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先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~  作者: 熊八
第三章 傭兵時代

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第46話 ルースの横顔

 私の名前はルース。

 王国の北東部に広がる自由国境地帯にある名前もない村の出身だよ。もしかすると、その村にも名前があったのかもしれないのだけれど、少なくとも、私とエルクは知らないんだよね。

 みんなも北東の辺境の村としか言ってなかったんだ。

 そんな田舎者(いなかもの)の私の唯一と言っていい自慢(じまん)が、無詠唱(むえいしょう)で魔法が使える事だったの。

 最初に生活魔法の火種の魔法を教わった時、なんとなくだけど、魔法式を(とな)えなくても使えるんじゃないかな? って思えたのよね。

 だから、頭の中で魔法式を組み立てて、発動のトリガーだけを(とな)えてみたら、できてしまったの。

 みんなとても(おどろ)いていたわ。

 でも、その時の私はまだ小さかったから、それがどれほど(めずら)しくて(すご)い事なのか、良く分かってなかったの。

 だけど、それから何年かすると、私にもその意味が分かるようになっていったわ。

 ううん、それだけじゃない。思いあがっていたって、今なら分かる。

 私はこんな辺境にいていい存在じゃないって、思うようになってしまっていたわ。

 それも仕方のない事だと思わない? だって、無詠唱(むえいしょう)で魔法が使えたとしても、あの村にいる限り、ずっと生活魔法にしか使い道がなかったのだからね。

 だから、私は成人したら王国へと旅をして、そこで攻撃魔法を教えてもらって、立派な魔導師として尊敬されるんだって(うたが)ってなかったの。

 そんな私の思いあがった目標に一番同意してくれたのが、(おな)い年のエルクだったわ。

「ルースが魔法で攻撃するなら、俺はその前で戦士として防御を担当してやるよ。俺が守ってやるから、安心して魔法が放てるようになるぜ!」

 そう言って、エルクは手作りした木の大盾(おおたて)背負(せお)って、走り込みをしている姿を良く見かけるようになったっけ。

 そして、その粗末(そまつ)な盾を(にぎ)りしめて、大人の魔物狩りに同行するようになっていったわ。

 ただ、いくら(きた)えても、そこは子供の体格でしかなかったの。

 だから、どうやっても、魔物の突進(とっしん)を正面から受け止める事が出来なかったみたい。

 でも、エルクは(あきら)めなかった。そして、あの、どんな大型の魔物の突進(とっしん)でも綺麗(きれい)に受け流してしまう技を身に着けたの。

 あれは(すご)いと私も思う。

 常に後ろの味方の位置を把握(はあく)して、味方の邪魔(じゃま)にならない、ちょうどいい位置に魔物を受け流して誘導(ゆうどう)してしまう。

 後ろで見ていてとても安心感があるの。

 それに比べて、私は完全に思いあがってしまっていたわ。

 大した訓練もせず、ただ無詠唱(むえいしょう)で魔法が使えるって事だけを自慢(じまん)している、ただの世間知(せけんし)らずでしかなかったわ。

 そして、いくつかの年を越えて、先にエルクが成人したわ。それから数か月遅れて私も成人したその日だったわね。

 私は根拠(こんきょ)のない自信だけを胸に、エルクと一緒(いっしょ)に村を出たわ。もちろん、安全を考えて、ちょうどその時に村に来ていた行商人の一行(いっこう)に混ぜてもらって旅をしたのだけれどね。

