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先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~  作者: 熊八
第二章 魔道具職人

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第31話 国家プロジェクト

 それからの私は、現代初となる電卓の魔道具の設計を始めていた。

 何日かが経過した後、概略(がいりゃく)となる設計図は出来上がった。その設計をしてみて判明した事だが、これは恐ろしく巨大なものになる。

 何十個もの光魔法の魔法式のプレートを用意し、それらとメインルーチンとなる本体の魔法式のプレートとを(つな)いでいく。

 もはや、フルタワーパソコンどころか、専用の小屋が必要なほどの巨大さになってしまっている。

 最初に考えた電卓の面影(おもかげ)は、ボタンの並びにしか残っていない。

(とりあえず、改良案の検討も(ふく)めて親方に相談してみましょう)

 私はそのように考え、意気揚々(いきようよう)と親方の元を(たず)ねた。

「親方、完全新作の魔道具の概略を仮設計してみました」

 私がそのように切り出すと、親方は少し怪訝(けげん)な表情になって(たず)ね返してきた。

「また、このあいだのセンプウキみたいな変なものじゃないだろうな?」

 それに対し、私は自信満々の様子(ようす)で返答をする。

「いえいえ、これは画期的(かっきてき)なものですよ? これがもし量産できれば、間違いなく世界が変わります」

 そして少し軽めに説明を開始してみると、だんだんと親方の顔が驚愕(きょうがく)に染まっていく。

(これはいけますかね?)

 ほくそ笑みながらプレゼンを続けていくと、親方はだんだんと疲れたような表情に変化していき、やがて長い溜息(ためいき)()き始めた。

「確かにこれは画期的(かっきてき)だ。まさに世界が変わる、歴史に残る大発明といってもいいだろう。画期的(かっきてき)過ぎて、もう驚き疲れた。だがな、これは作らん。いや、作れん」

 その意外な結論に、私は思わず、()頓狂(とんきょう)な声で聞き返してしまう。

「え? それはなぜですか」

「本当に分からないのか? 少しは原価ってものも考えろ、この馬鹿が……」

 そして、親方は少し(さと)すような雰囲気(ふんいき)になり、長い説明を始めた。

「複数の魔法式のプレートを連動させる技術は、現代だと失われてしまっているものだ。これができていたのは、古代魔法文明の出土品だけだ。これができる方法を思いついただけでも、歴史に名が残る大発見だがな」

 親方は最初に、私の設計のいいところを()めてくれた。そして、続けてこの魔道具の最大の問題点の指摘を始めた。

「大量の光の魔道具を配置するだけでも、恐ろしく高価になる。そして、大量のボタンが必要で、その上、それらを繋ぐ大量の銀線。ざっと見ただけでも、大金貨十枚や二十枚では収まらないだろうな。百枚、二百枚の単位だろう」

 長い溜息(ためいき)()きながら、親方は説明を続ける。

「そんな大金を研究に使える相手なんて、おそらく国ぐらいしかないぞ? だからな、このアイデアを実現させるためには、試作品だけで国が動かないといけないような規模が必要になってくる」

 親方はここで(いっ)(ぱく)をあけ、私の目を見ながらゆっくりと口を開く。

「つまりだな、これを試作しようと思ったら、お貴族様どころか国王様を説得しないといけないんだよ。平民の魔道具師の手には、とても()えないものだ」

 ここまで、私の設計した魔道具に否定的な意見を述べていた親方は、それでも最後は優しくいいところを()めて()めくくってくれた。

「ただ、これに使われているアイデアの数々は、歴史に残る大発明なのは間違いない。だから、アイデアだけ残して、別のものに応用しろ」

 そのまま頭ごなしに(しか)り飛ばす事もできただろうに、本当に優しい親方だ。顔はちょっと怖いが。

 ここまでの説明で私も納得できた。

 そして、内容が理解できると、私は思わずぶるっと(ふる)えてしまう。

 下級貴族でも簡単に首が飛ばせる権力があるのに、国王とか怖すぎて近寄りたくもない。

(巨額の資金が必要だろうとは、うすうす感じていましたけれども、まさかの国家プロジェクト級だとは思いもしませんでした……)

 私は心の中でそのように考え、この電卓のアイデアは、長い間封印される事になった。

 これらの思い付きが再び日の目をみるようになるのは、いろいろと基礎技術が発達した、ずっと後になっての事になる。


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