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先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~  作者: 熊八
第二章 魔道具職人

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第39話 イジェクト

 空を飛ぶための手段の模索(もさく)が完全に行き詰ったので、ここで(あら)たな魔法の開発に乗り出す事にした。

 その魔法として考えたのが『イジェクト』の魔法だ。空を飛ぶための反作用の魔法を応用して、緊急時に後ろに吹っ飛んで距離を(かせ)ぐためのもの。

 実は『フライ』の魔法開発のための実験場として、少し森の奥まったところに、例のネタ魔法、『ウォーターカッター』で木を伐採(ばっさい)し、切り倒した木と根っこは土魔法を駆使(くし)して()め、ちょっとした空き地を勝手に作っていた。

 そんな事をして大丈夫か? と思うかもしれないが、こちらの方向は自由国境地帯になるため、誰も所有していない土地になっているので全く問題にならない。

 そして、すぐに新魔法のプログラムを書き上げ、実験開始。

 後ろに吹っ飛ぶだけなら割と簡単にできた。

 だが、減速する方法を全く考えていなかった。実験場を突っ切って、背中から木に激突した。かなり痛い思いをしたが、めげずに実験を繰り返した。

 最初に行った変更は、(から)ループを追加してディレイタイムを調整し、時間差をつけて後ろにも風を吹き付け、減速する方法だった。

 何度も失敗を繰り返し、時には顔面から地面にダイブしながらも頑張(がんば)った。だが、これもやはり、姿勢(しせい)制御(せいぎょ)の問題で頓挫(とんざ)した。

 ならばどうするか? と考えを変えてみる事にした。

(何かクッションになるようなものを、作ってみたらいいのではないですかね?)

 そのように思い付き、開発したのが『エアクッション』の魔法。

 空気の密度を上げてやわらかい透明な壁を作り上げ、衝撃(しょうげき)(かん)()しようという構想で作り始めたものだ。

 しかし、空気の密度を単純に上げただけではクッションのようにならず、開発は難航(なんこう)していた。

 そこで、風盾の魔法を応用する事を思いついた。

 風盾の魔法は、展開している範囲に一定以上の運動エネルギーを持った物体が侵入すると、それに対して強い風を吹き付けて反撃するものだ。

 この性質を利用し、後ろの方向の少し離れた位置に展開しておき、反撃のための風を弱める事で目的を達成できた。

 当初に考えていたよりも広い範囲が必要になったが、無事に開発が成功した。まあ、結局のところ、傷だらけにはなったが。

 『イジェクト』と『エアクッション』の魔法を統合し、『イジェクト改』としてイベントハンドラに登録した。

 新魔法に納得できた私は仕事に戻った。

 だが、しばらくすると、この魔法の致命的(ちめいてき)な欠点に気づいた。

 この『イジェクト改』は例の反作用の魔法を利用しているため、吹っ飛ぶ際には前方に強い風が吹きつける。

(後ろに逃げるくらいですので、前方には敵がいるはずです。ですから、これも牽制(けんせい)になってちょうどいいですよね?)

 そのように呑気(のんき)に考えていたのだが、次のような場面を想定していない事実に思い至った。

(前に味方がいたらどうするのですか!)

 私は遠距離ファイターになるため、前方には壁役(かべやく)となる仲間がいる可能性がある。その状況(じょうきょう)でこの『イジェクト改』をぶっ放したら、味方を敵の方向にぶっ飛ばす。

 これはまずいと、オリジナルの反作用のない魔法を利用するように変更を加え、通常とは反対方向の自分に向かって風を吹き付けるように設計しなおした。

 何日かが経過する頃にはこの改良も終了し、『イジェクト改Ⅱ』として、イベントハンドラに登録しなおした。

 休日になるごとに森に出かけていき、翌日出勤してくると青あざを作っている私を見た同僚たちは、ものすごく不審そうな目で見ていた。

「いったい、何をしたらそうなるのだい?」

「魔法の改良をしています」

 このように説明していたので止められはしなかったが、休日にまで出かけて商品の魔法式を改良していると勘違(かんちが)いしていたので、かなり心苦しかった。

(我ながら、ものすごくアホな事をしていますね)

 私はつくづくと思った。

 ちなみに、私が里に持って帰ったヒデオモデルのがすこんろの魔道具は、祭司長が愛用してくれている。

 がすこんろの魔道具はかなりの小型軽量タイプになっているが、それでも、それを人力で十日も運ぶのは大変だ。

 そこで、アレンさんに教えてもらっていた自宅を(たず)ね、お金を払って馬車と荷車で里まで輸送してもらっていた。

 この時、アレンさんは五十七歳になっており、行商人は引退していて、息子のアルスさんが後を()いでいた。

 実は、このがすこんろの魔道具の魔力源として、ご禁制の私の魔石をセットしている。これは、交換不要のメンテナンスフリーを目指したためだ。

(そうしょっちゅうは里に帰れませんが、この魔石であれば、十年やそこらは稼働(かどう)を続けるはずです)

 里に王国のお貴族様なんか絶対に来ないと言い切れるし、ありえないとは思うが、もし何らかの方法で伝わったとしても、祭司長が作れるものなので、里で使う分には何の問題もないだろう。

 里のみんなは、(めずら)しそうにがすこんろの魔道具を見ていた。

 一年後に里帰りすると、祭司長は普通にがすこんろを使いこなしていた。だが、里のみんなは誰も欲しがらなかった。

 ただ、便利そうだなとは思ってもらえたらしい。超保守的なウチの里からすると、これだけでもかなり変化したと言えるだろう。

 文明の利器を使いこなしている祭司長を見た時、ぼんやりと次のように考えていた。

(そのうち、この小屋だけ家電製品で(あふ)れかえるのですかね?)

 この予想は、しばらく先で実現してしまう事になる。


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