 王国にたどり着き、傭兵団に入団するまでは何の問題もなかったの。

 でも、入団手続きを終えて、何が得意かって聞かれた時になって初めて、自分の(おろ)かさと傲慢(ごうまん)さを思い知らされたの。

 エルクは何の問題もなかったわ。

 魔物の攻撃から後ろの味方を守るのが得意ですって言って、使い込まれた粗末(そまつ)な盾を(かか)げていたから。

 で、私の番になった時、私は得意(とくい)げに答えていたわ。無詠唱(むえいしょう)魔法(まほう)が使えますって。その時、受付のお姉さんがこう言ったの。

「では、どのような攻撃魔法が使えるのですか?」

 私はそこで、あれ? って思ったの。

 魔法式なんて、傭兵団の誰かに聞けば教えてもらえるって思っていたの。

 そう言ってみると、お姉さんに言われたのよ。そんな事はないって。

 そういう魔法式は財産になるので、結構(けっこう)な大金を支払って、魔術師に教えてもらわないといけないって。

 私は頭を(かか)える事になったわ。

 魔導師である私はすぐに簡単にお金が(かせ)げるって、信じて(うたが)ってなかったの。だから、そのまま傭兵団でお金を稼いだらいいって思っていたわ。

 でも、そのお金を稼ぐためには、先に大金を用意して攻撃魔法を教えてもらわなければならなかったの。

 私はこの時、自分の将来の見通しが全く立たない事を理解して、血の()が失せる思いをしたわ。

 そして、たぶんだけど、実際に私の顔は青ざめてしまっていたのだと思う。

 その時にあの人に出会ったの。

 ほんの数日前に入団したばかりだと言う、ヒデオにね。

 そのヒデオは、私の様子を見かねたのか、こう言ってくれたの。

「もしよければ、私が攻撃魔法を教えましょうか?」

 でも、私はお金を持っていないのって言うと、微笑(ほほえ)みながらこう提案してくれたわ。

「貸しにしておきますので、傭兵として稼げるようになってから、ゆっくりと返してくださればいいのですよ」

 私はその提案に飛びついたわ。だって、そうでしょう? 他に選択肢なんてなかったのだから。

 そうすると、ヒデオはちょっと不思議な事を言い始めたわね。

「では、明日、一般的な魔法式を()(ふだ)に書いて持って来ますね。明日のお昼前ごろに、ここでまた会いましょう」

 あれ? って思ったわ。あなたはその魔法式を覚えていないのって。

 そうすると、ちょっと苦笑しながら、なんでもない事のようにこう言ったの。

「いえ、覚えてはいるのですが、私の扱う魔法式は私の扱いやすいようにいろいろと改造していますので、ここの一般的なものとは異なっているのですよ」

 私は魔法式が改造できるなんて思ってもみなかったから、とてもびっくりしたわ。

 だから、思わず、そんな事ができるの? って聞き返してしまったの。

「ええ、できますよ。ルースも魔導師なのですから、魔法式の流れが理解できるはずです。ですから、すぐにできるようになりますよ」

 私はここで初めて、ヒデオも無詠唱(むえいしょう)魔法(まほう)が使える魔導師だって気づいたの。

 こんなに身近に他の魔導師がいるなんて、とても(おどろ)いたのだけれども、いつかはこの人を越えて見せるって、とてもやる気が出てきたのを覚えているわ。

 そして、翌日になると、ヒデオは約束通りに魔法式を書いた()(ふだ)を手渡してくれたわ。

 そこに書かれていたのは水槍(すいそう)多重水槍(たじゅうすいそう)の魔法式だったわね。同時に、魔力制御の訓練方法も教えてくれたわ。

 今になって思い返してみれば、あれは大盤振(おおばんぶ)()いだったと分かるわ。

 だけど、世間知(せけんし)らずだった私は、それが当たり前だと思ってしまっていたの。だから、大したお礼も言ってなかったわね。

 でも、ヒデオはそんな私の態度(たいど)にも、全く腹を立てた様子(ようす)もなかったわ。

 今でも思うけど、ヒデオはとても優しい人なんだわ。ヒデオが本気で怒っている姿なんて、誰も見た事がないぐらいだもの。

 実際に魔法を使ってみましょうって、ヒデオが言ってくれて、傭兵団の詰所(つめしょ)併設(へいせつ)されている訓練場に三人で向かったわ。

 そこで、私はなんとなく気になっていた事を聞いてみたの。なんでこの魔法なのって。

 そうしたら、丁寧(ていねい)に答えてくれたわ。

「『火球』ですと、森の中とかになると使えない場合があります。『風刃(ふうじん)』も便利なのですが、目には見えないので少々コツが必要になるのですよ。ですから、最も汎用性(はんようせい)が高いというのが理由ですね」

