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先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~  作者: 熊八
第四章 ガイン村

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第51話 領主

 魔物の氾濫(はんらん)が発生してから、二か月ほどが過ぎたある日。

 私は、今、初めて入った貴族街の中にある領主館の謁見(えっけん)の間で(ひざまず)き、黙って話を聞いている。

 あの氾濫(はんらん)の事を、激しい後悔(こうかい)と共に思い出しながら。

 魔物の氾濫(はんらん)そのものは、私の活躍(かつやく)もあって無事に撃退(げきたい)していた。しかし、森のかなりの部分が消失してしまっていた。

 私もすぐに消火(しょうか)していたため、大規模火災にこそなっていなかったが、それでも、森のかなりの部分が焼け野原になってしまっていた。

 その有様(ありさま)を目の前で見せつけられた傭兵や騎士たちは、私の事を、まるで化け物をみるような目つきで見ていた。

 私は、この時になって初めて祭司長の言いつけを破ってしまった事を理解し、激しく後悔(こうかい)した。

 ガルムの都市では私の所業(しょぎょう)がすぐに知れ渡るようになり、特徴的(とくちょうてき)な耳と相まって、「耳長(みみなが)の悪魔」と呼ばれるようになった。

 私は都市を歩いていても、誰にも話しかけられないようになった。

 私はお貴族様以上の腫物(はれもの)扱いになっていた。

 この都市でまともに私と会話してくれるのは、団長とエルクとルースだけだ。

 大事な親友の二人がもしいなければ、私はとっくに世捨て人になり、そのまま里に隠居(いんきょ)してしまっていただろう。

 それでも、そろそろ里に帰ろうかと思い始めた頃。

 私の自宅前に立派な装飾(そうしょく)の馬車が止まった。

 そこから出てきたお貴族様は領主様の使いを名乗り、私にその場で(ひざまず)くように命じた。

 そして、その口から伝えられたのは、領主様からの出頭命令だった。

 (なか)ばヤケクソぎみになりながら素直(すなお)に従い、現在、謁見(えっけん)の間で官僚(かんりょう)らしきお貴族様のありがたいお話を聞いている。

 この先に領主様が座っているらしいのだが、下賤(げせん)な平民程度では顔を見る事も許されず、ずっと頭は下げたままだ。

 語られている内容を簡単にまとめると、『いんふぇるの』の魔法式を開示する代わりに、下級貴族にしてやるというものだった。

「平民が下級とは言え正式な貴族になるのは前代(ぜんだい)未聞(みもん)の事であり、ましてや、異民族を貴族にする等、本来はありえない事なので感謝するように」

 そのように言われて、説明を()めくくられた。

 私にとっては全くありがたくもない、今回の魔物の氾濫(はんらん)における論功(ろんこう)行賞(こうしょう)も含めた「特別な褒美(ほうび)」をいただいた。

 直答(じきとう)をする事すら許されていなかったため、反論をする事もなく、黙って褒美(ほうび)とやらを受け取る。

 いんふぇるのの魔法は魔力をかなり大量に消費するため、おそらくは、ヒム族の魔術師程度であれば、まともに起動すらできないだろうという事を黙っていたのは、せめてもの抵抗だった。

 下手(へた)をすると起動途中で完全な魔力切れを起こしてしまい、命を落とす可能性すらあると思っていたが、それで処罰されるような事があったとしても、まあいいかぐらいに考えてしまっていた。

拷問(ごうもん)されて、無理やり魔法式を聞き出されるよりはマシですか)

 そのようにぼんやりと考えていた。

 下級貴族になったので、村を一つ領地としてくれるらしい。

 ガイン村というところで、ガルムの都市の北西部に三日ほど歩いた位置にあるようだ。

(それなら里の方向にも近いので、ちょくちょく里帰りできそうですね)

 これだけがありがたい点というか、救いだった。

 そして、私は、ヒデオ・ウル・ガインという名前の下級貴族になった。

 この「ウル」というのは英語で言うところの「of」のようなもので、ガインのヒデオさんという意味になる。

 これはしばらく後になってから分かった事になるのだが、このガイン村は、他の下級貴族が統治する村と比較するとかなり小さな村で、元々は、ガルムの都市の領主様の直轄地(ちょっかつち)になっていたらしい。

 なりたくもないお貴族様になった私だったが、居心地(いごこち)の悪くなったこの都市から逃げるようにして、自分の領地へと向かった。

 ガイン村は、特にこれといった特産品もない小さな村で、畑が広がる長閑(のどか)な村だった。

 さすがにガルムの都市の貴族街のような内壁こそなかったが、それでも、中央には村の規模からすると無駄(むだ)に広い代官(だいかん)屋敷(やしき)が建っていた。

 あれが私の領主館になるらしい。

 ちなみにこの(やかた)、入った時には無人だった。

 本来であれば、お手伝いをするメイドさんや業務を手伝う官僚(かんりょう)がいたらしいのだが、私には必要ないので気にしない。

 どうやら、平民上がりの異民族の半端(はんぱ)貴族(きぞく)に使える等ゴメンだ、という事らしい。みんな逃げてしまったようだ。

 特に新しい人生の目標もなかった私は、そのままこの村の領主を務める事になる。

 せめてもの意趣返(いしゅがえ)しに、少しでも村を発展させてやろうと思いながら。


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