようやくメイが機嫌(きげん)を直してくれたので、私は胸を()で下ろした。

 この村に来れば無料で読み書き計算が習えるという(うわさ)を聞きつけたようで、住民が少し増えていたのだが、農民用の畑の開墾(かいこん)がそれほどできていないため、あまり増えてはいない。

 私は領民に無駄(むだ)に重い労役(ろうえき)を課さなかったためだが、税が安くて暮らしやすいという評判にはなっていたようだ。

 この五年で増えた住人で、最も特筆(とくひつ)すべきは鍛冶屋だろう。

(魔道具制作のための鉄製品を、いちいちガルムの都市まで発注して輸送していたのでは、効率が悪いですよね)

 そのように考え、工房で(かせ)いだ金を利用して鍛冶屋の施設ごと屋敷(やしき)を建設し、ガルムの都市で募集をかけて来てもらっていた。

 この村の唯一(ゆいいつ)の鍛冶屋では、私の発注品の他にも農具の販売やメンテナンスも手掛けてくれており、村の生産性が少し向上したように感じている。

 ちなみに、ガルムの都市での悪評(あくひょう)が広まってしまってから領主として就任(しゅうにん)していたため、気分(きぶん)転換(てんかん)に狩りに出かけた時は、遠慮(えんりょ)なく魔法をぶっ放すようになっていた。

 里にいた時のように、空を飛んでいる鳥を魔法で叩き落す事もある。

 領主になってから十年が経過した今では、村人ともそれなりに(した)しくなっていて、私が狩りに出かけるとめったに食べられない鳥肉が食えるという事で、私からのいわゆる「先代様のお裾分(すそわ)け」が、(ひそ)かな楽しみになっているようだ。

(鳥肉と言えば(から)()げですよね? がすこんろも作りましたし)

 そのような安直(あんちょく)な発想のもと、(から)()げの再現を目指したのだが、これが思っていた以上にかなり苦労した。

 片栗(かたくり)()にあたるようなものがなかったため、(いも)からデンプンを抽出するところから始めなくてはならなかった。

 ちなみに、厳密(げんみつ)な意味での片栗(かたくり)()は、カタクリの花の球根から作る。ただ、成分的にはデンプンになるため、(いも)から抽出したものでも問題ない。

 試行(しこう)錯誤(さくご)()てようやく完成に()ぎつけていた(しお)(から)()げなのだが、やはり、和風の料理が増えてくると、米と醤油(しょうゆ)が欲しくなってしまう。

 米については、以下のように考えて、傭兵時代にかなり頑張(がんば)って探していた。

(サトウキビの栽培ができるほど温暖(おんだん)な地域であれば、水田くらいはあるはずです)

 しかし、どうやっても見つける事ができなかった。

 考えてみれば、前世での南ヨーロッパやアフリカ大陸の北部のような温暖(おんだん)な地域であっても、大規模な稲作(いなさく)はしていなかったように記憶している。

 もしかすると、気温的な要因以外にも必要な条件があるのかもしれないが、あいにくと私はそのあたりの知識を持ち合わせていないので、判断ができない。

(せめて、野生の原種の(いね)でも見つかれば、百年かけてでも品種改良しますのに)

 そのように考えているのだが、未だに、これはというものを発見できていない。

 醤油(しょうゆ)については、実のところ、開発に目途(めど)がついていた。

 味噌(みそ)を作る時に水分を多めにすると、上澄(うわず)み液が入手できる。これは、味噌(みそ)たまりと呼ばれていて、醤油(しょうゆ)の原型になったという説もあるものだ。

 しかし、一般的な醤油(しょうゆ)とは風味や味が異なっており、私はこれを、どうしても醤油(しょうゆ)として認められなかった。

 だが、答えは意外と身近に(ひそ)んでいた。(むぎ)(こうじ)がそのヒントになったのだ。

 私は知らなかった事なのだが、現代の醤油(しょうゆ)大豆(だいず)だけでなく、小麦も混ぜて発酵(はっこう)させて作っている。

 そして、味噌(みそ)を作る場合、本来であれば(こめ)(こうじ)を利用するのだが、この国では米が手に入らない。そこで、麦を使った(こうじ)を利用している。

 自家製の味噌(みそ)を仕込む時、手元を誤ってこの(むぎ)(こうじ)を大量に入れてしまっていた事があった。

 本当になんとなくではあったのだが、これをそのまま仕込んで味を確認する事にしてみると、いままでの味噌(みそ)たまりよりもかなり醤油(しょうゆ)に近くなっているように感じたのだ。

 実際、(きん)山寺(ざんじ)味噌(みそ)として知られている(むぎ)味噌(みそ)では、その底にたまっていた液体こそが醤油(しょうゆ)の原型だとする説もあるそうだ。

 この発見から、醤油(しょうゆ)作りには麦も必要だと気づけたため、今ではいろいろと配合比率等を変えながら実験を繰り返し、改良をしている最中だ。

 いつかは、醤油蔵(しょうゆぐら)も作ってこの地の特産品の一つにしたいと、ちょっとした野望を(いだ)いている。

 ちなみに、(から)()げには大量の食用油が必要になるため、家族には次のように説明している。

「これこそが、お貴族様だけが食べられる、お貴族様の料理ですよ」

 まあ、(うそ)は言っていないと思う。他のお貴族様が食べていないだけで、価格の関係で、我が家のお貴族様限定の料理になっているのだから。

 ちなみに、他には、みきさーの魔道具の利用方法として開発した、みーとすぱげってぃやはんばーぐも、我が家の人気料理になっている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