 それから何回か練習として、魔法式を詠唱(えいしょう)しながら発動してみたの。

 十回とちょっとだったかしら? それぐらい練習すると覚えられたので、試しに無詠唱でやってみるとあっさりできたのよね。

 そうすると、ヒデオはちょっと(おどろ)いた様子でこう言ってくれたわ。

「ルースは(すご)いですね。ヒム族でそこまであっさりと無詠唱で使えるなんて、まるで森アルク族のものみたいです」

 魔法の適正がとても高い事で有名な森アルク族に(たと)えられて、とても(うれ)しかったわ。

 それで気を良くしてしまって、それから本気で無詠唱(むえいしょう)で魔法を発動させてみたのだけれど、(おどろ)くほど射程が短くて愕然(がくぜん)としたわ。

 これじゃあ、魔物を倒そうと思ったら、かなり近づかないといけないって、本気で頭を(かか)えそうになったの。

 そんな私の様子(ようす)を見ていたヒデオが、とても優しい口調(くちょう)と顔で、こう説明を加えてくれたわ。

「魔力制御の訓練をした事がない状態で、この射程は素晴(すば)らしいですよ。これから訓練を継続していけばもっと射程が()びますので、気にする必要はありませんよ?」

 訓練したらどのくらいになれるのか見せてもらえない? ってお願いしてみると、ヒデオは嫌な顔一つせずに見せてくれたわ。

 その魔法は、3ベク(3.6メートル)くらい離れた場所の的に、二回ほど曲がってから着弾していたわね。

 私はこの技がどのくらい(すご)いものだったのか、全く理解していなかったわ。

 だって、しょうがないでしょう? ヒデオ以外の攻撃魔法を使える魔術師や魔導師を、この時はまだ知らなかったのだから。

 それからの私は、エルクと一緒(いっしょ)にしょっちゅう森へと出かけて、狩りをしてお金を(かせ)ぐようになったわ。

 私に付き合わせて悪いわね、ってエルクに言ってみたら、こう言ってくれたわね。

「俺も金をためて装備を一新したいから、気にするなよ」

 ヒデオに借金を少しでも早く返したかったから、これにはとても助けられたわ。

 でも、そのヒデオは、いつでも(かま)わないから無理だけはしないようにって言ってくれていたわね。本当に優しい人だよね。

 たまにだけど、ヒデオと一緒(いっしょ)に狩りに出かける日もあったの。

 その時、だんだんと()びていく私の魔法の射程を見ながら、ヒデオはいつだって()めてくれたわ。

「ルースは本当に(すご)いですね。とても魔法の才能がありますよ」

 その声がとても優しくて、だから私はヒデオにもっと()めてもらいたくて、それからも魔力制御の訓練を頑張(がんば)ったわ。

 そのかいもあって、私の魔法の腕はめきめきと上達していったの。

 いつの間にか、傭兵団の中でも、ヒデオに()ぐ魔法の実力者として認識されるようになっていったわ。

 ただ、なんとなくだけど、私は気づいていたわ。ヒデオは本当の実力を(かく)しているって。

 それは、もしかしたら、ヒデオの出自である森アルク族の秘密に()れるのかもしれないって思ったので、問いただすような事はさすがにしなかったけどね。

 そして、そう感じていたのは、間違っていなかったわ。

 二回だけだったけど、ヒデオはその実力の一端(いったん)を見せてくれたの。

 一回目は数か月ぐらい前だったわ。エルクとヒデオとの三人でいつものように狩りに出かけた時だったわ。

 その時、予兆(よちょう)もなく突然、右側の(しげ)みが()れたと思ったら、一角(いっかく)(ぐま)が飛び出してきたの。

 すぐ(そば)にエルクがいたので、その攻撃を受け止めてくれたわ。でも、私は尻もちをついてしまっていたの。

 エルクも体勢が(くず)れていたし、ヒデオはエルクの真後ろに立っていて、魔法が放てそうにもなかったの。

 これだと、次の一角(いっかく)(ぐま)の攻撃をエルクはその体で受け止めてしまうかもしれないって思えてしまって、私は青ざめてしまっていたわ。

