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先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~  作者: 熊八
第二章 魔道具職人

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第40話 引退

 それから時が流れ、私がちょうど五十歳になっていた頃。

 六十歳になっていた親方が引退を表明した。当初の予定通りに私も同時に引退し、席を後進に(ゆず)った。

 あの時、親方と出会ってからもう二十年。すっかり()けた親方は、こう言って笑っていた。

「お前は寿命(じゅみょう)が長くていいな」

 先祖返りの秘密に()れる会話のように聞こえるかもしれないが、全く変化のない私の外見は、ヒム族の人たちから見れば(すで)にかなりおかしかった。

 今のところは森アルク族だから、で押し通してしまっているが、それがまかり通るのもあと十年ぐらいだろうか。そろそろ何らかの対策を考えないといけないかもしれない。

 あれから私が開発にかかわった魔道具は、「どらいやー」の魔道具だけだった。

 元々、同じような機能の熱風を吹き付ける魔道具は存在していた。ただ、壁に固定する大型のタイプになっていた。

 これも後進の育成だと考え、基本的なアイデアを出した後は、開発を後輩(こうはい)たちに任せていた。

 ウチの工房には小型化技術があるため、割と簡単に完成していた。ただ、出力の調整等のために魔法式を修正する部分についてだけは、魔導師である私が手掛(てが)けていた。

 この新しい魔道具は、私の記憶の中にあるドライヤーよりもかなり重たくなっていて、使いづらそうなものになっていた。

 だがそれでも、壁に固定されているタイプに比べると風向きが自由になる事から人気になり、がすおーぶん以来のヒット商品になっていた。

 この間に工房は二回目の引っ越しをしていて、かなり大きくなっている。そして、そのタイミングで私は借家(しゃくや)生活(せいかつ)をやめ、自宅を購入していた。

 独身貴族が広い家に住んでも持て余してしまうだろうと考え、収入の割には(せま)い家になっているが、我が城だ。

 私の自宅は、工房自慢の魔道具で(あふ)れていた。

 ボタンを押せば水やお湯が出て、お風呂も完備していた。

 お風呂用の給湯の魔道具は工房の技術力で小型化していたのだが、それでも少し(せま)い我が家にバスタブと同時に設置するのは簡単にできず、一部の壁を取り払って間取りを変更して無理やり詰め込んでいた。

「そこまでして風呂に入りたいのか?」

 周囲にはそのように言われていたのだが、もちろん入りたい。

(元日本人をなめないでください)

 お湯を扱う魔道具が巨大になってしまうのには理由がある。

 火を扱う魔道具があるので水を加熱する事は簡単なのだが、瞬間湯沸かし器にあたるようなものはなく、一定量の水を内部に確保してから温めているためだ。

 また、開発するつもりはなくても、ついつい(あら)たな家電の構想を考えてしまう。

(後はクーラーと冷蔵庫、冷やす系統ができたら欲しいですね)

 暖房(だんぼう)については、どらいやーの魔道具がある事から分かる通り、温風が出るものは(すで)にあったため、そのまま利用している。

 暖炉(だんろ)の代わりとして使われるもので、外見のイメージとしては、ごついファンヒーターだろうか。

 ちなみにだが、魔法で氷を作る事には成功している。

 どらいやーの魔法式等、温風を作る魔法式を解析している時に、命令セットの中から温度に関係しているものが判明したからだ。

 知的(ちてき)好奇心(こうきしん)から実験してみたところ、温度のコマンドのパラメーターをマイナス方向に指定する事でできたのだが、魔力効率が非常に悪かった。

 誰かにやってもらった事はないのだが、おそらくヒム族の魔力であれば、ごく少量しか作れないと思われる。

 もし、この魔法式を利用して氷の魔道具を作るのであれば、ご禁制の私の魔石が必要になってくるのではないだろうか。

 それでも温度を冷やす魔法式は、何かに応用ができそうだと考えている。

 引退した私はいったん里帰りをしていて、一か月ほどゆっくりと長期滞在をしてから今の自宅に帰っていた。

 一か月と言ったが、この王国にも一般的に使われている(こよみ)がある。

 一週間が六日で、五週間で一か月となる。つまり、一か月がきっちり三十日で、十二か月で一年となる。つまり、一年は三百六十日ちょうどになっている。

 元の世界の(こよみ)に非常に良く似ているが、一か月の長さ等から、おそらくは、月の()ち欠けを利用した太陰暦(たいいんれき)(もと)になっているのだろうと予測している。

 ちなみに、この惑星にも月がある。ただ、見た目の大きさが地球のものよりも二回りほどは小さくなっている。

 満ち欠けの周期が地球とほぼ同じである事から、月の公転軌道もほぼ同じになっているのではないかと考えられるため、単純に大きさが小さいのだろうと考えている。

 また、この(こよみ)は、割と季節がずれる。一年や二年であれば問題のない範囲なのだが、十年もすると一か月ほど季節がずれてしまう。

 このずれは、適当な時に閏月(うるうづき)が追加される事で調整されている。適当な時というのは、王様から命令されたら閏年(うるうどし)になる。

 まるまる一か月増える事から、十年でちょうど三十日ずれていると仮定すると、一年で三日ずれている計算になり、一年はだいたい三百六十三日ぐらいではないかと予想している。

 しばらくは何をするでもなく、のんびりと()らしていたのだが、そろそろ次の仕事を探す事にする。

 転職先はとっくに決めていた。傭兵団だ。

 (おとず)れた最初の都市でかなり長いこと(こし)を落ち着けてしまったが、もう十分すぎるほどお金は持っているし、いざとなれば手に職もあるので、魔道具職人としていつでも生活費は(かせ)げる。

(やっぱり、次は冒険がしたいですね)

 そのような思いを胸に、私は傭兵になった。


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