 そうしたら、すぐにヒデオが多重水槍(たじゅうすいそう)の魔法のトリガーを(とな)えたの。私はびっくりして、思わずそちらを凝視(ぎょうし)してしまっていたわ。

 そして、恐怖したの。その位置からだと、間違いなくエルクに突き刺さってしまうって。

 思わず悲鳴を上げそうになった私だったけど、そこには信じられない光景が広がったわ。

 ヒデオが解き放った魔法は、そのまま大きく半円を(えが)くようにしてエルクを回り込んで、一角(いっかく)(ぐま)の頭に三発全部命中したの。

 いったい、どれくらいの訓練を積み重ねたらあの領域にたどり着けるのか、想像もできなかったわ。

 そして、二回目はもっと(すご)かったわ。

 ほんの一か月ほど前の事になるのだけれども、商人の護衛依頼を受けている時に、魔狼(まろう)()れに(おそ)い掛かられたの。

 その時、ヒデオが使った魔法がとんでもなかったの。

 これまで、噂話(うわさばなし)にすら聞いた事がなかったぐらいの範囲と威力(いりょく)だったわ。

 あれをまともに発動しようとすれば、どれほどの膨大(ぼうだい)な魔力と制御力が必要になってくるのか、全く見当もつかないわ。

 だけど、ヒデオはとても落ち込んだ顔をしていたの。

 一族の秘伝だって言っていたから、あれはむやみに人前で使ったらいけなかった魔法なのかもしれないわね。

 今までもヒデオにはお世話(せわ)になってきたけれど、なんだか一生ものの長い付き合いになりそうな気がしているわ。

 ヒデオはあんなに綺麗(きれい)な顔をしているのに、私と同様に、異性と付き合う事にあまり興味がなさそうなんだよね。

 その点は似たもの同士なのかもしれないわ。私もそっち方面の興味は薄いから。昔はそんなだから女らしくないんだなんて、悪口も言われていたの。

 でも、ヒデオは女性にモテるのよね。

 まあ、仕方がないわ。あの顔ですもの。女性の団員が熱い視線を送りまくっているのも(うなず)けるわ。

 でも、この気持ちはなんだろう?

 ヒデオが女の子にキャーキャー言われている姿を想像したら、なんだか胸がムカムカしてきたわ。

 ヒデオが悪いわけじゃないはずなのに、なんだかとっても頭にくる光景ね。

 森アルク族には美形が多いって(うわさ)があるけど、ヒデオを見ていたら納得(なっとく)するわ。とても色白で、(ととの)った顔立ちをしているもの。

 あれ? ヒデオの顔を思い浮かべていたら、なんだか顔が熱くなってきてしまったわ。

 これは何なのかしら。

 あれ? あれれ?

 なんだか胸もドキドキしてきたような……。

 あ……、待って。待ってよ。

 これが、もしかして恋というものなの? 私の初恋なの?

 ど、どど、どうしましょう?

 ここは深呼吸ね。落ち着く時にはこれが一番だって、ヒデオも言っていたもの。

 すー、は~。

 うん、少し落ち着いたわ。

 でも、ちょっと冷静になって考えてみたら、ヒデオって結婚相手として考えるなら、かなり理想的な相手になるのよね。

 ものすごい腕をもった魔導師だから、いつでも傭兵として簡単にお金を稼げるし、そもそも、傭兵になる前からお金持ちだったし。

 顔だって(すご)格好(かっこう)いいし、なにより、とっても優しいし……。

 あ……、また顔が熱くなってきたわ。深呼吸、深呼吸。

 ヒデオの事を良く考えてみると、これだけは言える事がはっきりしてきたわ。

 ヒデオが私以外のお嫁さんをもらってしまうのを、私は(だま)って見ている事ができそうにないって。

 だったら、しょうがないじゃない。

 私がヒデオのお嫁さんになるために、いろいろとこれから頑張(がんば)るしかないわ。

 ヒデオ、覚悟していてね。

 絶対にあなたを私に振り向かせて見せるわ。


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